もぐもぐキューカンバー017
「嬉しいなぁ、私の為に、そんなに泣いてくださるんですね」
少女は笑う。
「だって、あんまりだろ。それじゃぁ、皿谷ちゃんが余りにも……」
声が震える、年上の威厳なんてものはもはやどうでもよかった。こんな小さな体躯で、到底身に余る不幸を不幸を背負った少女に、一体僕は何と声をかけてあげれるのだろうか。
「気にしないでください、アリクイさん。もう終わった事なんですよ。私達はもう終わってしまった者なんですよ。そして、貴方はこれから私たちを説得して退散させないといけないんです。そうやって平和になったこの街で、死んだ私たちの居ないこの街で、生きているあなたは、これからも生きていかないと行けないんですから。」
余りにも、余りにもじゃないか。
「だって皿谷ちゃん、君はもっと年相応に遊ぶべきだったんだ。友達も作って、恋人だって作ったって良かった、そうやって青春をして、思い出を作って。これまで降りかかった不幸なんて、忘れてしまうくらいに幸せになるべきだ!そうだろ!なんで、なんで……」
それでも、僕の今からやろうとしている事はそんな青春半ば、何も分からず未熟で散った彼女らに、残酷にお別れを告げる行為だった。
「なぁ、訝屋さん。彼女らを救う方法は無いのかよ!出してくれよ……専門家なんだろ……」
頼むよ、訝屋さん。
アリクイ君。と彼は肩に手を置く。
「ひとつだけ救いがあるとするなら、それは彼女らが納得してこの世を去ることだけだ。それ以上はないんだよ。河童はそういうタチの悪い怪異なんだ、わかるかいアリクイ君。分からないなら今回学ぶといい。」
セリフの割には優しい声色で彼は語る。
「もっとも、もう彼女らの方が覚悟が決まってるようだけどね」
ハッとして皿谷の方を見やる。傍には2人の人影と幼なじみがいる。辞めろ。辞めてくれ。
「アリクイさん、彼女達も好きだった人達に迷惑を掛けたくないみたいなんです。幼なじみさんからはとっても愛されてたんですね、少し妬けちゃいます。私だって彼女らと同じ気持ちなんですよ。今日まで私はただ死んで私が無意味に終わるのが怖かったんです。だから死にたくないって、何度も何度も何度も何度も願っちゃんたんですよ。でも」
今は違う。そう少女は言う。
「私が消えることによって、私の為に精一杯頑張ってくれたアリクイさんが、私の為にいっぱい泣いてくれたアリクイさんが、これからも平和にこの街で暮らせるんだったら。やっと私は意味のある死を迎えることができるんですよ」
そう言って彼女は僕が持ってる純白の球体へと手を伸ばした。
「辞めろ、待ってくれ皿谷」
少女に触れられるまいと身を呈して守ろうと屈み込む。そこに覆い被さるように皿谷 潜は僕の体を抱いた。とてもとても小さなその体で。
ピシッと亀裂が入る音がする。球体から光が溢れ出る。背中を通して感じていた皿谷 潜のその冷たい存在感が、徐々にと薄くなっていくのがわかる。頬を伝う涙をあの懐かしい手が拭ってくれた、そんな気がした。
「いっぱい悲しんでください。そしていっぱい幸せになってねくださいね」
少女の最後の一声は、幼なじみの声でもあった。




