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怪を喰む  作者: 毎日馬鹿
もぐもぐキューカンバー
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もぐもぐキューカンバー016

全部思い出しましたよ。こういったお話は得意ではないんですけど。それでも、アリクイさん。頑張って話すので、貴方に聞いて欲しいんです。良いでしょうか。

私は2つ隣の県に産まれました。何処にでもある一般家庭で、両親は共に警察官でした。優しい母親と逞しく面白い父親と幸せな暮らしを送っていました。母親が事件に巻き込まれ、大怪我を負ったんです。原因はたまたま現場に居合わせた私を庇ったからでした。丁度私の10歳の誕生日の日でした。母はそのまま帰ってきませんでした。貴方は悪くない、パパと2人でも頑張って生きて、最後の最後までやさしいお母さんでした。

母が亡くなってから、父は仕事に根詰めるようになりました。1人で家庭を守らないといけない責任感と、母が亡くなった喪失感を正面から受け止めてしまう人でした。そういうのを賢く受け流せるほど、お父さんは器用じゃなかったんです。徐々に徐々に憔悴していってるのが目に見えてわかりました。そうやって無理を続けた結果、お父さんは仕事も辞めました。お父さんには、もう何も残っていなかったんです。気づけば、毎日お酒を飲むようになっていました。日に日に酒量は増えて私が12歳を迎える頃には酔った勢いで暴力を振るう事が多くなっていました。でも誰かに相談なんて出来ないんですよ、私のせいなんですから。仕方ないと割り切って殴られつづけて、アザが隠せなくなって来たあたりで学校を辞めました。それから数ヶ月、私はなんのために生きているのかわからなくなってしまいました。腕を切りつけて滲む痛みは、生の実感はくれますが存在意義は与えてくれませんでした。

そんなある日、嫌に機嫌のいい父に出かけようと言われたんです。隣町の山へ登山に行こうと。よく母と3人でハイキングに出かけた山でした。どれだけ殴られて荒んでも、いつか昔の父が戻ってきてくれると私は本気で信じてたんですよ。すごく嬉しかったんですよ。

父は登山中も酒を飲んでいました。止めれば怒鳴られるので、私は何も言えませんでした。意気揚々と登って山頂では一緒に写真を撮ったのに、帰り道で疲れてきたお父さんは明らかに機嫌が悪くなっていました。今日もこのまま小一時間怒鳴りつけられ殴られて、それで終わると思ったんです。でもその日は違いました。疲労で酒が回るのが早かったんでしょう、加減もいつもより出来てませんでしたし、だから私の首を締めてそのまま。苦しくて、怖くて。爪を立てても、父の腕はびくともしませんでした。私は、生きたい、と確かに思ったんです。どうしようもない死の淵で、願ったんですよ。そこで私の意識は途切れました。

しかし私はまた目覚めました。小さな石の上で半透明な体で、林道を通る登山者は誰も私に気づいてくれず、幽霊みたいな存在になったのだと理解するまでにそう時間はかかりませんでした。このちっぽけな石が私の墓石なのだと。この下に私が埋まっているのだと。

ただ学校を辞めてから家にひきこもっていた私にとっては、退屈な日々なんて日常生活でしたから、これといって不快はありませんでした。むしろ小鳥のさえずりを聞き、雨音を聞き、木漏れ日に目を細める生活は、今思えば幼少期のハイキングで感じた幸せをリプレイしてくれるようで、懐かしかったんですよ。もう戻れないんですけどね。

そうやって季節がいくつか回った春の日の大雨。土砂崩れが起きて私の居場所は、またいとも容易く壊されてしまいました。水に打ち付けられ、土石流に揉みくちゃにされて初めて自分がものに触れることに気づきました。だから、あの日あの土砂に巻き込まれた3人の女の子に手を伸ばしてしまったんです。

結果的にそれは、死ぬはずだった彼女たちを不完全な眷属へと変えてしまいました。しかも彼女らは無意識に、生前親しかった人達が河川敷を訪れると吸い寄せられるように動いてしまいます。寂しかったんでしょう。彼女らには心配してくれる仲間も家族も沢山いました。

私は自分のやってしまったことを責めました。責めて責めて責めて責めて、気づけば「私さえいなければ」奇しくも父が最後に私に投げかけた《お前さえいなければ》と被って。親子って、似るものなんですね。

私は、他人に害を加えない、無力な自分になりたかったんですよ。泣き疲れて眠った、ある日でした。目が覚めると、私は白い玉を抱いていました。何もかも抜け落ちていて、不思議とスッキリした目覚めでした。記憶はもう抜け落ち水中では息すらできなくなっていましたが、何となくこの球体とは距離を置いておきたくて、私が巻き込んでしまったお姉さんたちに手伝ってもらいアソコに置いたんです。

これが、私皿谷 潜のつまらない人生の話です。

そんな悲しそうな顔しないでくださいよ。アリクイさん。

それでも。こんな私に優しく、そして頑張ってくれた今日の1日は。本当に楽しかったですよ、アリクイさん。

虐待を受けた2年間も。

ひとりぼっちだった3年間も。

怪異になってしまった1年間も。

全部、今日のためだったんじゃないかって。

そう思えてしまうくらい、


私は嬉しかったんですよ。

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