もぐもぐキューカンバー014
交渉。手始めに僕らは岸へあげてもらった。両者共につい先程まで殺しあっていとは思えないほど、それは円滑に進行し、この手中にある球体がそれほどまでにこの件の鍵なのだと痛感する。
「さぁ、後はこれを叩き壊すだけで彼女らは〝全員〟霧散して、めでたしめでたしだ。」
訝屋は川から上がるや否や、黒い人影に取り押さえられる。冗談は通じる相手にしか言ってはいけないのだと、彼には今回そういった教訓を持ち帰ってもらいたい。
「冗談だからさ、頼むよ。離してくれよ。俺はMな趣味なんてないんだから」
うつ向けに取り押さえら、ものの僅かで人影2体に馬乗りだ。1体は仕留めたと思っていたのだけれど、人影の動きは弱る素振りすら見えなかった。そんな様子を呆れながらも、僕は手持ち無沙汰で球体を両手で転がしながらその様子を見ていた。見れば見るほどに吸い込まれそうな球体である。
「あの……。アリクイさん……。」
袖が引っ張られ後ろを見やると、赤面した皿谷ちゃんが上目遣いにこちらを見ていた。瞳は少し潤んでいる、可愛らしく嗜虐心をそそられるその姿。劣情を刺激される。幼なじみの手に頬を抓られる。
「あんまりそれ……弄らないで……」
手のひらで転がしていたソレを指さす。なるほど、なるほど、これはその、アレみたいだな。
「アリクイ君それは彼女の尻子玉なんだ、あんまり虐めてやるなよ。遠〇ロータープレイ身があるなんて思っちゃいけないからね、彼女はピチピチの13歳のままなんだから、いたたた」
みなまで言うなよ、と。
しかし、彼女の体の1部なのだろう。それもとても重要な部分で、人間で言えば心臓に近いとの事だった。配慮に欠けていたと謝り、両手で大事に握る。
「それで……依さん、ここから僕らはどうするべきなんでしょうか。専門家であるあなたの知恵を借りたいです。お願いします」
知恵を借りたい、ときたか。そう彼は言ってニヤける。
「いい言葉だ、これは俺じゃなくて少年が決めるといい。俺の生殺与奪の権は人影が、そして河童ーズの生殺与奪の権利は君のその手の中にあるんだからね」
僕が選択し、責任を取れという。
じゃぁアリクイ君が気づいて無さそうな所から、掻い摘んで話してあげようか。と訝屋は語り始めた。
「第1に皿谷潜は河童だ。でも、その河童性の殆どをこの尻子玉に込めてある。さしずめ危険視した専門家の誰かが封印したんじゃないかな。今の皿谷ちゃんは水の中で呼吸すらできない、そして殆どの記憶も多分この尻子玉の方に持っていかれてる。今はほぼ無力な存在だと言ってもいい。
そして第2に、俺は河童は必ず消し去るつもりだ。君の幼なじみちゃんも含めそこの4人は危険でしかない。今は意思疎通が図れてるだろうけれど、河童の本質は川へ引き込み新しい仲間を増やすことにある。無意識なんだよ、河川敷で起きた川へ引かれる事故は、彼女らじゃどうしようもない本質の部分なんだから。そしてその被害に遭うのは、君みたいに生前親しかった人間たちだ。皿谷ちゃんはこの地域の人間じゃないけれど、そこの3人の知り合いってだけで範囲は相当広くなる。そのうちまた彼女たちが原因で新しい河童になる人間が出てきてしまうだろうね。」
訝屋は淡々と語る、人影も皿谷ちゃんも理解はしていたのだろうそれらに驚くことはなかった。
「そして今回の元凶は、皿谷潜、この子だ。4年前に亡くなった彼女は、何らかの理由で1年前、この川に河童として現れた。そして彼女は運悪く1年前にそこにいた3人を引き込み、水死体へと変えてしまった。オリジナルと眷属みたいな関係かな。それでも眷属を作るのが下手くそだったみたいで、体の1部だったり欠損だったり、魂が欠けてるから彼女ら不安定だ」
あぁ、だから。《チョウチンアンコウと提灯、その逆》だったのか。皿谷潜は僕を川へ誘い込み、僕と縁の強かった幼なじみが僕の手を引いた。何処までが無意識だったのか、怪異と成り果てた彼女らにどれだけの意識が残っているのか、判るよしも無いのだけれど。
「そして、その尻子玉だね。これを皿谷ちゃんに戻すと皿谷ちゃんは完全な存在の河童になってしまう。さっき俺とアリクイ君はそこの不完全な出来損ないの眷属に再起不能にされたんだ、考えるだけでもゾッとするね。眷属3人の親族友人知人全て引き込まれるのも皿谷ちゃんの気分ひとつになってしまう。そんな驚いた顔するなよアリクイ君、河童ってのは水神が落ちた姿なんて言われてるんだぜ。神だ、有象無象な都市伝説なんかとはわけが違うんだよ。僕らが今相対してるのはそういう存在なんだよ」
でも、それが今や君の手のひらの上だ。そう訝屋は語る。
「さぁ知恵は出した。選んで責任を取りなよアリクイ君」
その尻子玉を今すぐ叩き割ってこの子達を無に帰すか、それともこれから起こるこの街を水死体の山にするか。選べよ少年。そう訝屋は僕に問うた。




