もぐもぐキューカンバー014
交渉は、驚くほど円滑だった。
まず最初に、僕らは岸へ上げられた。両者とも、つい先程まで殺し合っていたとは思えないほどに順調に進む。
この手中にある球体は、それほどまでにこの件の鍵なのだと痛感した。
「さぁ、後はこれを叩き壊すだけで彼女らは〝全員〟霧散して、めでたしめでたしだ。」
訝屋さんは川から上がった瞬間、黒い人影たちに取り押さえられた。
冗談は通じる相手にしか言ってはいけないのだと、彼には今回そういった教訓を持ち帰ってもらいたい。
「冗談だからさ、頼むよ。離してくれよ。俺はマゾ趣味なんてないんだから」
うつ伏せに取り押さえられたまま、ものの数秒で人影2体に馬乗りにされている。
1体は仕留めたと思っていたのだけれど、人影の動きは弱る素振りすら見えなかった。
怪異の異常性に慄きながら、訝屋の行動に呆れながら、僕は手持ち無沙汰で球体を両手で転がしながらその様子を見ていた。
しかし、見れば見るほどに吸い込まれそうな球体である。
「あの……。アリクイさん……。」
袖が引かれ後ろを見やると、赤面した皿谷ちゃんが上目遣いにこちらを見ていた。瞳は少し潤んでいる。可愛らしく嗜虐心をそそられるその姿。劣情を刺激される。
幼なじみの手に頬を抓られる。
「あんまりそれ……弄らないで……」
手のひらで転がしていたソレを指さす。
「アリクイ君それは彼女の尻子玉なんだ、あんまり虐めてやるなよ。本人が恥ずかしがってる」
彼女の体の1部なのだろう。それもとても重要な部分で、人間で言えば心臓に近いとの事だった。
配慮に欠けていたと謝り、両手で大事に握る。
「それで……依さん、ここから僕らはどうするべきなんでしょうか。専門家であるあなたの知恵を借りたいです。お願いします」
知恵を借りたい、ときたか。
そう彼は言ってニヤける。
「いい言葉だ、これは俺じゃなくて少年が決めるといい。俺の生殺与奪の権は人影が、そして河童ーズの生殺与奪の権利は君のその手の中にあるんだからね」
僕が選択し、
責任を取れという。
じゃぁアリクイ君が気づいて無さそうな所から、掻い摘んで話してあげようか。
そういって訝屋は語り始めた。
「まず皿谷ちゃんから話そうか。
彼女は水死体で、河童だ。
でも、その河童性の殆どをこの尻子玉に込めてある。
さしずめ危険視した専門家の誰かが封印したんじゃないかな。
だから、今の皿谷ちゃんは河童ですらない。
水の中で息も出来ない。そして殆どの記憶も多分この尻子玉の方に持っていかれてる。今は無力な存在だと言ってもいい。
そして、俺は河童は必ず消し去るつもりだ。
君の幼なじみちゃんも含め、そこの4人は危険でしかない。今は意思疎通が図れてると思うだろうけど、河童は人を川へ引き込むんだよ。
仲間を増やすために。
無意識なんだよ、河川敷で起きた川へ引かれる事故は、彼女らじゃどうしようもない本質の部分なんだから。
真っ先に狙われるのは、生前、近しかった人間だ。皿谷ちゃんはこの地域の人間じゃないけれど、そこの3人の知り合いってだけで範囲は相当広くなる。
そのうちまた、彼女たちが原因で新しい河童になる人間が出てきてしまうだろうね。」
訝屋は淡々と語る、
人影も、皿谷ちゃんも、理解はしていたのだろう。それらに驚くことはなかった。
「そして今回の元凶は、皿谷潜、この子だ。
4年前に亡くなった彼女は、何らかの理由で1年前、この川に河童として現れた。
そして彼女は運悪く1年前にそこにいた3人を引き込み、水死体へと変えてしまった。
オリジナルと眷属みたいな関係かな。
それでも眷属を作るのが下手くそだったみたいで、体の1部だけだったり、欠損だったり、魂が欠けてるから彼女らは不安定だ」
皿谷潜は僕を川へ誘い込み、僕と縁の強かった幼なじみが僕の手を引いた。
何処までが無意識だったのか、怪異と成り果てた彼女らにどれだけの意識が残っているのか、判るよしも無いのだけれど。
「そして、その尻子玉だ。
これを皿谷ちゃんに戻すと、
皿谷ちゃんは完全な存在の河童になってしまう。
さっき俺とアリクイ君はそこの不完全な出来損ないの眷属に再起不能にされたんだ、考えるだけでもゾッとするね。
被害は連鎖する。友達。家族。恋人。知ってる顔から順番にね。そんな驚いた顔するなよアリクイ君、河童ってのは水神が落ちた姿なんて言われてるんだぜ。
神だ、
有象無象な都市伝説なんかとはわけが違うんだよ。
僕らが今相対してるのはそういう存在だ」
でも、それが今や君の手のひらの上だ。そう訝屋は語る。
「さぁ知恵は出した。選んで責任を取りなよアリクイ君」
その尻子玉を今すぐ叩き割ってこの子達を無に帰すか、
それともこれから起こるこの街を水死体の山にするか。
選べよ少年。
訝屋さんは、ただ僕を見ていた。
少しでも続きが気になれば、ブックマークや評価を頂けると励みになります。




