もぐもぐキューカンバー012
結局僕は幼なじみも、そして皿谷潜も救うことは出来なかった。
2人とも、僕の手が出せない時間や場所で亡くなっていたのだから。
元々救うなんて、出来るわけがなかった。
いつだって間が悪く、力不足。
いつだって僕は無力だ。
それでも……。
《わたしは救われましたよ》
皿谷 潜のあの言葉が反芻する。
《救うなら最後までね》
訝屋 依のあの言葉が反芻する。
訝屋 依は収集家だと名乗った。怪異の専門家であると名乗った。
そして河童を退治すると、
そう言った。
このままであれば、それがどういう意味を指すのか素人の僕には分からない。
それでも、皿谷 潜が救われるとは到底思えなかった。
仕事に対する訝屋の態度に、冗談はなかった。
無力感を噛み締める。
僕が駆けつけたところで事態は変わらないのかもしれない。
それでも。
もう、何も出来なかったと後悔するのは、ごめんだ。
公民館を後にする。
意を決して、覚悟を決めて立ち上がった手前格好がつかないが、ここで近隣住民に見つかる訳には行かず、そそくさと裏口から出た。
すっかりオレンジに染まってしまった街を駆ける。
皿谷 潜が向かった先も、訝屋 依が向かった先も分からなかったが、それでもあの場所だと確信があった。
何故なら、皿谷 潜は怪異であるのだから。
河川敷に到着する。
推測が正しければ、ここで訝屋が皿谷 潜と幼なじみを退治しようとしているはずだ。
場所はここ以外にない、
何故なら、
彼女らは河童であり水死体なのだから。
見つけた。
岩場の陰にそれはあった。
「遅かったじゃないかアリクイ君」
「訝屋さん……」
「だから、ヨリでいいって」
間に合わなかった。
訝屋さんは、黒い手に片足を掴まれたまま逆さに吊られていた。着ていたスウェットは破れ、血が滲んでいた。周囲には御札が散乱している。
皿谷潜は彼の横で蹲っていた。
そして、
2つの漆黒の人影が2人を挟むように立っている。
片側は左腕と顔面の半分が、もう片方は下腹部に大きな穴が空いていた。
「いやぁ、まずっちゃった。行方不明者の2人も河童になってるとはね。……そんな簡単に怪異になんてなるはず無いんだけどな」
去年、一緒に流された2人だった。
彼女らの遺体は一部しか見つからなかった。だから、右手だけの幼なじみとは違い、ほぼ完全な状態で今僕の目の前に立ちはだかっている。
「元々武闘派じゃないんだよ。痛ェ痛ェ。なれないことはやるもんじゃないね。ここからは君の出番だよアリクイ君、じゃないとこのままだと俺も君も尻子玉抜かれて、この川の贄だ」
軽口を叩く彼は、肩呼吸をするほどに満身創痍に見えた。
それでも、彼はまだあの目をしている。
仕事に対峙する時の、冷静で真剣なあの目を。
訝屋さんが視線だけを動かす。その先には、御札の巻かれた金属バットが落ちていた。訝屋さえ解放出来れば、状況は打開できるはずだ。
皿谷 潜は小さな声でブツブツと何かを必死で呟いている。動いてくる様子は無さそうだった。
黒い手も訝屋を釣り上げていて動く様子はない。それなら、対峙するべきは黒い人影。2対1やってみるだけはあるだろう。
黒い人影へ目掛けて、靴を飛ばす。
咄嗟の出来事に怯んだ。それで十分だった。
バットを拾い一気に距離を詰める。訝屋の横に構えた人影へ大きくぶった。
水死体の怪異、彼女らが河童であるとするならば。
弱点はここしかない。
元は、人間だ。
なら頭を潰されて平気なはずがない。
そう信じて人影の脳天に一撃をお見舞いする。ドカっと、鈍い音とともに金属音のような断末魔が木霊する。
手応えはあった。
「ガッ」
脇腹に強烈な衝撃を貰い宙を舞う、
もう1体が放った蹴りをマトモに受けてしまったようだった。
そのまま川へ自由落下し、視界が歪む。
黒い手が追い討ちをかけるように僕の腕を掴んだ。
つまり、訝屋は解放できたに違いない。
安心するまもなく僕は河底へと引きずり込まれる。
もうダメだと思った。
それでも。
今度は、間に合った。
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