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第25話 挑戦の為の土台

2022年6月 Vandits garage <冴木 和馬>

 個室型会議室の使用予定が入っていなかったので、常藤さんと二人でゆっくりと話をする事にした。お互いに最近は非常に忙しく、以前のように定期的に様々な共有をする為の時間が持てなくなっていたからだ。

 話の内容はあっちへこっちへと定まりが無い状態で色々と話すのだが、ほとんどは今後の会社としての方向性を決めていく内容になっている。


 「お二人ももし適任者がいないのなら声をかけて欲しいとも言っていましたが。(常藤)」

 「そうなんですよね。今後の会社の事を考えればそろそろとは思っているんですが、お二人にそう言った面でご迷惑をおかけして良いものか悩んでまして。」


 話し合っているのは(株)デポルト・ファミリアの社外取締役選任の話だ。今、デポルト・ファミリアは非公開株式なのだが、今後上場を考えていくならば社外取締役を設けなければならなくなる。

 現在、デポルト・ファミリアの株主は常藤さんや俺も含め58名。その中で大口の株主となっているのが、俺と笹見正樹さん・徳蔵さん・真鍋薫さん・宇城慶太さん、そして常藤さんだ。この六名でおよそ62%の株式を保有している。徳蔵さんは既に笹見建設を勇退されているが、形だけを見れば笹見建設がうちの筆頭株主と言っても過言ではない。


 まぁ、今後の上場とは言ってもグロース市場への上場を目指したとしてもまだまだ上場する為の条件は満たせていないので、話は現実的ではないのだがその為の体制作りは数年をかけてやっていかなければならない。

 そんな中で徳蔵さんと真鍋さんがデポルトの社外取締役を引き受けて下さる話を内内で話してくれた。この事も今後、間違いなく決定していかなければならない事なので俺と常藤さんの中だけでも意思は統一しておかなければいけない事だった。ただ今の所、お二人以外の適任者は見当たらない為、恐らくその時にはお願いする形になるだろう。


 「喜田村氏より詳細が届きました。来月からこちらへ来られるそうなので、ご迷惑をおかけしますとの事でした。」

 「いやいや、行動早いですね。助かりますけど。」


 タイのクラブチーム運営に携わるRCOの担当者数名のうち2名が来月から(株)Vanditsでクラブ運営の流れを勉強する為に異業種交流と言う形で働いていただく事になった。恐らくこれが公になれば、耳の早い投資家の中ではRCOがどこかのクラブの買収を計画していて、その為に経営者の親族でもある真鍋さんの繋がりでうちにノウハウを学びに来ているとバレバレになってしまう訳ですが、まぁバレてしまった所でマズい事も何も無いので、うちとしてはマスコミへの対策をしっかりと考えておく事くらいでしょうか。


 うちも中堀と立花、長谷川の3名がタイ現地で働いて貰うメンバーになっている。中堀が指導者として、サポート部の立花知恵が現地通訳として、強化部の長谷川幸也がトレーナーとして働く事になっている。

 これも意外にあっさりと決まった。全体ミーティングでRCOさんとの共同運営の話をして現地で働きたい社員がいれば立候補も構わないとしたうえで、現地スタッフの選定に入っていたが、この3名が立て続けに立候補をしてくれた。


 立花くんは海外での勤務も経験してみたいと一番に手をあげてくれた。中堀と長谷川に関しては育成世代の指導を任せている事もあり、より厳しい環境での経験を積みたいと手を挙げてくれた。

 ここがあっさりと決まってくれた事で、話は非常に早く進んでくれている。中堀と長谷川は立花くんとその他に社員の中でタイ語の話せる社員にタイ語のレクチャーを受けながら、自身でも外国語教室に通い出したそうだ。準備期間は一年弱、少しは話せるようになるだろう。


 「そう言えば蒼星学園の教員採用試験ですが、思いのほか応募が多いらしく、かなり好印象のようですよ。各教科ごとの募集もかなり少ないにも関わらず、問題なく全教科の採用は見込めそうだと仰ってました。(常藤)」

 「やはり独自性がある学校だったからでしょうか?」

 「それもあるかも知れませんね。特に日本建築科と普通科の教員、特に情報処理系の指導経験のある方の応募が特に多かったそうです。」


 やはりeスポーツの部活を明言しているし、普通科の授業の中にプログラミングと情報解析・処理の講義を入れる予定にしてあるのが大きな要因だろうな。

 日本建築科は当初は木工建築科とするはずだった。しかし、理事会で話し合われた結果、日本建築科と言う名前が良いだろうと言う事になった。


 「全てが順調なだけに色々と手を出し過ぎている感があるのも個人的には心配ですね。(和馬)」

 「お気持ち分かります。私としてもクラブ買収があと二年遅ければと思いますが、このような機会はそうそう訪れるものではありません。」

 「そうなんですよね。しかし共同運営でこちらのリスクがかなり少ない状態で始められるのは非常に大きいですね。」

 「そう言えば話は変わりますが、和馬さん。笹見さんから送られてきたホテルのイメージ画、見られましたか?」

 「いえ、申し訳ない。来てたんですね。見れますか?」

 「少しお待ちください。」


 常藤さんは部屋の外へ顔を出し、誰かに指示している。しばらくすると富田くんがノートPCをこちらへ持ってくる。モニターを操作する為だ。

 モニターに映しだされたイメージ画に、俺は完全に目を奪われ呆気にとられた。


 和洋折衷と言う言葉が合っているのかは分からない。ただロビーラウンジの納まる玄関ホールの外観は見事な日本邸宅の門構えだ。行ってみれば....そう、大名屋敷のような趣がある。


 「こちらがそれぞれのイメージ画に対するメモになります。」


 そう言って何枚かの用紙を渡される。びっしりと書かれたメモには、どのようなイメージの建物なのか、この建材は何を使用するか、本当に設計者の想いが伝わるメモだ。


 ロビーラウンジのイメージはやはり大名屋敷をイメージした和の世界。メモには奈半利町と安田町にある蔵と明治時代に建てられた純和風の屋敷を移設・改築し、芸西村にある古民家2棟の計4棟の建材を再利用して建築する予定だと言う。


 二枚目はホテルの敷地全体を空中から見下ろしたような外観のイメージ図。大名屋敷のようなロビーラウンジの建物の後ろには和モダンな四階建ての四角い大きな建物がありその更に後ろに10階建ての恐らくホテル部分の建物がある。

 四階建ての建物はまさかの貸テナントやオフィスの建物だと言う。それこそ山本先生の医院が入ったり、ヴァンディッツとシルエレイナのオフィシャルショップが入るなど今の時点でも様々な提案が出来そうなフロアになっている。


 「完全に予算も度外視したデザインですので、全体のイメージはこう言った雰囲気で行きたいと言う事だそうです。ここから予算や敷地に合わせて修正を三ヶ月ほどかけてしていくそうです。客室は105室を予定してます。」

 「当初の予定より減りましたか?」

 「はい。いわゆるスイート・ロイヤルスイート扱いの部屋をどうするかによって部屋室の若干の変更はあるそうです。そして、このイメージ図です。」


 それは二枚が比較されるように並べられたイメージ図。共有廊下や部屋の中など構図は全て同じ。違うのは左側が黒と深緑をイメージしたデザインで、もう一つは新緑の淡い緑と紅梅色のデザインだった。


 「これって、まさかですが。」

 「はい。真子さんと祥子くんからの提案です。ヴァンディッツフロアとシルエレイナフロアを作ってはどうかと。ただ不採用上等だと仰ってましたが。」

 「いや、面白いんじゃないですか? あまりそのフロアだけ料金を上げるみたいな事はしたくないですねぇ。」

 「そうですねぇ。少し差別化は必要だとは思いますが、デザインは別でも基本の部屋と同じ広さになる予定なので、あまりに料金が違うとそれはそれで印象は宜しくないでしょうね。」


 うん。これは採用して良いだろうな。まぁ、まだイメージ画だ。思い切った提案の方が見ていて楽しい。

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