第22話 様々な始まりの予感
2022年3月 Vandits field戦場 <山口 葵>
試合が終わり皆でゴール裏へ挨拶に向かいます。試合に勝てて嬉しいと言うよりは正直なところはホッとしている方が大きいです。それほど監督コーチ含め私達の中で開幕戦の勝利と言うモノの意味の大きさは分かっていました。
3対0でハーフタイムに入った時も原田さんは「この開幕戦で取れるだけ得点は取っておくんだ。得失点差が年間で順位争いの大きな要因になる。プラスは作れる時に作ろう。」と皆にハッパをかけてくれました。
おかげで7対0と言う完璧な試合内容で終える事が出来、早苗ちゃんは開幕で4得点と言う得点女王争いでも上位を狙えそうなスタートを切れました。
サポーターの皆さんもたくさん集まってくれて、良い試合を見せられて、とりあえず本当にホッとしています。百花の皆さんがリードしてくれる選手の個別コールと勝利の時に歌うオリジナルチャント「梅の花舞うこの道で」を皆で歌います。
夏の熱さも冬の寒さも乗り越えて、信じ続けた仲間と共に梅の花舞うこの道で、勝利の喜びを分かち合おう。私の大好きなチャントです。最後に皆で万歳して控室に戻ります。
選手の皆の表情も明るい。ロッカーの椅子にゆっくりと腰をかけました。この戦場の選手控室は白を基調に作られていて、ロッカー上部と足元には控室をグルっと囲うようにLEDの間接照明が仕込まれていて、ヴァンディッツが使用する時と私達シルエレイナが使用する時でLEDの色が深緑色か紅梅色に切り替えて控室を演出してくれています。
優が握手をしに来てくれました。優も喜びよりも安堵の表情なのかな?
「大量点よりも失点しない事が私の目標だったからね。何とか守れて良かったよ。(優)」
「決定的な場面を作らせなかったのはさすがだったよ。指示も的確で守りやすかった。」
私達の会話に周りで喜んでいた皆もこちらを注目し始めました。
「攻撃は早苗ちゃん中心に任せられるメンバ-多いからね。ホント勝ててホッとした。(優)」
「皆もお疲れ様!」
「「「お疲れ様です!!」」」
「まず第一歩だからね。こっからスタートだと思って、この開幕戦忘れて第二節に挑んでいこう。昇格かけて頑張ろうね!」
皆の弾ける笑顔と頼もしい返事にチームとしての成長を感じていました。そうなんです。まだ1試合。ここから始まるんです。
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2022年4月 Vandits fieldサブグラウンド <望月 尊>
人工芝のサブグラウンドに様々なユニフォームやトレーニングウェアに身を包んだ子供達が座っている。今日は『Club Vanditサッカースクール』の新入生の初練習日だ。とは言ってもスクールに関してはジュニアユースのように入団選考も無いし、小学校4年生から6年生であれば何年生からでも始められる。言わばいつ始めていつ辞めても良い形だ。
基本的にスクールは一回ごとの参加費を払うか年間で払うかの形になっている。週に二日のスクール日を設定して、来れる日に来ると言う形になる。その中から有望な子がいれば、こちらからU-13育成組織に誘う事もある。そうなると参加費は必要なくなり、次回からはジュニアユースの練習に参加する事になる。
今回の新入生は20名。かなり多い。2018年にスタートしたスクールの前身組織から高木先生と能美さんはずっと指導に来てくれている。と言っても高木さんはスクールに来る事でサッカー初心者の子達への指導方法を学びに来ているのもある。
高木先生は今も先生を続けられているが、清水ヶ丘中学の教員だった能美先生はまさか学校を辞めて、去年から(株)Vanditsの強化部でジュニアユースコーチとして働いている。忙しかったはずの教員時代にB級ライセンスを取得して、今はユースBライセンス取得の為に勉強を続けている。
今までは御岳さんの弟子と言えば板垣さんだったが、ジュニアユースの指導の場では能美さんが常に御岳さんの隣にいて、御岳さんの考えを吸収しようと意気が高い。
子供達が順番にコーチ陣に自己紹介をする。元気に挨拶出来る子もいれば、恥ずかしそうに挨拶する子もいる。ここんトコは毎年の風景と言って良い。ここでは皆の希望ポジションだったりは聞いたりしない。基本的にはジュニアユース世代では様々なポジションを経験させるのが御岳さん流の指導方法だ。
どこにその子の才能が隠れているか分からない上に、それがいつ開花するかも分からない。だからこそ総合的な練習メニューを組んで、その中でスクール生同士の練習試合で子供達の才能をコーチ陣で見つけてあげる。
そんな子供達の中で唯一一人GKユニフォームで参加している男の子が自己紹介を始める。
「小学校四年生! 安原彰吾です! やりたいポジションはGKです! 将来、望月さんのような選手になります!!」
目いっぱいの大声で少し緊張した感じでしっかりと。あの日、えんがわで自分に声をかけてくれたあの男の子だ。コーチ陣の目が自分に集まる。それを気にする事なく、その子の前で膝を付く。
「待ってた。頑張ろうな?」
「はいっっっ!!!!」
誰かに目標にされる。初めての事に自分の体温は少し上がっている気がした。
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2022年4月 Vandits garage <常藤 正昭>
相変わらずデポルトとしては大忙しです。通常業務に並行して芸西村内の町屋小町商店街計画とホテル建設プロジェクト。スケジュールは今年一杯かなりシビアに切られています。
元資材置き場だった広大な土地に町屋風の商店街を誘致するプロジェクト『芸西村町屋小町商店街』。実は現段階で既に4件の設計に入っています。デポルト・ファミリアと(株)Vanditsの公式HPでプロジェクトページを作り、内容説明と県内・県外からの移住希望者を募った所、12件ほどの問い合わせがありその中で4件が契約となり既に設計打ち合わせに入り、6件がご希望を伺いながらの相談段階のお客様です。
我々が考えていた以上の反響がいただけて有難い限りです。
私立高校の方は既に入学要項とパンフレットは完成しており、来年度の一期生入学に向けた最終的な準備は始まっています。笹見徳蔵氏の個人秘書でもある新田さんからの報告で教員の方達もこの四月から教員採用試験の募集が始まっています。恐らくですが10月から11月までに採用者が決まる事になると思います。
ただ学校の特色が異色であるだけにクラブ活動の指導者は外部指導員で何とかなるのですが、問題は左官技術などの専門分野の技術を習う場合の教員をどうするかと言う問題が発生しています。
これに関しては現状では笹見建設の社員さんの中に左官一級技能士の資格を取得している方は沢山いらっしゃるらしく、その方達が特別授業と言う形で指導に来てくれる形にしていて、苦肉の策として左官職を希望する学生に関しては学校許可の上で左官屋さんでのアルバイトを許可する事が決まっています。
これも基本的には「倉庫掃除」と言う名目で雇い、現場には一切連れていく事なく事務所のある敷地で技術を教える形になります。ちなみにその左官屋はまさかの笹見建設がその為だけに芸西村に開業する事が決まっています。
そして今、私と和馬さんが戦々恐々としている件があります。蒼星学園の理事会メンバーでもある真鍋薫さんから個人的に会えないかと相談されている件です。詳しい内容もお会いした時にお話していただけるようで、私達の中にも若干の不安があります。まぁ、徳蔵氏からの紹介で知り合った方ですから、そこの関係に影響が出るようなお話では無いとは思っていますが。
お会いする日は明後日に迫っていました。




