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第21話 なでしこ2部第一節

2022年3月 Vandits field戦場 <三田 希美>

【2022なでしこリーグ2部第一節 岡山beLadies】

 なでしこリーグが女子のトップアマチュアリーグとなって、シルエレイナ高知にとっては今までの都道府県や地域リーグとは全く別次元の一年になる事は容易に想像できていました。

 なぜなら県リーグ然り、地域リーグ然り、トップチームのユースチームやサテライトチームが多く所属していて、いわゆる育成世代の選手がメインのチームばかりの中で社会人主体のシルエレイナは実力が頭一つ二つ抜きん出ていました。


 ここからは全てのチームがトップチーム。そして所属選手も世代別代表経験者であったり、時にはなでしこジャパン経験者もいるでしょう。その中でシルエレイナの選手達がどれだけ通用するのか。不安が無いと言えば嘘になってしまいます。


 そして何よりの心配が観客が集まるかどうかと言う事でした。先週・先々週のヴァンディッツの公式戦では開幕アウェイが1500名以上、ホーム第二節が2000名以上のサポーターさんが集まり、芸西村だけじゃないVandits高知の人気の高まりを感じられました。

 シルエレイナはどうなのか。少しの不安を感じながら誰よりも先にスタジアム入りして、百花のメンバーで作ったばかりの横断幕やフラッグを設置していきます。


 しかしそれも選手達のアップが始まる頃には杞憂に終わっていました。ゴール裏は半分以上が埋まり、バックスタンドにもたくさんの観客の皆さんが来てくれていました。ここからが私達の仕事。


 今までのようにゴール裏を中心に少し離れて座っている人達に拡声器で話しかけながら、「手拍子だけでもジャンプだけでも参加してみませんか?」と常に笑顔を心がけます。

 そして昨シーズンからゴール裏名物となりつつある選手のアップ時間に私達もアキレス腱を伸ばしたりと準備運動をします。皆に声をかけながらみんなで合わせて体操している様は、相手チームのサポーターさんもSNSに「面白い」「ゴール裏が本気ww」と取りあげてもらったりして、意外に女子サッカー界隈では話題になっていました。


 ほら、少し近付いて来てくれた人がいた。こうやって広げていくんだ。洋子さんが、拓斗君が教えてくれた背中。私は私なりに追いかけていきます。


・・・・・・・・・・

<中堀 貴之>

 今日は早朝練習が終わると開城前の設営をヴァンディッツメンバーも手伝い、あとは各自シャワーを浴びてVandits garageに集まってシルエレイナの試合観戦をしている。同じ会社、設立前から一緒に練習をしていたメンバーもいる。ヴァンディッツとしても思い入れが大きい。


 試合は今、前半25分。2対0。

 内容は試合開始直後に敵陣内でボールを持った彩羽ちゃんが相手の最終ラインの裏を突く完璧なスルーパスでこれまた完璧に飛び出せた中嶋さんがキーパーとの一対一を難なく制して先制点。

 その後、15分に敵陣内で切り込んだ八木さんが倒されPKを獲得。倒された八木さんが冷静に右隅に決めて二点目。前半の早い段階で2トップ二人が点を取れた事でチームとしてもサポーターとしても精神的にホッと出来る内容になった。


 ただ、目を引くのは完全に守備陣。まだ前半とは言え、相手が一切エリア内にボールを持ち込めない。4バックもあるが、間違いなくフィジカルの差。発足以来、フィジカル・体幹トレーニングはもちろん、練習相手もほとんどがヴァンディッツか安芸高校サッカー部と男子が中心だった事もあり、女子同士の練習の経験はほとんどない。今年に入ってやっと女子ユースの子達と練習する機会は作ってるみたいだけど、それもいつもと言う事では無く、二週間に一度くらいの頻度だ。


 左サイドの遠藤さんが敵陣中央に向けてドリブルを開始すると、連動するように2トップの左にいる八木さんがサイドへ広がる。遠藤さんがDFを釣り出し、八木さんへパス。そのまま早いクロスを上げてエリア内に侵入した樋口さんに合わせるがこれは枠内に行かず、ゴールキックとなった。


 「こうやって見るとさ、早苗さんってFWのわりにクロス上手いよなぁ。(馬場)」

 「三兄妹の中でボールの正確性は姉が一番っス。さすがに速さとか強度になると男女の違いは出ちゃいますけど、エリア付近でコース狙わせたらたぶんまだ姉の方が上手いと思います。」

 「....マジかよ。(伊藤)」

 「それでもシルエレイナ来て、姉はカルチャーショックって言うか、クラブショック受けまくってたっス。アップから練習法や食事、そして練習相手がほぼ男ってのもそうですし。久々に毎日体の筋肉痛感じながら寝てるって言ってました。」

 「あぁ....確かに。優さんが結婚したいならこのチームにいると婚期遅れるよって他のメンバーに言ってましたね。体ゴリラみたいになるよって。(高瀬)」


 何人かのメンバーの目がこちらに向く。


 「うるせぇ。試合観ろ。」


 皆が笑う。分かってるよ。キャプテンだけその心配が無いって言いたいんだろ。申し訳なく思ってますよ。


 「ただ女子の試合でフィジカル面で圧倒的差があると笛が吹かれやすくなって、試合が上手く運べなくなる事もあるらしい。そこは男子相手のつもりで体合わせてるとチャージ取られちゃうかも知れないな。(岡田)」

 「国際大会の事考えたらそんな甘いレフェリングじゃ困るんだけどな。(土居)」

 「そうですね。どうしてもフィジカル面で相手がすぐに倒れてこっちがファウルしたみたいに見えるから、遠藤さんなんかはどうやったら良いかって模索してましたからね。(成田)」


 相手ゴール前の混戦の苦し紛れのクリアボールをエリア前の彩羽ちゃんがエリア外左に展開していた早苗さんにパス。DFが少しエリア左に寄る。それを見逃さなかった早苗さんがまるでFKの如くゴール右上隅へ右から巻き込んでくるシュートで三点目を決めた。


 「うおっ!! すげぇっ!!(棟田)」

 「完全に狙ってたっスね。(八木)」


 確かにこの相手チームのDFはボールホルダーに寄って行ってしまう傾向が見えてた。しかしそれも男子のボールスピードと体幹の強さがあれば、無理矢理突破やパス回しで攪乱も出来るのかも知れないが、それをこの完璧なキックで解決して見せる。やはり八木のお姉さんというだけはある。


 「お兄さんもキック巧かったんですか?(成田)」

 「アニキはCBだったから。どっちかって言うとヘディング巧かったな。でもロングの正確性はあった方だと思う。」


 お兄さんの事は観戦に来ていただいたりして何度かお見掛けしてるけど、確かに身長あるし体格も良かった。


 「姉弟でDFからFWまで連携作れるじゃん。無敵かよ八木姉弟。(馬場)」


 皆が笑う。八木も楽しそうに笑っている。前は家族の事を話されるのはあまり得意では無かったように見えていたが、お姉さんが加入し早苗さん自身が積極的に俺達ともコミュニケーションを取ってくれているのを八木自身も感じて、少し気を許せるようになったのかも知れない。


 「前半で3点か。でも、何か様子見てる感あるのはなんでだろうなぁ。(岡田)」

 「守備意識の高い原田さんですから、大量得点よりはクリーンシート意識してるんじゃないですかね?(大西)」

 「確かにいつもみたいなビルドアップからのサイドの崩しって言うよりは相手の攻め終わりからのショートカウンターとかクリアミスからの得点とかが多いっスよねぇ。(八木)」

 「少ないチャンスをしっかりと得点に結びつける。難しい部分ではあるけどな。形に出来てる分、彼女たちは凄いよ。(岡田)」

 「彩羽ちゃん、山口くん、優くん、代表に呼ばれても可笑しくないメンバーの中に早苗さんや由衣ちゃん、新加入の樋口さんと強化合宿に呼ばれる可能性もありそうなメンバーが揃ってるからな。たしかにこの結果は当然と言えば当然なのかも知れないな。(望月)」


 盤石の前半が終わった。

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