第20話 それぞれの反応
2022年3月 安芸市某所 <岡田 真人>
クラブからプロ契約の打診があった日の夜、夕食が済み子供達が寝た後にプロ契約の打診があった事を有美子に話した。
「凄いじゃない!」
無条件に喜んでくれる。こういう時に一番欲しい言葉をくれる。しかし、家庭の事を考えれば今の仕事のままでいる事が一番良い気がしている。
「プロ契約になるって事は収入が俺の成績次第で乱高下する事になるんだ。子供達の事もあるし。」
「子供をプロを断る言い訳にしないでね? きっと引退した後に一生後悔する事になるし、何より優太達が悲しむわ。」
「........そうだな。すまん。」
「私だって働いてるし、収入なら問題無いじゃない。それに育休も含めてこの会社以外に私は考えられないし。所属クラブによっては単身赴任になりますからね!」
有美子がニヤニヤしながら話す。出来るだけ明るく努めてくれている。
「いや、現役はどう頑張ってもあと5年出来れば良い方だ。だから、クラブから契約満了を言い渡されない限りは俺は移籍するつもりは無いよ。」
「じゃあ、話は簡単じゃない。プロ契約としてお世話になって、現役終えたらもう一度面接していただいて、社員として継続契約していただけるか判断して貰えば良いのよ。司さんですら引退後は面接して継続契約を判断されたって言うくらいなのよ。だから皆さん現役中からお仕事も真面目に頑張ってらっしゃるんだろうし。」
「そうか....そうだな。明日、プロ契約の返事をするよ。」
「........真人さん。高知に来て、良かったね。」
「あぁ。本当に。」
最後の一花なんて考えてはいない。俺の限界に挑戦するんだ。このクラブで。
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<五百城 弘子>
彩羽が持ち帰って来た大きな茶封筒の中に入っていた数枚の用紙を見て、私は絶句しました。
『五百城 彩羽選手とのプロ契約締結に向けた提案書』
と書かれた用紙にはおよそ高校生がアルバイト等で受けとる金額では無い数字が書かれていました。
「彩羽、これ、クラブで貰ったの?」
「うん。練習後に事務所に連れて行って貰って。とりあえずお母さんの都合がいい時にお話したいから、明日ご都合がいい時に事務所にお電話いただけませんか? って冴木さんが。」
私に渡された時点で封筒は封がされていたので、彩羽が内容を知らないのではないかと彩羽にも用紙を読ませました。少し考えながら彩羽はゆっくり話し始めました。
「プロって言って貰えるのは嬉しい。お母さんも働く日が減らせると思うし。」
「お母さんの心配は大丈夫よ。彩羽はどうなの?」
左斜め下を不安そうに見つめたまま体を前後にゆっくり揺らすのは彩羽が物事を真剣に考えている時の癖です。見る人によっては不貞腐れているようにも見えるので、誤解を受ける事も多くありました。クラブの皆さんと高校の先生にはその事をお伝えしています。
「プロにはなりたいけど、高校で皆から色々聞かれたり、知らない人から取材を受けたりするのは....ちょっとイヤ。」
「....分かったわ。冴木さん達には高校卒業した後じゃダメか聞いてみましょう? 水木さんにも来てもらって、彩羽が一番サッカーと高校が楽しくなる方法を考えましょう。」
「うん!!」
こうして自分の気持ちをしっかりと話してくれるようになっただけでも、高知に来たおかげです。私でさえ申し訳なく思ってしまうほど、クラブもデポルト・ファミリアさんも彩羽に対してあたたかく接してくれています。そしてそれは安芸高校の皆さんも同じです。
彩羽が笑顔でいられる事が私の幸せ。それだけは変わりません。
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2022年3月 Vandits field <阿部 桜>
【2022なでしこリーグ2部第一節 岡山beLadies】
「皆様、こんにちわ。本日は2022なでしこリーグ2部第一節、シルエレイナ高知対岡山beLadiesの試合を高知県芸西村にありますVandits field戦場よりお届けいたします。本日の実況は私、阿部桜と、」
「アシスタントを務めます有澤由紀です。」
「さて、桜の舞うこの季節、なでしこリーグにいよいよ我らが梅の姫達が見参となりました。迎えるは岡山beLadies。さぁ、有澤さん。ついにシルエレイナの開幕戦となりました。」
「いえいえ、桜さん。まずは視聴者の皆さんにご説明した方が良くないですか?」
「そうでした! 実はシルエレイナ高知のなでしこリーグ2部ホームゲームはなでしこリーグ様ならびに大会運営団体から許可をいただき、Vandits高知とシルエレイナ高知の公式Ytubeチャンネルで配信させていただける事となりました。」
「そしてこちらのシルエレイナ高知の配信に関しましては、阿部桜さんがメインアナウンス、私有澤がアシスタントアナウンスを務めます。」
「サッカー実況は初めてなので。由紀ちゃん、フォローお願いします!」
「お任せください!」
これを(株)Vanditsの杉山さんからご提案いただいた時は本当にびっくりしましたし、どうしようか悩みました。しかし、水木社長と由紀ちゃんから「絶対にやったほうが良い」と勧めていただき、自分のスキルを高める意味でもチャレンジしようと決めました。
それからはこの半年間、様々な試合を見ながら実況の練習をしました。昔の伝手を使って野球実況やサッカー実況をした事のある先輩男性アナウンサーに指導していただいたりもしました。
そこで気付かせていただいたのは、後にも先にも事前取材が命だと言う事。選手を知り、チームを知る。究極は走っているフォームを見ただけで選手名が浮かぶくらいにはならないといけないと教えてもらいました。
「まずは岡山のスターティングメンバーです。」
デポルト・ファミリアさんとお仕事をさせていただくようになり、アナウンサー時代には使った事のないポジション名なども、今では略式文字を見るだけでポジションの正式名称が頭に浮かぶようにはなりました。
「....以上が岡山の本日の布陣となります。対しますシルエレイナ高知はシステム4-4-2。スターティングメンバーは、GK井上優、DFは左から齋藤弥生、渡邉美咲、酒井彩芽、米谷千夏。続いてMF、左サイド遠藤理佐、右サイドに新加入の樋口美青、中央右に五百城彩羽、左に山口葵。FW2トップ左は八木早苗、右に中嶋由衣となっています。さて有澤さん、岡山の注目選手、誰をあげますか?」
「そうですね。岡山に関してはやはり攻撃の要になるFW2トップの中川選手と岸田選手ですね。二人とも突破力はもちろんの事ながら、非常に楔役も上手く勤めるので警戒が必要だと思います。」
「なるほど。高知の注目選手お願い出来ますでしょうか?」
「やはり今大注目の中盤、現役高校生の五百城彩羽選手を上げたいですね。正直言って世代別、将来はなでしこ入りを期待している選手です。あとはこれは個人的な注目選手と言いますか、皆さんに知っていただきたい選手なんですがFWの中嶋由衣選手ですね。昨年のチーム得点王ですし、クラブ内でもトップクラスの自主練の鬼なんですよ。その豊富なスタミナにも注目していただきたいですね。」
そこから由紀ちゃんとこの試合の注目点やなでしこリーグの概要などをはじめてなでしこリーグをご覧になっているかも知れない方へのご説明の為にフリートークをします。
そうしている間にキックオフイベントなどが終了し、選手達がピッチに散っていきます。
「さぁ、猛き若姫達の戦いが始まります! 岡山ボールからのキックオフです!」




