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第19話 喜びの共有、そして打診

2022年3月 Vandits field <三原 洋子>

 ゴール裏の興奮はもう最高潮!! 相手を突き放す得点だけでなく、まさか清春が点を決めてくれた!! 自分達が高校時代から見守って来た選手が憧れのヴァンディッツに加入してデビュー節で得点を上げてくれました。


 清春はゴールした勢いのままゴール横をすり抜けて私達のゴール裏に来てくれた。清春は「うわぁぁぁぁ! やった! やったっ!!」と声にならないような雄叫びを上げながら私達と抱き合います。

 サポーターの中には涙を流している人もいる。ユニフォーム姿の清春のお母さんも手を叩いて喜んでいます。

 最高の瞬間を味わいました。


 試合は無事に3対1で勝利! 私達Vandits高知は記念すべき初勝利をあげる事が出来ました。

 今日のMOM(マン・オブ・ザ・マッチ MVPのようなもの)は二人でした。二節連続ゴールの藤村選手とデビュー戦初ゴールの清春。


 藤村選手も清春も試合後に観客の前でのインタビューは初めてらしくて、凄く二人とも顔がガチガチで緊張しているのがサポーターの笑いを誘い、「頑張ってぇ」とあたたかい声が飛んでいました。

 その中で清春が話していた。「ボールは来るとしか思っていなかった。ほんの少しでも不安を感じてプレイしたらボールには追いつけなかった。和信さんならくれると信じていた。」と言う言葉が学生時代からずっと指導してくれて、この一年ずっと同じポジションで練習して追いかけ続けている先輩への信頼が見えました。


 この後は向月の皆で貸し切りの予約をしている居酒屋で食事会があります。そう言った場所へも向月以外のサポーターさんも積極的に誘って、観戦の輪を広げる努力は続けています。


 まずは1勝。良い勝ち方が見れて今日は良いお酒が飲めそうです。


 ・・・・・・・・・・

2022年3月 Vandits garage <冴木 和馬>

 事務所の会議室に(株)Vanditsの責任者の面々が揃っている。百瀬・板垣・御岳さん、原田・向井さん・服部。そしてスカウト部の二人。

 今日は(株)Vanditsにとっても大事なターニングポイントとなるかも知れない日だ。常藤さんと雪村君、そして静佳さんにも同席して貰っている。


 会議室のドアがノックされる。返事をして入って来たのは岡田だった。


 「お呼びだとお聞きしました。」

 「仕事中に済まんな。ちょっと話があってな。座って欲しい。」

 「何か凄い面々ですね....」


 岡田もだいぶうちには慣れてくれた。奥さんも今は施設管理部の事務で働いてくれていて、去年には第二子が生まれて皆でお祝いもした。


 「岡田。うちからプロ契約を打診したい。」


 岡田の表情に緊張感が宿る。初めてのプロ契約の打診。言っては何だが、こっちの方が緊張している。運営統括部だけでなくデポルトの運営部の中にも、初めてのプロ契約は八木や大西などの発足メンバーでと望む声もあった。しかし、契約上の問題点が邪魔をしてどうしても難しかった。以前にも話したがC契約を結ぼうとすると大西では報酬面が下がってしまう事になる。そして何よりA契約を結ぶには出場時間と言う大きな壁が待っている。


 その中で条件をクリアしている選手でプロ契約を打診するメンバーを選んだ。


 「プロ....ですか。」

 「詳しく言うと今年一年C契約で我慢して欲しい。活躍によって来年度A契約に切り替える予定だ。このまま順当な出場を続けてくれれば、第八節の時点で岡田はA契約条件の1350分出場をクリア出来る。そうなったら今の年収を基本年俸に変動報酬を付けると言う形で契約しようと思ってる。どうだろう?」


 真剣に悩んでくれている。安易に飛びつかないと言う事はそれだけプロ契約でなくても良いのではと思ってくれていると言う事だ。うちの今の報酬に不満が無いと取ろうと思えば取れる。


 「八木達でなくて構わないんですか?」


 やはりそこか。


 「どうしても出場時間の制約がな。それに今より給料が下がってしまうのは、こちらとしても忍びなくてさ。」

 「僕はもう三十二ですよ?」


 えらくネガティブだな。少し笑みを浮かべながら板垣を見る。板垣が言葉を繋いでくれる。


 「関係ありません。百瀬君や御岳さんとも話し、今のヴァンディッツに必要不可欠であり今後も活躍して貰いたいからこその正当な評価だと考えています。」

 「それに岡田の年齢でもプロ契約があると分かれば他の選手のモチベーションにも繋がるからの。まぁ、その為には岡田以上の活躍が必要になる訳じゃが。」


 俺は運営統括部で話し合い、デポルトから了承を得た契約内容を岡田に見せる。眉がピクリと上がるのが見えた。


 「ただ俺達としては今後の契約も含めて代理人交渉を薦めたい。そこの所はまた時間を改めてPSLMの常藤静佳さんが説明してくれる。」

 「PSLMの常藤です。いつも主人がお世話になってます。とりあえず代理人交渉がどういうモノかと言うご説明だけさせて貰って、もし目当ての代理人や会社があるならそこにお願いも出来るでしょうし、うちにご依頼いただけるなら最大限努力させて貰います。」

 「有難う御座います。とりあえず、一度妻と話をしても良いでしょうか? 期限とかはありますか?」

 「無いよ。ゆっくり悩んでくれ。今シーズン余程の事が無い限り、クラブとしての岡田に対する評価はプロ契約しなかったからって下がったりしない。岡田と家族の人生に関わる事だ。悩んでくれて嬉しいよ。」


 岡田は深々と礼をして部屋を出た。次に入って来たのはシルエレイナ高知の山口葵だ。


 「失礼します! あれ? シルエレイナの事ですか? てっきり営業部の事かと思ってました。」


 座っているメンバーを見て察した山口は少し苦笑いしながら席に着いた。


 「山口。(株)Vanditsは山口とプロC契約を結びたいと考えている。山口の意見を聞きたい。」


 少し驚いた顔をして笑顔に戻る。山口の決断は早かった。


 「ありがとうございます。宜しくお願いします。」


 あまりの早さにこちらのメンバーがビックリしている。一応確認は取る。


 「もう少し考えなくて大丈夫か?」

 「問題ありません。今後のシルエレイナの活動を考えればプロ契約選手は必要です。その候補に挙げていただけた事は凄く嬉しいです。」

 「葵が候補に挙がらない訳がないだろう。キャプテンなんだからもう少し自分に自信を持ってくれ。」

 「すみませぇん。」


 原田の苦言に山口はお道化て謝る。皆からも笑い声が漏れる。良かった。受けてくれて。岡田と同様、プロ契約の条件を説明し内容を見せる。


 「どうだろう?」

 「問題ありません。静佳さんの所にお世話になりたいです。金額はもうサッカー漬けの生活なんで、あまり使う事もありませんし。数年で今の年収は超えれる契約は掴んで見せますから。」


 良い気合だ。皆も笑顔になる。


 「それを願ってる。俺達のプロ契約打診が追い付かないくらいにチームが活躍してくれる事を祈ってるよ。」

 「あの....つかぬ事をお伺いしても宜しいですか?」

 「何だ? 改まって。」

 「私以外にプロ契約って誰がいるんですか?」

 「シルエレイナでは山口、井上、渡邉。そして八木と酒井に関しては加入してまだ間もないと言う事もあって、今季のオフに打診するつもりだ。あとは........だな。」

 「分かりました。皆の事も、宜しくお願いします。」

 「まずは何より来週のリーグ開幕だ。気の抜けない日々がまた始まるが、宜しく頼む。」

 「はい! 失礼します。」


 まずは第一関門突破だな。俺達は皆で握手し合った。

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