表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

第18話 無我夢中

2022年3月 Vandits field <有澤 由紀>

 先制を決めたVandits高知ですが、その後は一進一退の攻防が続き1対0のまま前半が終了。普通JFLさんやJリーグさんの公式配信では実況の方はマイクがオフになるんですが、私は休みませんよ? 詩織ちゃんに少し休憩を取っていただいている間も喋る喋る。

 相手チームさんのマスコットの紹介から相手のホームスタジアムや周辺地域の紹介なども話します。次回戦う時はアウェイ戦。当然相手チームのお膝元に伺う訳ですから、お勧めスポットの情報も散りばめます。


 うちはハーフタイムショーなどがありませんので、マスコットの『せんじゅ丸』がヴァンディッツゴール裏はもちろん大阪のゴール裏にもご挨拶に伺います。皆さん、お写真撮ってくれたりして反応は上々です。

 しかしここでさすがは大阪のクラブさん。AC大阪のマスコットも急遽出てきて、時計回りで回っているせんじゅ丸とは逆に、反時計周りでスタジアム挨拶を始めてくれました。会場は程よく高いテンションを維持出来ていています。

 それで終わらないのがさすがは大阪。一周している間に当然せんじゅ丸と向かい合いでコースが被ります。すると両者グッと腰を落として戦闘態勢を取ったかと思うと、一生懸命相手に向かって走り、ぶつかる直前で急ストップして姿勢を正して両手で握手し深々と挨拶。


 その様子に笑い声と大きな拍手が起こります。間違いなく大阪さんのアドリブなんですけど、せんじゅ丸よくついて行けたなぁ。青木君、センスあるかも。あっ! 内緒でお願いしますね。


 さて、後半開始の時間となりました。Vandits高知は後半開始時点で右CBの和瀧選手を交代、同ポジションに右ウイングにいた成田選手をスライドさせ、そこへアラン選手を投入しました。


 後半で更に追加点をと意気込むVandits高知ですが、そこはさすがのAC大阪。攻撃の手を緩める事無く後半50分。相手右サイドからの展開で駆け上がった要注意選手の久保田選手が完璧なアーリークロスを打ち出し、それをエリア内でゴールに背を向けた状態のルイゴ・アルベルト選手がまさかのオーバーヘッドでゴールに叩き込みました。


 「AC大阪、スーパービューティフルゴールで同点に追い付きました! 宗石さん! 凄いゴールが飛び出しました。」

 「いやぁ。これはもうどうしようもないですね。DFラインもしっかり人数はかけれていましたし、クロスが素晴らしすぎました。それにあの体勢からまさか直接シュートは対応が遅れてしまうのも仕方が無いと思います。」

 「これで1対1。同点です。」

 「このシュートはやられたなどと思わない事ですね。これは決められたのは仕方ないとしっかり切り替える事。恐らく相手は同じシュートをもう一度決めろと言われても出来ないはずだと判断して、まずは追加点です。」


 頭の中に一瞬、第一節の試合が過ります。しかしピッチでは大西選手と岡田選手が声を掛け合い、修正点をすぐに皆に伝えています。


 「こういった部分でもヴァンディッツは岡田選手と伊藤選手が加入してくれたのは大きいですね。JFLでプレイした事があると言う経験値がチームに大きな成長を生んでくれていますね。(詩織)」


 その後のヴァンディッツは慌てる事無く、しっかりと相手の攻撃の目を摘み続けます。その中でも何度も相手の攻撃の隙を狙い続けています。ハイプレスのぶつかり合いはハッキリ言ってミスした方が負けです。相手のプレスを躱し続けながら、どう縦にボールを運ぶか。まさか後半は両チームの狙いが完全に被ると言う試合内容になっていました。


 そんな後半70分過ぎ。自陣でボールを回していた五月選手が自陣中央からセンターサークル左ぎみに陣取る藤村選手に早いグラウンダーのパスを出します。一気に相手選手が藤村選手に詰めてきますが、藤村選手はそれをそのまま自分の股を通してスルー。その軌道の先には一気に左サイドを駆け上がって来ていた高瀬選手がいました。


 「おっと! 藤村選手スルー!! それが左サイド高瀬に繋がる。マークはいないぞ!! ワンツー、抜け出した藤村選手切り込んでエリアに入る! あぁぁぁぁっとぉぉ!!! 藤村選手倒れ込む!! ここでファウルの笛!」


 エリア内で藤村選手に対応しようと体を寄せた相手選手。しかし藤村選手はちょんとボールを前に出し、相手選手のタックルをフリーな状態で受けて転びました。主審がゴールエリア中央に向かって右手を差し出します。

 やりました! PK獲得です!!


 藤村選手はそのPKを冷静に決めて二節連続ゴール! 2対1と再びリードを奪いました。放送席のモニターにはもみくちゃにされている藤村選手の表情がホッとしているように見えました。


 「新潟から期限付き移籍の藤村選手、開幕戦に続きゴールを決めて存在感をアピールします。」

 「あそこで冷静に切り返しからボールを手放したのは素晴らしいの一言ですね。恐らくスルーからの高瀬選手とのワンツーはある程度形として練習も重ねていたんだと思いますが、チームに合流して二ヶ月ほどでこの連携は流石ですねぇ。(詩織)」


 ここで選手の交代が発表され、MFの伊藤選手に変わり出場したのは一条選手でした!!


 「ここでMFの背番号7番伊藤選手に変わり、背番号77番の一条清春選手がピッチに入ります。一昨年オフ、地元安芸高校サッカー部出身で練習生として加入していた一条選手。昨年は出場機会を得られなかったルーキーが今季正式登録して迎えたこの局面で起用されます。」

 「清春選手の強みは何と言っても体幹の強さと足の速さ。そしてそのプレイの視野の広さですね。およそOHとは思えない強みなんですけど、高校時代はキャプテンとして素晴らしい統率をみせてくれてましたね。(詩織)」

 「さぁ、ここで公式戦デビュー。どのようなプレイを見せてくれるのか。」


 ・・・・・・・・・・

<一条 清春>

 無我夢中過ぎてほとんど覚えていない。交代した時点で残り20分も残されてなかった。百瀬コーチ..あっ! 監督からは「ひたすら走ってこい。オフサイドでも構わないから諦めず走れ」と言われた。俺、MFなんだけどな。


 高校を卒業する時点で俺はヴァンディッツの選手としては契約出来なかった。農業アルバイトとして一年間、農園のお手伝いをしながら練習に参加させて貰っていた。当然公式戦には出られない。練習試合すら出番は無かった。JFL昇格がかかっていた一年だっただけに、当たり前だと思った。


 俺はひたすら一年間先輩達に食らいついた。すると今年の開幕前に正社員としての契約とVandits高知の登録選手になる事が出来た。練習はずっと参加してたけど、選手としての立場で言えば俺と正司は同期になる。


 しっかり高い位置で最前線のプレスをかけていく。後ろから頼もしい声で鼓舞してくれる。相手は残り少ない時間で得点する為に攻撃に人数をかけた。押し込まれる形が多かったが、八木さんから「お前はセンター(サークル)から後ろには下がって来るな」と厳命された。それでDFが攻撃参加する人数を少しでも減らせるからだろう。


 そしてその時は来た。

 自陣で相手の猛攻を抑えて、ボールは和信(八木)さんに渡った。するとポォーンッと中盤の相手MFをギリギリ超えるパスになった。和信さんがボールを持った瞬間から俺はゴールに向けて走り出していた。


 ボールは絶対来る! それだけは《《理解っていた》》。何度やったプレイだ!? 俺なら出来る!


 相手CB二人が左右から迫る。チラッと後ろに目をやる。完璧なパス。俺は少しジャンプしながら胸でボールを前に流す。これで左CBが俺と接触しそうになり、相手が急減速した。少し体が当たったけど構わずそのままボールを追いかける。一人切り放した。


 もう一人のCBが俺に体を寄せながらボールに足を伸ばす。

 あれ? そんな当たりで獲る気なのか? ルーキーだと思って甘く見られてるのか。俺はボールを左に流しながら相手の背中からグッと抜きにかかる。相手はバランスを崩し、俺の前に足を伸ばしてくるが全く邪魔にならない。そのままフィジカルで抜き去る。


 さっき抜かれた左CBの選手はまさか抜かれると思わなかったのだろう。全力で詰めてきていなかった。

 相手GKと一対一。ジワッジワッと前に出るキーパーに対して俺はそのドリブルの勢いのままワンタッチでゴール左に決めた。と、試合終了後の動画で確認した。


 まさに無我夢中のプレイは相手を突き放す3点目に繋がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ