第17話 第二節
2022年3月 Vandits field <冴木 真子>
【第24回日本フットボールリーグ第二節 AC大阪戦】
昨年末に妊娠が分かってから事務所での仕事を抑え、先月からは完全に自宅での仕事に切り替わりました。なので戦場に来るのも本当に久しぶり。皆とここでサッカーして及川君と和くんとパス交換した日以来です。
まだ安定期には入っていませんが、体調も安定しているのでチームドクターでもある山本先生にご紹介していただいた南国市の産婦人科の先生に診ていただいて、試合観戦に行ってもOKとの判断もいただきました。
また診察中にヴァンディッツやシルエレイナの事で看護師さんや担当の先生(この病院では奥さん先生と呼ばれていました)と盛り上がり、それだったらと今日は奥さん先生のご家族と看護師さん達を特別室へご招待しました。私の体調の急変に備えるって言う大義名分もありますから。
待ちに待ったホームゲーム開幕戦。先週の第一節では勝利を掴む事は出来ませんでしたが、ならこのホーム戦で初勝利を掴めば良いんです。第一節でも多くのサポーターの皆さんが来てくれましたので、第二節も来てくれるだろうかと和くんはすごく心配していました。
私はだいぶ早い時間からスタジアム入りさせて貰ったのですが、だんだんと集まっていくサポーターの皆さんに奥さん先生達も含め、皆さんビックリしていました。
スタジアムに入れるお客様の席が大幅に増えましたから、パッと見はお客様が入っていないように見えるのですが間違いなく以前のスタジアムなら入りきらないほどの方達が来城していただいています。
AC大阪さんのほうのゴール裏にも水色のユニフォームの一団が陣取り、何本もフラッグが揺れています。本当にありがたい事です。
広報部の千佳ちゃんから聞いたんですが、ヴァンディッツサポーターの皆さんがSNSなどで広めてくれたおかげもあって、Vandits fieldの飲食店、いわゆるスタグルが非常に話題に挙がっているらしいんです。
大評定祭も含め、新しいスタジアムをお客様に開放したのは二度しかないはずなのですが、皆さんが写真付きで呟いてくれて戦国時代風の陣中食事処の雰囲気も相まって評判になっているようです。
今日は初めての公式戦配信もあります。ゲストはもちろん詩織ちゃん。大女優さんへと成長されたにも関わらず、私や和くんが「宗石さん」と呼ぶと少し寂しそうに拗ねるんです。可愛いですよね。だから私だけでも詩織ちゃんと呼ばせて貰っています。彼女も真子さんとか真子お姉ちゃんと可愛い所を見せてくれますから。
きっとずっと誰かに甘えたかったんだと思います。それだけ必死に戦い続けてきていたんでしょうね。彼女も。
さぁ、お腹の子にもスタジアムの雰囲気を存分に感じて貰いたいものです。あなたはこの村で、このスタジアムのある場所で、生きていくんです。
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<有澤 由紀>
『今日と言う日を待ちに待った皆様、本当にお待たせいたしました。Vandits高知、日本フットボールリーグのホーム開幕戦。対AC大阪戦の日を迎えました!』
会場の雰囲気も最高! 今日はホームで勝ち点3を、JFL初勝利を掴むんだ! と言う気合がヴァンディッツゴール裏からビシビシと感じられます。ここからは配信のみのマイクに切り替えて、ゲストの詩織ちゃんに話を振ります。
「宗石さ~ん! ついに来ましたよ! ホーム開幕戦。いかがですか? スタジアムの雰囲気は?」
「いつ来ても最高ですね! スタジアムの客席だけでなく食事処やコンコースなんかも広くなってたりしてて、良く一年で準備出来たなぁって感じます。」
「あっ、嬉しいですねぇ。あとでスタッフに伝えておきます。」
「それになによりスタジアムにお越しになってる両チームのサポーターさんのワクワクした表情と言うか、待ってたぞぉ! って雰囲気にこちらも楽しくなっちゃいますね。」
「そうなんです。ヴァンディッツサポーターの皆様はもちろんですが、AC大阪のサポーターの皆さんも大阪や全国から遠路この高知県芸西村へと駆けつけてくれています。いやぁ、水色のゴール裏、爽やかで凄いなぁって思いますがやはりJFLの大先輩の威厳がありますね。」
「はい。両チームにはこの大勢のサポーターの皆さんはもちろん、配信をご覧になってる皆さんにぜひ良い試合を見せて貰いたいですね。」
選手が入場し、ついにホーム開幕戦がキックオフしました。ヴァンディッツは開幕と同じメンバーでAC大阪もそれは同じでした。
両チームともに非常に攻撃的でプレッシャー強度の高い立ち上がりになりました。そんな前半15分過ぎでした。
「さぁ、センターサークル左側からのフリーキック。ボール位置には八木選手と五月選手。ゴールエリア付近で数名の選手がボールを待ちます。」
しかし、キッカーの八木選手が選択したのはショートパスでした。
「さぁ! 八木から左サイド高瀬へ。高瀬駆け上がる。相手DF躱して中へ切り込んだ! エリア横、グラウンダーのパスはDFがクリア!」
「まだまだ! もう一回っ!!」
「クリアボールは左サイドへ飛ぶ。再び八木選手の足元へ。サイドへ戻った高瀬にパス。高瀬! 相手DFを一人躱しふわりとクロスを上げる! ファーへのクロス! 走り込んで来てヘディングッッ!!! ゴォォォォォォーーーーーールッッッ!!!!」
ゴール裏で寝かされていた大型フラッグが一気に上下に振られます!! 私も会場マイクへと切り替えゴールの絶叫!!! そしてすぐに配信マイクに戻ります。
「走り込んで来たのは伊藤久志ッッ!! JFLホーム初ゴールは、ヴァンディッツにレギュラー争いの本当の厳しさを持ち込んでくれた漢!! 伊藤のゴールでした!! さぁ、宗石さん。いかがでしたか? 今のプレイは。」
「一度目のグラウンダーのパスは少し苦し紛れになってしまい、クリアされてしまいましたが八木選手がキッカー位置からほとんど動いていなかった事が幸いしました。恐らく伊藤選手と五月選手の二人を中に入れる事で自身は遠い距離からでも鋭いクロスを狙える位置をキープしていたんだと思います。」
「なるほど。」
「その後もしっかりともう一度形を作る為に高瀬選手もサイドのスペースをアピールし、今度は体幹を活かして突破を図った。その瞬間、エリア内の大阪の選手は直接シュートもあると考えて少し高瀬選手側に寄ってしまっていました。それが、結果的にはファーをガラ空きにする形になり、伊藤選手がフリーで飛び込めるスペースを作りだせたと言う事ですね。」
すごい! あの選手が入り乱れている中でたった一度のプレイからそこまで読み取ってるなんて。ホントに詩織ちゃんサッカーをずっと勉強してるんだな。
「ファーが空いているとパスを出した高瀬選手も素晴らしいですし、すこし引いた位置でパスを要求してミドルを狙うモーションで相手選手を引き付けていた棟田選手も素晴らしい。恐らく練習した形では無かったと思いますので、やはり地域リーグの頃からそうですが、ヴァンディッツのこの瞬間発想的なプレイは最高にワクワクしますね!! (詩織)」
「これで1対0。ヴァンディッツ選手が喜ぶ中でも、先制された大阪はすぐに全員で一瞬輪になりプレイを確認し合います。修正を共有しているのでしょう。」
「こう言った所をしっかりと出来ている所がAC大阪さんがJFLで戦い続けられる理由でしょうね。」
ホーム戦、最高の滑り出しです。
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登場人物紹介01を加筆しました。申し訳ありません。ホテル事業部の浦部さんを書き忘れていました。
こりゃぁ、他にもいそうだぞぉ....苦笑




