第13話 いざ!開幕戦
2022年3月 春野総合運動公園 球技場 <冴木 和馬>
球技場前の広場には数人のスタッフが入場用のチケット販売やもぎりを行う為のテントの設置をしていた。運営統括部のスタッフと共に挨拶をする。荷物搬入用の車を入り口に停めたいと言うと今から1時間ほどは車が入る予定は無いと言う。
「司、古川、車OKだ。今から30分で下ろすから全員そのつもりで。」
今回営業部と施設管理部のメンバーが手伝いに来てくれている。と言っても、元ヴァンディッツメンバーだ。司と古川は試合に使う道具をパンパンに詰めたバンに乗って駐車場で待機している。
今日はヴァンディッツの運営スタッフは全員がインカムを付けている。試合中はもちろん電源はオフにするが、準備と撤収の時間帯はこれを使って連携を取る。バンが二台一斉に入り口に入るとメンバー6人で一気に荷物を下ろしていく。
スタッフの方にうちの控室の場所を聞き、どんどんと荷物を運びこむ。すると手伝ってくれている人がいた。おいおい、向月の浩伸君じゃないか!
「浩伸君!! 良いよ良いよ!」
「いやいや! 俺達も横断幕とかの設置ありますから。一気にやって場所空けちゃいましょう。」
本当に助かる。向月の男性メンバー4人も加わってくれて荷物はあっという間に下ろす事が出来た。司達が運動公園の近くにあるスポンサー企業の敷地に車を置かせて貰いに行く。そこからは待っている秋山の車で全員がこちらに来る。小さい事かもしれないが、運動公園の駐車場を一台でも空けておく。
俺達は控室に入り、どんどんと準備を進めていく。選手周りの事はホペイロ班だったり主務・副務の方が詳しいし作業も早いので邪魔しないようにする。俺は言われた事を黙々と手伝う。選手達が来るまであと30分。準備は完璧だ。
そこで高知ユナイテッドSCさんの運営の方から挨拶をされた。お互いに良い試合をと握手を交わし、社長さんとは名刺の交換もさせていただいた。
グラウンドを見ると向月の皆とサポーターさん達が皆で横断幕やフラッグをフェンスに括りつけている。都道府県リーグ時代から使用している笹見建設さんからいただいた横断幕やフラッグもあれば、JFL昇格を機に向月の皆が作ってくれた横断幕もある。
高知ユナイテッド側のゴール裏にも見事な横断幕と選手個別の横断幕が所狭しと準備されていた。さすがの迫力だ。
そして、二つのチームの横断幕に共通している言葉は『高知からJへ!』だった。
「和馬さん、選手バス入ります!!」
雨宮の声が控室に響く。俺達は選手達が下りる入り口横の駐車スペースへと走っていく。バスの周りには邪魔にならないようにすでに向月のメンバーが集まっている。そこで歌ってくれているのが昨年の地域CLの時から歌い始めたオリジナルのチャント『Vandits Anthem』だ。
「心燃やせ! 体踊れ!」の歌詞が印象的なチャントで選手達もサポーターの皆さんに手を挙げたり頭を下げながら控室入りする。
選手達が準備をしながら百瀬から高知ユナイテッドの対策が伝えられる。しかし、俺達は聞いている時間は無い。ゴール裏(球技場の場合はバックスタンドがゴール裏扱いだが)やメインスタンドに来ていただいている譜代衆や国人衆の皆さんに挨拶に回る。
まだ試合開始まで一時間以上あるが、ゴール裏は半分が深緑色で占拠されている。頼もしい限りだ。ゴール裏に挨拶に行くとサポーターの皆の笑顔が爆発する。待ちに待った開幕戦、しかも相手は高知ユナイテッド。興奮しない方が可笑しい。
「来ましたね!! 冴木さん!!(三原)」
「頼むよ!!! 絶対あいつらガチガチだから! 皆が和らげてあげて!!」
皆から笑いが起きる。今年から発売し出した応援フラッグを既に購入してくれているサポーターの方がたくさんいる。何より今シーズンのユニフォームをこれだけの人が買い揃えてくれている事に嬉しさを覚える。中には初心を忘れないと言う意味で初期の頃のユニフォームの方もいたりした。
高知ユナイテッドさんのゴール裏にも挨拶に行く。少しビックリされている様子だ。しかし、これからずっと切磋琢磨していく高知県のフットボール・ファミリア(家族)だ。
「Vandits高知の運営統括部長の冴木和馬と申します。やっと高知ユナイテッドSCさんと試合が出来る所まで来る事が出来ました。今日は皆さんで良い試合にしましょう。」
そう言うと、コールリーダーの方と握手をしたあと、彼が音頭を取ってくれて「ウェルカムヴァンディッツ」コールが即席で起こる。少しグッと来てしまった。深々と頭を下げてその場を下がる。
選手達のウォーミングアップは始まっている。控室に戻ると皆が出た後の控室をまた雨宮達が次に使いやすいように用具の入れ替えやドリンクの補充などを行っている。今までの練習試合と公式戦の日々が活きている。
さて、JFL開幕戦。どうなりますか。
・・・・・・・・・・
<常藤 正昭>
球技場のメインスタンドに到着しました。南側席がアウェイ席になっているようです。と言っても、きっちりとアウェイ・ホームで分かれている訳では無く、何となくサポーターの皆さん方が察して分かれているような感じでしょうか。
スタンドに行くと既に笹見さんご一家はおいでになられていました。
「おはようございます。遅れまして申し訳ありません。」
「聞いとる。朝から打ち合わせとは忙しいな。しかし間に合ってよかった。(徳蔵)」
「ありがとうございます。しかし、ヴァンディッツサポーターがこれだけたくさん集まっていただけて良かった。」
「これでも恐らく控えてくれた方々もおるだろう。いつも通りの人数が来ていたら高知ユナイテッド側のサポーターが座る席が無かったかも知れん。まぁ、そこは高知ユナイテッドさんは次回からの改善点じゃろうな。」
確かに普段のホーム戦でもヴァンディッツサポーターだけで安定して1500名の集客が出来ているうちとしては今回は少し少ないとも感じます。しかし、球技場自体が非常に席が近いので、人が多いように感じてしまうのかも知れません。
「JFLに上がって来たと言って今までのように連戦連勝なんて考えていないよ。まず今シーズンはJFLで無事に戦えると言う姿を見せてほしいね。(正樹)」
「まぁ! 控えめですね。常藤さん! 昇格ですよ! 一年目から狙っていきましょう!! (愛)」
「ははは。もちろんでございます。選手達も気合が入ってますので、ただ入り過ぎていないかが心配です。」
「そうじゃな。八木君あたりはすぐに入り込んでしまうからのぉ。....そうじゃ、常藤。高校の事じゃがな。万事問題無しとの報告じゃ。四月までにはパンフレットとHPが完成する。申し訳ないが有力な中学生などにスカウトをお願い出来るかの?」
「畏まりました。スカウト部の方に声をかけておきます。ありがとうございます。急がせてしまっているのではないですか?」
「何とか来年に一回生を迎え入れたい。そうすればJFL四年目には一人でも有望なユース生を送り出せるかも知れんからの。」
「ありがとうございます。」
徳蔵氏も以前の打ち合わせで一年でのJFL昇格は現実的では無いとの判断だと理解してくれていました。私立高校の校舎はほぼ完成し、運動場と人工芝のサッカーグラウンドが二面完成しています。今は技術棟と呼ばれる木工建築科が使用する講義棟を作っています。それも夏前には完成予定です。
はっきり言って学園がこの三年間で学園に投入した寄付金はとんでもない金額になっています。我々のクラブハウスや駐車場など可愛いものです。
さて、選手達が入って来ましたね。ついに開幕戦ですか。年甲斐もなく興奮してます。




