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第14話 第一節

2022年3月13日(日) 春野総合運動公園 球技場

【第24回日本フットボールリーグ第一節 高知ユナイテッドSC戦】

 Vandits高知、前身であるVandits安芸発足以来の目標の一つであった公式戦で高知ユナイテッドSCと戦う事。県リーグ2部で発足した時に高知ユナイテッドSCは既に四国リーグを戦っていた。四年間をかけてやっと辿り着いた臙脂と深緑のユニフォームに選手達の気合は最高潮に達していた。


 開幕戦スタメン。GK和田。CBはキャプテン大西。右CB和瀧は公式戦スタメン一年半ぶり。左CB岡田。このオフにずっと3人の連携を高めてきた。MFはボランチ五月、右ウイングに成田、左ウイングに高瀬、OHは安定の伊藤と八木。そして2トップは右に棟田、左にレンタル移籍での新加入した藤村が起用された。


 試合開始から両チームは高い位置でのプレッシャーをかけていく。フィールド中央でのボールの奪い合いが続くが、ボランチ・最終ラインの壁は厚くチャンスの無いまま時間だけが過ぎていく。それでもヴァンディッツサポーター達は高知ユナイテッドと互角に渡り合うVandits高知を見て更に応援の熱が上がって行く。

 『勝負出来る!』その想いを惜しみなくピッチの選手達の背中へと届ける。


 そんな中で前半21分。中央突破した棟田の放ったシュートは相手GKに跳ね返されるもそのこぼれ球を藤村がワンタッチで八木に繋ぎ左足でシュート。これも相手DFの足に当たるが、それを五月が拾ってエリア内の藤村に繋ぎそのまま流し込む。ヴァンディッツ、待望の先制点を奪う。

 記念すべきJFL初得点は藤村となった。藤村は八木達が押し掛けるのを振り切ってヴァンディッツサポーターのもとへ。サポーター達と抱き合って喜ぶ。活躍が期待された期限付き移籍選手のさっそくの挨拶弾にサポーター達は湧いた。


 しかしその後、再三ヴァンディッツがチャンスを演出するが、ユナイテッドの硬い守備の前に尽く防がれる。前半終わってみればシュート6本、コーナーキック4本を放ちながら追加点には繋がらなかった。


 後半に入りついに高知ユナイテッドが牙をむく。後半59分、大西が相手陣内中央に展開する八木にパスしたボールが相手MFにワンタッチでクリアされ、それが上手く左サイドに展開していた相手DFに繋がる。前に大きくボールを蹴り出し、前掛かりになっていたヴァンディッツ最終ラインを追い抜くように左サイドを一気に駆け上がる。たった1本のパスでの一気のカウンター。そのままエリア左サイドをコーナー付近まで駆け上がり、低く速いクロスがエリア内で待つ相手FWの元へ。そのまま左足ワンタッチした力強いシュートがゴール右隅へ飛び込んだ。


 ここまで強固を誇って来たヴァンディッツのディフェンスラインがショートカウンター一発で完璧に崩された。『これがJFL、これが高知ユナイテッド』。それをしっかりと思い知らされるだけの完璧な崩し。一瞬のチャンスを見逃さない。大西を含めDF陣に新たな課題を突き付けられた瞬間だった。


 試合は1対1の引き分け。注目された開幕戦、高知対決は勝ち点1を分け合う形での結果となった。サポーターへ挨拶に向かった選手達に笑顔は無い。攻勢だった前半を引っ繰り返され余りある勢いを見せつけられた後半。チームにはまだまだ足りない部分があると感じた開幕戦。


 勝ち点3。次こそは。決意を新たに全員で頭を下げた。


 ・・・・・・・・・・

<藤村 雄平>

 初試合で初得点。しかもチームとしてもJFL初得点。個人的には上々の滑り出しだと思っていた。チームを勝利に導く事は出来なかったけど、リーグは長い。ここからチーム全体の勢いをつけていければいい。そう思いながら控室に戻ろうとした時だった。


 ピッチ上に残る選手達がいた。八木さん、伊藤さん、岡田さん、成田君、和瀧さん、大西さん。六人が集まってずっとピッチ左サイドを指差しながら、時には体を使ってジェスチャーで表しながら何か話をしている。

 見ていて理解出来た。あのショートカウンターへの対応の反省をしているんだ。何度も何度も意見を交わし合い、コーチが声をかけてもまだ続けている。横断幕を片付けていた両チームのサポーターも何事かと眺めていた。


 岡田さんが声を荒げる。まだチームに合流して期間は短いけど、岡田さんが感情をあそこまで表に出すのを見るのは珍しい。大西さんと何度もラインの統率で話をしていた。結局、監督まで出てくる事になり片付けやクールダウンもあるので話し合いはここまでになった。


 頭を鈍器で殴られたような感覚だった。

 俺はここまで出来ているか? そう問われている気がした。1点取れた事に満足してはいなかったか? チームに合流したばかりでこの結果ならOKだろうなんて、思ってはいなかったか?

 そんな時にジョーさんの言葉が頭をよぎった。


 『J2のプライドなんて捨てていけ。学生の頃の、必死にボールとレギュラーを追いかけ続けた頃を思い出せ。そうじゃないとお前は何の成長も無いまま帰って来る事になるぞ。』


 胸が熱くなるのと同時に、やり場の無い悔しさが込み上げてくる。こんな事で満足する程度の選手なのか。チームを勝たせてこそのCFじゃないのか。俺に期待されてるプレイはこの程度じゃないはずだ。まだ出来る。もっと出来る。

 ユニフォームを脱ぎながら込み上げてきそうな想いをグッと堪えて皆の話し合いの輪の中に加わった。


 ・・・・・・・・・・

<冴木 和馬>

 帰る車の中、皆の雰囲気は暗い。1対1。引分け。勝ち点1。数字以上に見せつけられた高知ユナイテッドの実力。正直に言えば、良く勝ち点1をもぎ取れたと言えてしまうほど後半は劣勢続きのまま試合を終えた。


 帰りの車は司、中堀が同乗していた。二人に今日の試合の感想を聞いた。


 「中盤は悪くなかったように思います。ハイプレスも機能してましたし、スタミナ面でも十分に90分間走りきれる体力はありました。まだ開幕戦と言う事もありますけど、ここ数年の連戦などへの対応は身に付いていると感じます。(中堀)」

 「後にも先にもあのカウンター一発やね。あれで大西が感覚的に後ろ向きな気持ちになったのがその後の押し込まれる場面を生み続けた原因の一つでもあると思う。(司)」

 「あの場面ではこちらからもっと出ていく方が良かったって事?」

 「元より引き分け狙いながやったらあれで良かったやろうけど、前線二人は明らかに攻撃意識も高かったし、相手DFに対しても全く勝負になってない訳でも無かったやんか。珍しく大西が失点を怖がってしもうたんやろうね。試合後に岡田が怒ってたんはそこやと思うわ。」

 「最後の方に見えてた守備のチグハグ感はそこだったんですね。(中堀)」

 「相手に気付かれる訳にはいかんし、岡田は必死に中盤との意識の連携を大西にするように声掛けしてたんやけどね。たぶん無意識とは言わんけど、本能的な部分で引く選択を優先してしもうたがやろうね。」


 俺からすればチーム発足当初から守備の要をずっと務めてくれている大西にまだ成長しなければならない部分がある事に驚きと少しの楽しみを感じていた。本人に話せば気分は良くないかも知れないが。


 「高知ユナイテッドの印象は?」

 「やはり徹底した守備とショートカウンター。分かっていたにも関わらず、完全にやってのけられたのはそれこそ実力以外の何物でも無いですね。あれを偶然決まったなんて考えてたらJFLで一勝も出来ません。そこは来節までに全員でもう一度対策を練り直すべきです。」

 「ポジティブに捉えれるトコもあるしね。開幕戦で露呈したって言うがは、それはそれで修正出来る余地に早く気付けたって事やろうし。何より勝ち点1はしっかり取れてる訳やから。まぁ、高い目標意識でおれてるんは良い事やろうけどね。」

 「なるほど。分かった。有難う。」


 俺が二人にそう言うと二人が少し笑った。


 「何だよ?」

 「いや、和馬さんもホントに《《運営統括部》》なんだなぁって。」

 「え?」

 「今までクラブやチームを運営する事でオレらに質問する事はあっても、こうやって戦術とか結果に対しての質問ってあんまりせんかったやんか。ちゃんとサッカー勉強しようとしてくれてるんやなぁって。」

 「当たり前だろう。苦手とは言え、いつまでも素人って訳にもいかない。付け焼刃だとしてもチームが目指すモノとか試してる事を理解しないと、運営として支える方向が見えないじゃないか。」

 「それが皆嬉しいがよ。」

 「そんなもんかねぇ。」


 二人に笑われながら車を走らせた。

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