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episode Ⅱ 継続してきたモノ

2021年8月 スタッド・ルバートン <飯島 賢太>

 何やら叫びながら近付いてくる男の言葉をササキさんがすぐに通訳してくれる。あぁ、なるほどね。

 俺が小さく笑うと『何が可笑しい!!』とキレている。どうやらこのチームのセンターフォワードの選手らしい。早く言えば当面のライバルだ。誰かがその男を止め始めた。ササキさん情報ではこのチームのキャプテンで結構な人格者らしい。


 俺を睨みながらCF君が練習に戻っていくと、キャプテンがこちらに近付いてきて何やら話す。ササキさんを通して会話する。


 『すまん。口は悪い男だが悪気は無いんだ。許してくれ。君を歓迎するよ。』


 キャプテンの名前はエンドレ。国籍はノルウェーの選手らしい。ポジションはGKだそうだ。


 「構わない。自分もドイツ語がまだ話せないから、嫌味を言われても理解出来ない。あの人には悪い事をした。」


 そう言うとエンドレは大笑いして『ジョークの通じそうな奴で良かったよ』と言われた。そしてシュート練習かと聞かれたので、日本で続けているパス練習だと伝えると驚いた表情でこちらを見ている。


 『そんなスピードのボールでパス練習をするのか? 日本では。』

 「全部のチームじゃない。うちはパスとトラップの練習を重要視してたから、特に厳しく指導された。」


 そう伝えるとエンドレは対面でのパス練習をしようと誘ってくれた。日本でやっていたメニューでやってくれと言われて、ササキさんに通訳を頼みながら基礎のパス練習を始める。

 止めて・蹴る。この単純な二つの行動の中にサッカーと言う競技の大部分の技術が詰まっていると自分では理解している。エンドレはお世辞にもトラップが上手い選手では無かった。しかし、俺はどんどんとパススピードを上げていく。段々とその場で止める事すらも難しくなってきた彼はストップの仕草を見せた。


 『こんなに難しい事を続けてるのか。これはプロの練習じゃないのか?』

 「練習にプロもアマチュアも無いよ。プロになりたいならプロがしている練習をしなければ追い付けるはずがない。少なくとも俺はそう教えて貰った。」


 ヴァンディッツメンバーには嫌と言うほど叩き込まれた【槙田さんの教え】だ。彼は振り返って選手達の中から一人を呼ぶ。チームのCBを務めているアルヴァーだそうだ。このチームでは一番トラップが上手いらしい。


 俺はさっきと同じ練習をアルヴァーと始める。既に周りには何人もの選手達が集まっている。


 「遅いっ! 遅い遅いっ! もっと早く! トラップしたらボールは確実に止めるんだ。ボールが動いちゃダメだ。確実に勢いを殺すんだ。」


 確かに多少は巧かったが、司さんや伊藤さん達に比べれば天地ほどの差がある。当然俺よりも巧いとは思えなかった。


 「ボールの止め方はひとそれぞれ癖もあるから、これだって指導は難しいけどボールを止めた時に自分の意図しない方向にボールが流れてるようじゃボールを一瞬目で追わなきゃいけなくなる。その間に相手に詰められる。」


 ササキさんから通訳して貰った言葉を聞いて、この練習の意味を少しは理解してくれたらしい。しかし、それでもこの練習をアマチュアの自分達が続ける難しさの方に納得がいっていないような選手が多そうだ。ホントにこの人達はプロになりたいのか。

 エンドレが俺に質問してくる。


 『イイジマ。君はこの練習を何年続けているんだ。』

 「ケンタで良いよ。パスとトラップに特化した練習と言うなら五年。この強度のパスで練習し始めてからは一年半だ。」


 何人かの選手から「信じられない」と聞こえてくる。うん。これくらいの単語なら聞き取れてるな。よしよし。


 『この練習を続けてまだプロからお呼びがかからないって事だろ?』


 またこいつか。色々と突っかかって来るなぁ。


 「やっとプロ契約に繋がりそうな海外チームからの話が来たかと思ったら、こんなチームだったからガッカリしてる所だよ。これなら元のチームにいた方がプロ入りは早かったかもしれないな。ただ、ポジション争いは楽そうだけどね。」

 『なんだと!!! 貴様っ!!!』

 『やめろッッ!!!』


 チームの雰囲気が一気に悪くなるのが分かった。まぁ、嘘は言って無い。監督も試合さえ出来て結果が出せるなら文句は言わないと言った。試合を無事に遂行したいなら俺を出さなければ良いし、こんな状態のチームならベルノに協力して貰って他のアマチュアチームを探した方が可能性はありそうだ。


 初練習は自分で招いた結果だが、最悪のまま終わる事になった。


 ・・・・・・・・・・

 結果的に選手登録は間に合わず第二節に出場する事は出来なかった。俺は観客席でベルノと共に試合を見る事になった。が、古豪と言われていてプロリーグ昇格も経験しているチームだと言うのが疑わしいほどに選手個人の技術高く見えるがチームとしての成熟度は低く見える。いや、リーグ全体が低いのか。相手チームもそれほど上手いと思う選手は見当たらない。


 ベルノが隣でリーグ全体の解説もしてくれる。ベルギー3部は二つのリーグで構成されていて全体では28チームが2部昇格を目指している。昇格できるのは各リーグの優勝チームのみ。しかし降格チームは年間4チーム以上になる事もあり、正直言って入れ替わりは相当激しいようだ。その辺の知識は俺も咲坂さんから聞かされてきてはいるけど、FCデュビスはその片方のリーグでもう10年近く停滞してしまっているらしい。降格はしないが昇格も有り得ない。惜しいとか危ないとか言うレベルでは無い。良い意味どころか悪い意味で期待も見放す事も出来なくなっているチームがFCデュビスだとベルノは言う。


 「ただ1部・2部リーグからの注目はもちろんだが、他の国のリーグからも注目は高まっている事は確かだ。リーグ全体で言えば、毎年何名もの選手が個人昇格を果たしている。言い方は悪いがチームで昇格出来ないなら個人でしてしまえって考え方が定着してしまっているクラブが多いんだよ。」

 「なるほど。そりゃ、これだけチームもバラバラになるはずだ。」

 「これが1部や2部に上がれば全く話は変わるんだろうけどね。特にこの3年ほどはFCデュビスから個人昇格者は出てない。一番最近の個人昇格者はあのCFのウージャだよ。」

 「出戻ったって事?」

 「そう。怪我もあったんだけどね。2部に2年間で15試合出場して1得点も上げられなかった。それから少しプレイと言動が荒くなったって噂だ。」

 「自分が失敗して周りに当たってるのか。迷惑な奴だなぁ。」


 俺の言葉にベルノは親指を立てながら爆笑している。ただ正直言って前線との連携が全く取れていない。誰もが好き勝手にやり過ぎだ。勝てている試合もあるらしいが、そりゃ完全に個人技で圧倒出来ているからだけだろう。それなりにチームとして成り立っている所と当たったら勝負にならないはずだ。


 「しっかり連携が取れるようになれば昇格だって夢じゃないと思うんだけどなぁ。」

 「昇格してもスポンサーやオーナーがそれを維持出来るかどうかも大事な要素になるからね。そう言った意味ではデュビスにはその危うさもあるかも知れないね。」


 なるほど。チームで昇格出来ても上のカテゴリーで勝負出来るだけのスポンサー収入を得られるかどうか分からない。だからこそ選手は個人昇格を目指すようになる。悪循環な訳か。


 「移籍したくなってきたかい?」


 いじわるそうにベルノが顔を覗き込んでくる。


 「まぁ、1試合くらいは出てからじゃないとね。自分が何も活躍出来ずに移籍だけ口にしてたら只のビックマウスと思われるだけだからね。」


 とりあえずしっかりやりましょう。しっかり。

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