表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/40

episode Ⅰ 遥か西へ

※ここからはベルギーへ移籍した直後の飯島賢太の話になります。時間軸は2021年8月へと遡ります。

 ・・・・・・・・・・

2021年8月 ベルギー <飯島 賢太>

 東京からベルギーのブリュッセル国際空港へ移動した。初めての海外、初めての国際線。緊張しなかったと言えば嘘になる。ここからは心強いチームメイトも頼もしい彼女もいない。一人で戦う事になる。


 直美さんからはトークアプリに『帰ってきたら覚えときなさいよ!』とお怒りのメッセージをいただいた。たしかに....ちょっとやり過ぎたか。まぁ、とりあえず忘れよう。


 空港の発着ロビーから空港出口を探す。すると『飯島賢太』と言うメッセージボードを持った男性が立っている。しかも漢字で書かれている。クラブの人が空港に来るとは聞いていない。向こうからはとりあえずテュビーズと言う都市にあるスタッド・ルバートンと言うサッカースタジアムに今日中に着いてくれと言われているだけだ。その事をヴァンディッツで話した時には和馬さんがマジでベルギーまでついて行くと言い出して、皆を焦らせた。


 恐る恐る男性に近付いていくと男性はジッと俺を見た。じっくり上から下まで観察している目線だった。


 「ヴァンディッツから来たイイジマで合っていますか?」


 日本語だ。しかも流暢な。


 「そうです。飯島賢太です。」

 「ベルノ・ハンセンです。ヴァンディッツにいるアラン・水守の友人。」


 言葉は端的だけど、必死に笑顔でにこやかに話そうとしてくれているのが伝わる。俺も覚えたばかりのドイツ語で「よろしく」と伝える。すると、ベルノさんは困ったような笑顔で応えてくれる。


 「大丈夫。僕はスウェーデン出身だ。まぁ、君が行くFCデュビスはドイツ語を話す選手が多いからドイツ語を勉強しておくのは良い事だよ。」

 「ありがとう。」

 「アランと莉子から君の事を頼まれた。僕はヘントと言う街に住んでるんだ。仕事もしてるからずっと一緒って訳にはいかないが、少しは助けになれるはずだ。」


 心底ホッとする。ベルノさんが差し出してくれた右手に思わず思いっきり握手してしまい、苦笑いされてしまった。敬称はいらないと言ってくれて、聞くと同い年だった。

 そこからベルノの運転でチームのある都市テュビーズに向かう。結構良い車に乗ってるんだなぁと車内を見ていると、ベルノが自分の話をしてくれた。


 ベルノはオランダにある高校・大学でアランと同級生だったようで、今はベルギーにある日本企業で勤めているらしい。企業名を聞くと俺でも知っている法人向けのエアコンや空気清浄機などで有名な大企業だった。そりゃ良い車乗るわ。


 ベルノはサッカーも好きらしく、実はJリーグや日本代表もアランと莉子ちゃんの影響で好きになったらしい。Vanditsの事もネットを通じて応援してくれていて、俺がベルギーリーグへ移籍すると発表した時には実は嬉しかったと照れながら教えてもくれた。どうやら良い人みたいだ。


 「ただケンタ。FCデュビスにはあまり君の移籍を好意的に捉えている選手は多くない。まぁ、それは君だからとか言う事では無くて、ヨーロッパの下部リーグでは当たり前の事なんだ。みんなチームメイトである前に競争相手だからね。」

 「分かるよ。結果で認めて貰うしかないと思ってる。」

 「そうか。何かあれば言ってくれ。少しは力になれるはずだ。」

 「ありがとう。じゃあ、とりあえず簡単なドイツ語から覚えていきたいな。パスくれ!とかね。」


 そう冗談っぽく言うとベルノは大きな声で笑って「じゃあ、普段は出来るだけドイツ語で会話しよう」と提案してくれた。


 空港からスタジアムまでは一時間ほどで到着した。テュビーズと言う都市はそれほど大きな都市と言う訳では無い。高層ビルは見かけないし何車線もあるような大きな道路が縦横無尽に、みたいな雰囲気も無い。ただ良くテレビで観るようなヨーロッパ特有の赤レンガ造りの家が建ち並んでいて、それだけでも海外に来た実感が湧いてくる。


 スタジアムである『スタッド・ルバートン』に着く。なぜかベルノも事務所まで付いて来る。どうやらチームには生活を補助するスタッフがいるとヴァンディッツから伝えてくれているらしい。ベルノは俺と一緒ならば練習場や事務所への出入りが許可されているらしい。


 事務所には日本人がいた。ササキさんと言う日系2世の方だった。日本語はベルノの方が上手だが、生まれてから数年前までずっとドイツに住んでいたそうで、ベルノがいない時にはドイツ語の指導もしてくれると言ってくれた。


 監督は少し厳しそうな感じのおじいちゃんだった。握手をされて今後の予定を説明される。年間リーグは既に開幕していて、とりあえず選手登録は今週中に終えるらしいので、早ければ今週末の第2節から、間に合わなければ来週末の第3節から出場してもらうつもりだと告げられた。

 ポジションはFW。はっきりと「結果しか求めていない。君が誰と仲良くしようと揉めようと試合を無事に遂行し結果さえ出せば私は何も文句はない。」と言われた。いやぁ、ヴァンディッツの板垣さんとの振り幅が凄すぎて、笑ってしまいそうになるのを必死に堪えた。


 その後、ササキさんとベルノと共にチームの用意してくれた部屋へ向かう。中に入ると意外に広いワンルームで、ベルノに聞くと「良い部屋だ」と言う感想なので問題なさそうだ。まだ会って半日しか経っていないけど、自分の中ではベルノの信頼度は天井知らずで上がり続けている。


 ササキさんから夕食に誘われ、ベルノに予定を聞くと空いていると言うので3人で地元で有名なレストランに行った。食事の感じは合いそうだった。海外経験の多いデポルトの上司の皆さんが口を揃えて言っていたのが、海外の地元料理に口が合わなかったら一生日本のチェーン店を探し続ける苦痛に合う事になると言われていたが、その心配はなさそうだ。


 次の日、夕方からの練習に参加する為、スタジアムに向かった。ピッチは思ったよりも状態は良い。当然だが日本人どころかアジア圏の選手は俺一人だった。監督から紹介されるが何を話しているかは分からない。オレの後ろにぴったりくっついてくれているササキさんが小さな声で通訳し続けてくれている。

 ホントに早くドイツ語を覚えないとササキさんが過労で倒れてしまいそうだ。


 練習が始まる。基礎練習は良いのだが、チーム練習になった時に一切パスが回ってこない。試合でパスが貰えないなんて話はスポーツ番組やなんかでプロ選手が話しているのを聞いた事があったが、まさか練習でも回ってこないなんてこいつら勝つ気があるのか。


 仕方がないので、一人でドリブルとボールタッチの練習を始める。ササキさんがボール出しをしてくれる。それだけでも有難い。チームメイトの目など今は気にしている時ではない。ベルギーへの移動なども含めて三日ほどボールを使った練習が出来ていない。感覚は逃したくない。コーンマーカーをボール二つ分の広さを開けて並べて置き、そこにボールを通していく。ササキさんにランダムにボールを出して貰い、出来る限り2タッチ以内にボールをマーカーに向かって蹴る。

 ヴァンディッツでもずっと続けていた練習だ。何人かの選手がこちらを見ているのが分かる。しかし構わず続ける。


 『おいおい。わざわざアジアからストライカーを獲ったって聞いたのに、まさかこんな弱いキックの選手を呼んだのか!!』


 誰かがこちらに向かって歩いて来る。すまんがそんな早口で喋られても俺には分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ