第12話 開幕直前
2022年2月 Vandits garage <板垣 信也>
今日は事務所の会議室をお借りして、コーチ陣が集まって先日の新潟とのテストマッチの内容を検討する事になっています。今年もオファーがあった時は本当に驚きましたが、こう言った機会はそうあるものではありません。しっかりと去年からの課題点の修正具合を見ながら今年の強みを出せるようにしようと話していました。
「相変わらず新潟の中盤の硬さは安定していましたね。早々に崩せるものではないとは思っていましたが、あそこまでとは。まだまだうちとしては攻め方のパターンを探らなければいけないと感じました。(百瀬)」
「フィジカル面では劣っているとは思わなかったが、やはり一番の差はGKの成熟度と言う面かも知れない。3セット目で起用した土居の時以外は軒並み失点を許してる。今後の課題としてはGK経験値って所だろうか。(片倉)」
「まぁ、GKコーチ目線としては無視出来んところじゃろうな。儂としては守備陣に大きな課題があったようには見えなかったがの。それよりは決定機に尽く外し続けたFW陣を叱咤する必要があるじゃろう。3得点中2得点が育成加入の藤村じゃ。これではFW陣が何をしとるとサポーターに言われても仕方ない結果じゃと思うがの。(御岳)」
コーチ達それぞれに課題は見えています。相手はJ2所属で今季昇格最有力と言われているチームです。JFLに上がったばかりのヴァンディッツが勝負出来るとは思っていません。しかし、その中でもFW陣の得点力と言う部分ではテコ入れは確実に必要になります。
飯島君が抜けた後、棟田君の踏ん張りのおかげでヴァンディッツはチーム全体としての得点力は下がる事はありませんでしたが、得点機会が棟田君に集中し他のFW陣が得点に絡む場面と言うのは確実に減ってしまっています。
この部分を今季どう変えていくのか。コーチ陣の最大の課題です。
「懸念点であった右サイドの馬場君の抜けた部分は皆さんとしてどう判断しますか?(板垣)」
「大野で問題はないですね。ただ体力面と言う部分で成田との使い分けは必須と言えますね。成田も今回のテストマッチに関しては攻撃にも上手く連携出来ていましたし、コンバートとまでは大きな変化ではありませんが右サイドでの起用は問題ないように思います。(高橋)」
「では、右CBは基本は和瀧を中心にして状況に応じて岸本、もしくは石井と言う考えで行きましょう。(百瀬)」
「観客席の盛り上がりもすごかったですね。やはり開幕戦の日程に期待が上がってきているんでしょうね。(上谷)」
全員の視線が自然と和馬さんに向けられる。それに気付いた和馬さんはニコリと笑顔になる。
「俺は口を挟まないよ。それなりに勉強は続けてるけどやっぱり俺にはどの選手がどこのポジションとか戦術とかそう言う事は分からんしね。ただ、開幕戦への期待感って意味では相当に大きい事は確かだ。」
和馬さんがPCを操作してモニターに今シーズンの日程を映しだします。その一部分を大きく拡大していきます。
第24回 日本フットボールリーグ(2022年)
第一節
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3月13日(日)13:00 高知ユナイテッドSC 対 Vandits高知
高知県立春野総合運動公園陸上競技場 球技場
「まぁ、メイン競技場じゃないってのが残念な所だが、JFLの最初の戦いを高知対決にしてくれたJFL運営部には感謝しないとな。」
「前売りの問い合わせ凄いって話ですけど。(森)」
「今頃、高知ユナイテッドさんの事務所は前売り発売に向けて忙しくなってるだろうな。球技場にした事を後悔させてやらないとな。しかし、まずはしっかりと結果を求めていく事。だろ?」
「もちろんです。(板垣)」
選手・サポーターだけではありません。私達も充分に戦闘態勢には入っていました。
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2022年3月 高知市内某所 <三原 洋子>
「まさかここに来る事になるとはね....」
私達は今日、まさかの場所を訪れていました。『高知ユナイテッドSC事務所』。開幕戦の相手である高知ユナイテッドさんの本丸です。
と、煽ってますけど大した理由ではありません。開幕戦の前売りチケットを購入する為です。今までは試合観戦にチケットは必要ありませんでしたので、皆が各々現地に集まって応援する形でしたが、JFL昇格後は入場チケットを購入する必要がありそれが無ければ当然会場に入れません。
私達「向月」のメンバーの中には地元のお年寄りも多く、前売りチケットをネットかコンビニで買っておいてねと言っても、やり方が分かる訳がありません。
Vandits側でも芸陽バスさんとタッグを組んで『JFL開幕戦応援ツアー』を組んで下さり、バス代にチケット代も合わさった日帰りツアーの売り出しがあり予定人数200名はまさかの二時間で売り切れたと聞いています。
私達はツアーに申し込めなかった向月メンバーのチケットを一緒に購入しに来たのです。事前に電話で問い合わせてから事務所に向かいました。
「....お電話いただいた三原様ですね。こちらへどうぞ。」
私は運転手を務めてくれた浩伸君と二人で買いに行ったのですが、当然上半身はヴァンディッツユニフォームです。あちらの職員さんがビックリするのも分かります。違うクラブ事務所にユニフォームで来るなんて見る人が見れば喧嘩を売ってると思われても仕方ありません。
しかしこう言った事でも何かしら話題になるなら、ユニフォームでだって行きます。職員さんは笑顔で応接用のテーブルに案内してくれてました。
私達は購入するのは185枚。これだけでも一人で購入する枚数としては最多だと職員さんが教えてくれました。何度も枚数と金額を確認してくれて無事に購入が終わると、女性の職員さんが「写真良いですか?」と笑顔で聞いてくれて、私が職員さんからチケットを受け取るようなポーズで何枚か写真を撮ってくれました。
えっと....何か人気者になった気分です。クラブ広報で使って良いですかと聞いてくれたので、もちろんと答えて私達も何枚か写真を撮らせていただきました。
少しでも試合を盛り上げる事が出来れば本望です。
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その二日後、高知新聞に一つの記事が掲載される。地域欄の記事ではあったが、高知ユナイテッドSC事務所で撮られた一枚の写真と共に、『JFL開幕戦高知対決を前にサポーターの心熱く』の見出し。
日本フットボールリーグの開幕戦前売りチケット発売日となったこの日、発売元の一つでもある高知ユナイテッドSC事務所に対戦相手であるVandits高知のサポーターが前売りチケット購入に訪れた。
訪れたのはVandits高知のサポーター応援団でもある「向月」のリーダーでもある三原さんとメンバーの三田さん。お二人でなんと180枚近い枚数をお買い上げ。
「芸西村や高知県東部でヴァンディッツを応援しているサポーターの仲間の中には高齢でネットやコンビニでチケットを買うのもおっくうになってる人が沢山います。それを私達が代わりに購入してお渡ししてるんです。」
と笑顔で応えてくれました。
こうして広がる高知のサッカー熱。本番となる3月13日には多くのサポーターが春野に結集する事だろう。
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