第11話 再びのテストマッチ
2022年2月 春野総合運動公園球技場 <及川 司>
今日はVandits高知のテストマッチの日だ。相手は昨年に引き続きJ2所属のアルビニス新潟だ。新潟は昨シーズン6位で終了し、J1昇格を惜しくも逃した。今季への意気込みは去年以上だ。
今回は昨年とは違い正式なテストマッチ依頼で、観客も若干だが入っている。オレはもうVandits高知メンバーでは無いのだが、監督や新潟さんからもお声がかかって裏方スタッフとして帯同している。
観客席は500人くらいは来ているだろうか。あっ、三原さん達もいる。思わず頭を下げて挨拶してしまった。嬉しそうに手を振ってくれる。選手時代には出来なかったコミュニケーションに頬が緩む。
「おぉい! 及川。」
呼ばれた方向を振り向くと新潟に所属する西原丈一郎選手がこちらへ歩いて来ていた。言わずと知れた新潟のキャプテンであり、元日本代表のキャプテンも長年務めたレジェンド。昨年のテストマッチの後に新潟さんからメールをいただき、ジョーさんと連絡先を交換させていただいてそれ以来仲良くさせていただいている。
「おつかれさまです。ご無沙汰してます。」
「久しぶり! もぉ! 敬語辞めろって。」
「いやいや、一応会社員なんで。」
「まぁ、良いや。ありがとな。受けてくれて。」
「何言ってるんですか。お礼言わなきゃいけないのはこっちです。また貴重な経験で強くしてもらいます。」
オレがニヤッと笑うと、胸にトンと拳を当ててきた。お互いに笑う。
「まぁ、現役お疲れさん。どうだ。もう試合を考えなくていい生活ってのは。」
「....まだ、慣れません。練習見てても加わりたくなる自分がいます。」
二人でグラウンドでアップを続けている両チームの選手を見る。ジョーさんが小さく「そう言うもんかねぇ....」と呟いた。
「そう言えば、雄平の件、ありがとうな。」
「いえ、こちらも良い競争意識を貰ってます。」
雄平とは今シーズンから期限付き移籍で加入したFWの藤村雄平の事だ。冬のウインドーが開いてすぐにジョーさんからオレにそれとなく打診があって、あとはチームの担当同士で条件を詰めたみたいだ。無事に一年のレンタル移籍と言う形になった。
「J2からJFLだからな。あいつもプライドはあるだろうが、しっかり言ってある。下のカテゴリーだからって舐めた態度で向こうへ行ったら一試合も使って貰えずに送り返される事になるぞってな。」
「有難う御座います。評価していただいて。」
「色気無しに去年のヴァンディッツとのテストマッチがあったからこそ、うちは士気が高いままシーズンを乗り越えられた。あれだけ怪我人出して6位は上々だ。まぁ、今シーズンはさすがに昇格取らないとな。」
「はい。期待してます。」
「おう。」
新潟側から集合のホイッスルが鳴る。ジョーさんは俺に軽く手を挙げて練習に戻っていった。
・・・・・・・・・・・
<三原 洋子>
「ねぇねぇねぇ!! 何で何で!!?? 何で司がジョーと喋ってるの!?」
私達を含めヴァンディッツサポの中ではこの話題が占めていました。あのレジェンドと私達の及川選手が仲良さそうに話をしているんです! そう、仲良さそうに! ここ、ポイント! どこで知り合う機会があったんだろう。確かに今シーズン、新潟から育成型の期限付き移籍で加入した選手はいました。それも私達にとってはすごく驚きの発表ではあったんですけど、それと関係あるのかなぁ。
「やっぱ藤村選手関連ながかな?」
「いや、だって及川さんはデポルト・ファミリア所属やろ? ヴァンディッツの運営には関わってないって言いやぁせんかった?」
「あのぉ。これ噂で聞いたレベルなんですけどぉ。」
皆がミャアちゃんの方を向く。ハンドルネームpandaさん。名前は熊井美祢子ちゃん。元々は東京に住んでたヴァンディッツサポさん。昨年末から高知に移住してサポ活動を充実させている女の子です。《《くま》》いみ《《ねこ》》でパンダさん。熊猫って事ね。私達は美祢子って漢字がみやことも読めるので、熊猫にも寄せて猫の鳴き声のミャアちゃんって呼ばせて貰ってます。
「どこにも確認取れてないんですけど、新潟の去年の高知キャンプ中に選手全員の行動が分からなかった時があったんですって。その時にVandits fieldにバスが何台か入って行くのを見たサポーターがいるらしいんですけど、その日は施設開放してなくて、もしかしたらその時にヴァンディッツとテストマッチしてたんじゃないかって都市伝説レベルのお話が。」
「「「いやいやいや!!! ないないない!!」」」
私達は一斉に手を振って否定します。都市伝説ならホントに面白い筋書きだけど、新潟との繋がりどころか何の実績も無くて他のJチームとの練習試合もした事無いヴァンディッツが急に試合組めるってそれはちょっと突拍子も無さすぎます。
「でも、司が指導者とかで新潟に引き抜かれるとかあるがやない? だって『Club Vandit』の指導はしゆうんやろ?」
「それこそありえんやろ!? コーチ経験としては皆無の一般社会人がいきなりJ2のコーチは無いって。それに司、A級もB級も持ってないし。」
そうなんです。及川さんはまだコーチライセンスはC級しか持っていません。なのでJリーグのコーチ指導をするにはライセンスランクが足りないんです。この話に無理やり可能性を持たせるとしたら、新潟の育成組織の指導者でしょうか。それでもB級は必要になる場合が多いので、可能性はかなり低いです。
どこかで接点があって仲が良かったと考えるしか無いんでしょうか。
両チームのアップが終わりそろそろテストマッチが始まるみたいです。新潟はこのヴァンディッツとのテストマッチが今回の高知キャンプの総決算的な試合になります。
「写真も動画も撮影は禁止されてるから、それぞれが注目選手の動き覚えていきましょう。」
「「「りょーかぁーい。」」」
テストマッチは45分×3セットで行われました。新潟は1セット目で去年のスタメン組がほとんど起用されていて、ヴァンディッツもスタメン組の構成でした。2・3セットは両チーム新戦力や新しい戦術やセットプレイも試しているような感じでした。
試合結果は3対5と新潟の勝利で終わりましたが、J2優勝候補のチームにも真っ向勝負でこの結果は素晴らしいと言えました。また何より驚いたのが、3セット目に起用された一条・石井の安芸高校育成コンビ。新潟選手も若手中心の構成とは言え、しっかりと長所を見せて存在感をアピール出来ているように感じました。
特に石井選手のプレイは成田選手を彷彿とさせるものがあり、やはり高校三年間、ヴァンディッツメンバーに指導されただけはあると感じました。
そして今シーズンの恐らく変更点になるだろうと驚かされたのが、馬場選手の抜けた右サイドを大野選手と成田選手が務める可能性があると言う事でした。昨シーズンはアランと大野選手が試合によって起用分けされていました。今日の1セット目を大野選手、2セット目を成田選手が務めていました。大野選手は今までもサイドハーフはやる事はありましたが、成田選手は今までのサイドバックからすると1列前のポジションになります。今までより攻撃参加も要求されるポジションです。
考え方によっては成田選手のストロングポイントである守備の面の良さが出ないのでは無いかと言う心配もありました。
しかし、テストマッチを見る限りはいつも通りの安定した守備にサイドを駆け上がってボールを繋ぐ場面も何度も見られたので、とりあえずは安心しました。
新潟とのテストマッチは結果こそ負けてしまいましたが、私達サポーターとしては今季のJFLに向けて非常に期待の持てる内容となりました。




