79.降りかかる災難
ぎりぎり間に合いました!23時52分投稿いたします。
太陽暦1306年10月下中旬 柳泉
大通りをしばらく歩いていると、立派な店の並ぶ地区へとたどり着いたようだ。外観は豪華絢爛といった様子で、中を覗いてみるとこれまた海興国ではお目にかかれないようなものがずらりと並んでいる。
「この店は大陸北部の新興国家のものですね」
「よく分かるな。俺にはさっぱりだが」
「帝都のこの大通りは何度も父と歩きましたから、嫌でも大陸の名産品は覚えました。他国の文化を学ぶことは面白いですし」
文沈は中の様子を見ながらそう言った。たしかにこれまでに見たことないほどの顔で、ワクワクしているようには見える。
しかし骨董品やら特産品では空腹をどうにかすることは出来ない。
「また後でこの辺りも散策するか」
「あ・・・、そうですね。見苦しい姿をお見せしました」
「気にするな」
そう言いながらまたしばらく歩いていく。それにしてもこの大通りは終わりが見えないな。どれだけ歩いても新しい店が現れては消えていくのだ。
しかしどれほど歩いただろうか。一際大きな店の前に人が集まっている。
「あれ、何だと思う?」
「何でしょう?様子を見てきましょうか?」
「そうしてくれるか」
「はい!」
文沈は人混みをかき分けて、集まりの奥へ奥へと進んでいった。すでに俺のいる場所からは姿が見えなくなっている。
俺も俺で情報を集めてみるか。
「もし、そこの人?」
「ん?なんだい?」
俺より少しくらい年上だろうか。見た感じ優しそうな好青年を捕まえることに成功する。
「あの騒ぎになっている場所の目の前の店って有名なところなのか?」
「知らないのかい?さては帝都は初めてだな?」
「今日来たばかりなんだ」
「なるほどなぁ、それなら仕方ないか。あの店は大陸南部の雄である海興国、その国で1番の商人漢水月の店だ」
「漢水月・・・」
まさか思いっきり知人の店だとは思わなかった。しかし考えてみれば当然か。
海興国随一の商人だからな、帝都に店を持っていてもなんら不思議ではないだろう。しかし、であればなおさら気になる。
一体何を店の前で騒いでいるのか、はたまた騒がれているのか。
「漢水月って言えば商人としてだけじゃない。妹が王家に二ノ妃として嫁ぎ、子もいるっていうじゃないか。青海商会も将来安泰だな。ハハッ」
じゃぁ、と言って行ってしまった青年に頭を下げつつ問題の人だかりの方を見た。未だ文沈は戻ってこない。
しかし勝手に移動すれば文沈が困るだろうな。しばらく様子見でいいか。
それからしばらくすると、また人を押し避けながら文沈が帰ってきた。額に大粒の汗をかき、着ていた服はヨレヨレになっている。
「どうだった?」
「青海商会の水月様のお店だそうです。騒ぎを起こしているのは、つい最近大陸の最北端で誕生した小国“霊水”から来た商人だそうで」
「最北端と最南端の商人が一体何をもめているんだ」
「霊水の魚が売れないのは、漢水月のせいだと」
なんだ、その幼稚すぎるいちゃもんは。文句を付ける前に売る努力をすればいい話だろうに。
しかし俄然興味がわいてしまった。
「柳泉様!?」
「なんだ?水月殿の店なのだろう?見たいと思うのは普通じゃないか」
「何も今行かずとも、騒ぎが落ち着いてからでもよろしいではありませんか!」
「今みたい気分だ。行くぞ」
反対する文沈を余所に俺も人混みのなかに突入する。にしても人口密度が高すぎやしないか?どれだけ野次馬が集まっているんだ。
他人のことを言えた立場ではないが、あまりの人の多さに突っ込みたくもなる。
「柳泉様!」
後ろから必死に付いてきているのが分かる。気にせず前に進むとしよう。そしてようやく最前列へと到着した。
横にいるおじさんが迷惑そうに俺を見ている。
「なんだ、あんちゃん?ここは危ないから下がった方がいいぞ」
「お気遣い感謝します。しかし俺は大丈夫ですから」
「分かってねえなぁ。これからこの店の主人が出てくるんだぜ?大乱闘になること間違いなしよ!」
「へぇ~主人がねぇ」
しかし水月殿が大乱闘を起こすなど、そんなイメージないけどな。実は俺の知らない商人の顔を持っているのだろうか。
そしてついに青海商会の売り子らが頭を下げた。店の奥より出て来たのはやはり俺の知っている水月殿。
横にいるおじさんが変な事を言うものだから、勝手に怖い人だという想像をしてしまった。
「あんたが俺達の商売を邪魔しているっていうやつだな?」
「邪魔をしているのはそっちじゃないか!!」
少しひるんでいるのは、やはり水月殿の登場に怯んでのことだろうか?
「我々が意図的にそちらの商売の邪魔をしているというのであれば頭を下げるが、そうでないのならばこちらが頭を下げる道理はないだろう」
そう言いならが、集まっている民衆を見渡した。それは水月殿になんら非はない。そうだろう?と問いかけているようだった。
イメージを訂正しよう。少し怖い人だ。
しかしそんなことを思った矢先、俺と水月殿はバッチリ目が合ってしまった。
「あ・・・」
隣のおじさんは俺を訝しげに見ているが、喜色を浮かべた水月殿に遠慮はなかった。
「これはこれは、柳泉様ではございませんか!どうして帝都に?」
今の今まで店の前でやり合っていた2人に注がれていた視線の一部が俺へと集まる。俺の後ろにかろうじて控えられていた文沈が、
「だから言ったではないですか」
と言っているが、すでに遅い。逃げることも出来ず俺は水月殿に対して頭を下げることしか出来なかった。
「もしや帝都観光ですか?でしたら私が案内しましたのに」
「・・・いやぁ、まぁ」
「さては遠慮されていませんか?私達の仲ではありませんか」
思った以上にグイグイ来るな、この人。星蘭ちゃんがあまり月姫様に似ていないと思っていたが、まさか兄の方に似ていたとは・・・。
「では明日にでもお願いしてもよろしいですか?」
「お任せください!私自らご案内いたしましょう」
周りを置いてけぼりで、俺の明日の予定が埋まっていく。それでいうのであれば、俺もじゃっかん置いてけぼりになりつつある。助けを出してくれたのは、意外にも言い合っていた商人だった。
「あの男は?」
「失礼な物言いはおやめください。あの方は海興国の王である高白麗様に今1番信を置かれていると言っても過言ではない柳泉様だぞ。それに我が青海商会の上客中の上客でもある」
その言葉と同時に、周りにいたはずの人たちがザッと1歩ほど離れたのが分かった。あからさますぎて少し傷つく。
「さらにな、私の姪っ子1番のお気に入りなのだ。将来どうにかして姪を嫁がせられないかと検討している最中」
「旦那様!」
「おぉ!これはまだ秘密であったな」
なにやらとんでもない計画をサラッと暴露されたような気がする。そして周りの人だかりはさらに1歩離れた。それはもう確実に。
「あんちゃん、何者なんですか?」
隣のおじさんにすら敬語を使われる始末。もはや誤魔化すことも出来ないだろう。
「海興国に仕官している者です。わけあって帝都にやって来たのですが、なんせ初めてで右も左も分からず」
「最初からうちを頼ってくださいよ!」
これはいよいよ駄目だ。人の目を集めすぎた上に、顔も覚えられた。今回はのんびり帝都を散策するはずだったのだけど、とんだ始まりになったものだ。
これは帝都探訪の始まりの一歩に過ぎぬ事を俺はまだ知らない。
次回の投稿は7/12です。




