78.上官らしさ
太陽暦1306年10月下中旬 柳泉
「やはり駄目でしたか」
「まぁ最初から分かっていたことでしょう。ここは大人しく別の方法を探すしかありませんな」
呉霖殿と私は他の祝使の方達から離れた場所で話をしていた。内容は主様より任じられた密命に関して。そのことを知っているのは当事者である俺と、今回の祝使の責任者である呉霖殿だけ。供として連れてきている文沈にすら知らせていないことだ。
「とにかく今日は帝都を探索しようかと思っております。宿も文沈の伝手を頼りに探しますのでご安心を」
「帝都の土地に明るい文沈殿がいれば私も安心できるな」
「では私はこれで」
「ではな。・・・あぁそうだ、1ヶ月の宿代は証明書を発行してもらえれば担当省より支給されることになっている。自腹で払うのが嫌なら、その辺もしっかりしておくのだぞ」
「それは初耳でした。教えて頂いて感謝いたします」
各国の祝使の一団が泊まる宿舎を出た俺と文沈はその足で帝都豊泉が誇る大通りへと向かった。
活気でいえば海興国の王都である長港すらも凌ぐ。流石だと思った。朱光様はああ言われていたが、やはり参考に出来ることは多そうだ。
「それでまずはどこに向かわれますか?」
「そうだな・・・。やはり安産の護符をいただきに行こうと思う」
「では寿恵安寺ですね。この通りを抜けた先にありますよ」
そうか、護符がもらえる寺は寿恵安寺というのか。それすらも聞かないでよく来たものだと思う。文沈がいなければ彷徨う可能性まであった。
「では行くとしようか。しかしその前に腹ごしらえか?」
「そうですね。まだ何も食べていませんでした」
文沈は腹をさするような動作をした。俺もすでに腹が鳴りそうなくらいに空腹だ。
しかし食事に困ることはないだろう。色々な店や屋台が揃っているからな。しかし本当に色々揃っている。海興国で食べられるものから、未だ見たことも聞いたことも無い食べ物まで何でも揃っている。さすが帝都、大陸中から人が集まるだけはあると思った。
「今日は俺のおごりだ。好きな物を食べようか」
「柳泉様にお代を出して頂くなんて申し訳ないですよ!」
「遠慮するな。いつもみなに迷惑をかけているから、たまには上官らしいことをさせてくれ」
しばらく考えたようなそぶりを見せたが、文沈はようやく頷いてくれた。
「それでは私のおすすめのお店に行きましょう」
少し嬉しそうな文沈について俺は大通りの中を進んだのだった。
今回少し短めです。次回は今回の足りない分も書きますのでよろしくお願いします。次回投稿は7/5です。




