71.帝家談義
2日ほどお休み頂いておりました。また投稿開始いたします。
太陽暦1306年7月初旬 柳泉
「本当にすることがないな」
「まさかの事態でした」
俺と元陽は鶴城の一室で話している。主様より近陵国内から引き上げ指示があって約3ヶ月、俺達近陵国解放軍や李将軍が率いた越内国討伐軍は海興国北部で盛大に足止めを喰らっていたのだ。
理由は1つ。帝家の帝であった炎帝が崩御されたから。太陽大陸の全国家は帝家より施行された停戦令によって全ての軍事的活動を禁止され、また軍事行動と思われる活動すらも禁止された。
俺達のように大軍を動かすことが、それがたとえ撤退だとしても文句を言われれば帝家に従う全国家が敵に回りかねないという理由から海興国北部の領地で全軍が足止めを喰らったのだ。
そして北部に領地を持っている者らも自領に帰れた者もいるが、それを幸せだと思っている武官らはいない。
なんせ軍の滞在における費用、宿泊場所全て現段階では領地持ちなのだ。
普通に家計は火の車なのではないだろうか。俺も決して他人事ではいられない。領監部はそういった各領地からの苦情も受け付けているのだから。まぁ白轟様にも訴えることは可能なのだが、あの方は主様の弟なのだ。間違いなく俺達の方に苦情が入るだろう。
「そう気を落とさないでくだされ。風の噂ではようやく今代の帝が帝位につかれるそうです。そうなれば停戦令も解除され王都へ帰ることも出来ましょう」
帰りたいけど帰りたくはない。まさに複雑すぎる事情だ。
またため息が出た。
「そういえば新たな帝はどのような人物なのか知っているのか?」
「天子様ですからね、故郷にいた頃に少しだけ聞いたことがあります。まずご存じの通り白麗様の一ノ妃である朱妃様のお父上様でございます。長年炎帝様の仕事ぶりを一番近くで見られていたので、帝位を継ぐこと自体に不安を持つ者はそこまでいないのかと思われます」
元陽の言い方に違和感があった。仕事ぶりに不安がなければ他に何が不安なのか。
権力者でそういう悪評と言えば女遊びが最初に浮かぶ。次に浪費癖とかだろうか・・・。
「実は次期帝である“煋帝”様には男児がいないのです。しかもお年もお年ですから跡継ぎをどうするのかと帝家は揺れております」
「分家から養子を取れば良いだろう?」
「帝家はお家騒動を避けるために分家を作っていません。ですから代々帝の直系の血縁者が帝位に就いていました。しかし煋帝には女児しか生まれず、その子らも全員外へと嫁いでおります」
「それは・・・計画性が無かったと言うほかないだろうな」
「そのお言葉1つで片付けることが出来ればどれほどよかったか」
とまぁそんな感じのようだ。しかし大陸から帝家の人間がいなくなるなど歴史上一度もない。また帝家に反抗する国はすなわちその大陸の国全てを敵に回すことと同義になる。
しかし子がいないのであれば、やはりどこからか例外的にも養子を取るしかないだろう。現在太陽大陸に現存する国の中で帝家の血が流れている御方は数人いる。つまり、帝家の娘が嫁いで産んだ子のことだ。
「朱光様もその候補に挙がるということか」
「そうですね。しかし帝位争いには万が一にも入られますまい。なんせ既に海興国の嫡子に任命されておりますから」
「では他には誰がいたか・・・」
元陽は手を俺に向けてきた。その手は4とされていた。
「帝家より国に嫁いだ方で現在ご存命の御方は2人だけにございます。1人は朱妃様。そしてもう1人は晋西国の王である黒玉樹様の一ノ妃である“燈妃”様です。よって帝家の血を引いているのは朱光様、そして燈妃様のお子である“黒徳庸”様とその方のお子である“黒焔”様、“黒子建”様、“黒大樹”様となります」
「つまり万が一の時には晋西国から養子が取られる可能性があるということか。ますます晋西国の力が強まるな」
「それだけはどうにか回避しなくてはなりませんね」
帝家談義に花を咲かすことで、どうやら今日も暇な1日を乗り切ること出来たようだ。
登場人物(帝家編)
故・炎帝:太陽大陸の帝。老体ながらに大陸各地に多大な影響力を持っていた。有力な国や領主と婚姻関係を結ぶ。死の間際には最初の盟友であった晋西国が暴走を許してしまった。
煋帝(50):炎帝亡き後、帝位を継ぐ。娘には海興国に嫁いだ朱陽や他数人いる。男児がおらず帝家を揺るがしている。




