67.内通者現る
太陽暦1306年4月下中旬 柳泉
「柳泉様、ご報告いたします。第一大隊はすでに対海興国砦の制圧に成功したとの事にございます。第二大隊は商都“東亜”の包囲を開始しています。また第一大隊はその援軍に向かわれました。第三大隊は地理的に少し遠いこともあり、未だ対晋西国砦には到着していないようにございます」
「わかった。報告ご苦労様」
元陽は頭を下げて俺の後ろへと下がった。
俺の目の前の席に座っているのは鶴翼殿だ。元陽の報告を聞いて頷かれた。
ちなみに総大将である白雲殿は、第二大隊を率いて主要都市の1つである東亜へと向かわれた。俺達の目の前には高く築かれた城門があり、その門を越えればそこは近陵国の首都“華央”となる。おそらくだが江政長様とそのご家族はここで捕らえられているはずだ。
「さて、我らも華央の解放を開始いたしましょう」
「そうですね。こちらの動きを迅速にしたおかげで敵に防衛の備えをする隙を与えませんでした。江家の方々を危険にさらす前に制圧いたしましょう」
「どう攻めようか?」
「あらかじめ虎上殿に付き従う兵力を聞いておきました。そして鶴城に侵攻してきて結果的に捕縛した兵力を考えると、近陵国内に残っている兵数はあまり多くはないと推測できます。さらに反乱軍としては必ず守らなければいけない重要拠点をいくつか獲ってしまった。そこを守る兵力を均等に分けるとすれば、この都市を囲むように建つ四方の城門を守る兵はたかが知れているでしょう。ここは無理にでも突破をし、そのまま流れ込めば良いかと」
「万が一奴らが逆上して江政長様とそのご家族に手をかけられれば如何いたすのだ」
「それはそれで好都合。我らが遠慮する必要は無くなります。正当な後継者が絶えた国は瓦解し群雄割拠の時代へと突入するのみです。であれば、我らがこの地を抑えてしまえばよろしいでしょう」
鶴翼殿はしきりに周りを確認していた。まぁ誰かに聞かれればまずい事を言った自覚はある。しかしこのくらいの気持ちでいなければ、人質をとられている現状無傷での奪還など相当厳しいと思われる。
だいたい、日本にいたころに見たサスペンスドラマみたいに犯人を説得して人質を解放できるのならばその手法をとる。こちらにも被害はなく、江政長様も無事に解放される。しかし、明らかに「そんなことをしたらお袋さんが悲しむぞ」とか言ったら泣き崩れて逮捕みたいな流れになることは期待薄だ。っていうかこの時代ならゼロ。
「我らが突入したとき、反乱兵が逆上して江政長様に手をかけることも想定した上で策を考えるべきです。そしてそれは軍師である俺の役目です」
あまり納得は出来ないだろう。折角同盟を組んだのだ。こんなところで死なれては目覚めが悪い。まぁそこはここを守っている兵が馬鹿で無いことを祈るしかないだろうな。
その後しっかりと作戦を考え、各隊に連絡。四方の城門に攻城兵器を持たせて待機させた。夜も暗くなった頃、1人の武官が俺達のいる陣へとやって来た。どうやら城門や城壁の劣化によって出来た隙間から人が数人逃げてきたそうだ。その者らは首都華央の民たちだった。反乱軍の監視の隙をついて外へ出て来たらしい。
そしてそのうちの1人が白雲殿の前に通された。
「名を何という」
「は、はい!華央を拠点に商いをしております。名は羅、“羅少確”と申します」
「どうして大将に会いたいと申したのだ」
「それは・・・華央の民はみな不安に思っております。海興国軍が華央に入れば、自分たちはどうなってしまうのかと。民は皆反乱軍に脅され協力している体を装っておりますが、誰一人本心ではありません。ですからどうか民たちの命だけは助けてください」
綺麗な土下座だった。いやそんなこと感心している場合じゃない。
「顔を上げてください。その体勢では話など出来ません」
「はい・・・」
よく顔を見てみると服はボロボロで顔はやつれ、俺のイメージしている商人像からだいぶかけ離れている。この世界で会った大商人である漢水月殿は立派な身なりをしていたな。
手は土だらけ。それも新しいものでもない。きっとこの人も反乱軍に使われた1人なのだと思った。
「鶴翼殿、如何なさいますか?」
「そうだな・・・、わかった。抵抗さえしなければ民には手出しはせん。その代わり少確、そちには力を貸して貰うぞ」
「私があなた様方のお力になって皆の命が救えるのならばお安いご用です」
ここまで仲間想いの商人がいるのには感心した。きっと良い関係を周りと築いているのだろう。
「柳泉殿」
「では少確には首都内を案内して頂きましょう。我らが城門を突破したら一気に政庁を押さえます。そこまでの案内をお願いできますか?」
「それくらいなら任せてください」
「よし、これで少しは危険を抑えることが出来ましたね。では我らも位置に付くとしましょうか」




