68.首都華央へ潜入
太陽暦1306年4月下中旬 柳泉
「狼子、南門の部隊に時間通りの突撃という指示を出してくれ。ド派手に頼むと添えてな」
「かしこまりました。その後我らは各門を監視いたします」
「頼む」
忍びは伝令としても優秀だ。海興国の軍で一番優れた伝令役といえば紅林殿の子である紅馬琴殿だが、今は越内国に向かった雲玉将軍に付いている。
まだ暗く、慣れない土地で早馬を出すのは非常にリスキーであることを考えると、狼子に頼むのが一番安心であると思う。もちろんオーバーワーク気味になってしまうが・・・。
狼子はすでにここにいない。時間になれば南門で大きな爆発が起こるだろう。このために大量の火薬を鶴城から持ってきていた。ちなみに南門付近に民家がないことは確認済みだ。狼子の部下が事前に華央に潜り込んでいて、ある程度の情報は得ていた。しかし流石にクーデターが起きたため政庁関係の情報はあまりない。そんなときに味方になったのが華央を拠点にしている商人の少確だったわけだ。
「明け方に南門から海興国の部隊が乗り込むでしょう。それを合図に北、東、西門から隠密裏に潜入します。東西の部隊は民たちの解放と巡回している反乱兵の捕縛を、私達北門の部隊は早急に政庁を解放し、江政長様を救い出します」
「では先導は少確が、その後ろに我らの兵を、軍師殿には護衛を付けるので後ろを付いてきてください」
「お願いします」
この配慮非常に助かる。元々俺が文官でという認識からそういう配慮をしてくれたんだと思うが、俺としては人を斬ることに躊躇いがあるから前衛はまだ無理だ。その点護衛付きでしかも後方となると、奇襲をされない限りは俺が剣を振るうことは無い。
そしてこの場にいる全員が息を潜めて、始まりの時を待った。同士討ちを避けるために夜間作戦は行わない。狙いは朝日が昇り始めてお互いの顔がギリギリ認識できるかどうかの頃だ。クーデターよりまだ時が経っていない。修理の終わっていない城門なら小さな衝撃でも・・・。
南門で大きな音が聞こえた。真反対にいる俺達の場所からでも黒煙が上がっているのが見える。
「派手にやりましたな」
「そういう指示を出しましたからね。城門の兵が狼狽えていますね」
俺は羽鶴殿に借りた双眼鏡で城門の近くに建っている門番の様子を見た。隙は出来た。
「ではこちらも潜入しましょうか。奴らが馬鹿な行動を起こす前に」
「そうですな。お前たち、頼むぞ」
鶴翼殿が周りに指示を出した。頷いた数名のうち2人が立ち上がって近くの木や岩を使って城門へと近寄る。狼狽えている門番に、ただでさえ隠密に特化したその兵らの動きを捉えることは出来なかったらしい。
首筋に手刀を当てて意識を飛ばせる。
「よし。では行きましょうか」
「はい」
北門は一番政庁に近い門ではあるが、北門から外に出れば山しか無いことから案外防衛が手薄だった。さらに城門も一番ボロボロだった。
つまり少確が華央から脱出する際に使った門の隙間がこちらにはたくさんあるのだ。破壊せずに潜入できるのは非常に都合がいい。
「少確、頼むぞ」
「はい。こちらです」
門をくぐった俺達は、複雑に入り組んだ塀を走り抜けながら、遠目に確認できる政庁へと駆けた。途中敵兵と遭遇などはしたが、鶴翼殿の率いている精兵は討ち漏らすことなく先へ先へと進んでいく。
「ここが政庁の裏門になります。この先、基本的に監視はありません。中の造り自体は非常に単純になっていますので、おそらくすぐに建物内の把握は出来るかと」
「わかった。助かったぞ、少確」
「いえ、これで皆が助かるというのであれば・・・」
「あぁ、私が必ず助けよう。皆を安心させてやるが良い」
「はっ、ありがとうございます」
ここから先は何が起こるか分からない。俺もそうだけど非戦闘員の少確はここで別れるのが正解だと思う。
そして政庁に侵入してみたのだが、敵は思ったよりも少なかった。どうやら派手にやった南門に加えて東西で任務を完遂した部隊らが引きつけてくれていたようだ。
おかげで政庁を守っているのはほんの数十といったところだ。それも分散しているらしい。
「我らも働くぞ。江政長様をお助けするのだ!」
「「おぉ!!」」
かくして江家当主一族を救う戦いが始まったのだ。




