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軍師日記 ~借り物知識で異世界統一~  作者: 楼那
大陸北部の動乱
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66.予想外の命令

太陽暦1306年4月下中旬 李雲玉


「随分と越内国の者どもは動きが鈍いのだな」

儂は小高い丘より戦場となっている河川を見ながらそう言った。隣で同じく戦場を眺めている北仙もまた同じ事を思ったらしい。

「何かを待っているのか、はたまたこの戦にやる気が無いのか」

「やる気が無いということは無いだろう。この戦いで負ければ越内国は滅ぶことになるのだぞ」

「そうですな。しかしこの様子を見れば嫌でもそう思います」

 そんなことを言っている間にも、また海興国軍が敵陣に攻めかかる。特に目立った防衛もなく越内国は戦線を下げているのだ。

 しかしそんなことをしても意味は無い。すでに自然の要害となっていた河川は突破しているのだ。ただの平野部ではこの戦力差をひっくり返すことなど出来まい。

「何かを待っているのやもしれませぬぞ」

「近陵国の裏切りか」

「かもしれませぬ。先ほど虎上殿が報せに来ましたぞ。近陵国の一部の兵が反乱を起こしたと。言い方を誤魔化してはおりますが首謀者は江長久ですな」

「そうか。こちらが襲われないということは」

「間違いなく鶴城に向かいましたな。全て柳泉殿の描いた通りにございます」

「あとは手はず通り奴らを追い払うことが出来れば、儂らは背後を気にせず前へと進むことが出来るのぉ」

「その通りで」

 そしてその動きを知らない越内国。やはり綿密な連携をとれておるわけではなかったようだ。

 そのせいで越内国は近陵国の動向を知らずに援軍を待ち続けておる。最悪王都にでも入られなければ勝ちだとでも思っておるのやもしれん。

「北仙、各方面の大隊大将に伝えよ。これより一気に敵戦線を突破する。そのまま王都を占領し、朝景雪を捕らえよ」

「はっ」

 丘に張った陣より出て行った北仙を見送った儂は、再度戦場を眺めた。今も押すこちらの攻撃を防御しつつ徐々に戦線を下げる敵兵。張り合いのない戦だと思った。儂も鶴城に残り白雲をこちらにやれば良かったやもしれん。倅に大軍を操る術を学ばせるべきであったと後悔した。儂も永遠に生きられるわけではない。領地で民を守る術を学ぶ長子と、戦場で戦い民を守る術を学ぶ次子。兄弟2人力を合わせれば、主様のお力にきっとなれよう。

「本陣におられませんので探し回りましたぞ」

「虎上殿か。先ほど北仙より聞きましたぞ。大変なことになりましたな」

 申し訳なさげに儂の隣に立った虎上殿は、黙って戦場を見ている。

「本当に申し訳ない。儂が側におりながら長久様と景晴様の暴走を察知することが出来ませなんだ。まさかこのようなことをしでかされるとは・・・」

「・・・先に申しておきます。海興国は・・・、主様は裏切り者を許すことは決してありませぬ。おそらく反乱軍は後詰めを任せておる柳泉殿らがどうにか対応しておろう。そして相当うまくやればおそらくそのお2人は捕縛され主様の前へと連れて行かれる」

「わかっております。我ら2国が同盟を結んだ直後のこれにございます。いくら元当主であったとは言え弁明などはいたしませぬ。我らの今の主は政長様ですので」

「分かっておられるのであればよい」

 儂が黙ると虎上殿もまた黙った。しばらく戦を眺めておると、儂の命が行き届いたようである。

 様子見をしていた部隊も含めて全軍が攻撃を開始した。すでに敵陣は防衛など出来てはおらん。

 このままいけば何の問題も無く王都まで攻め込むことが出来るであろう。

「今このように優勢で言うことではないやもしれませぬがよろしいか?」

 虎上殿ももしや儂と同じ事を思っておるのやもしれん。

「言われよ」

「このまま王都まで攻めても良いのであろうか。何やら嫌な予感がします」

「奇遇じゃな。儂もじゃ」

 儂らの不安を余所に戦線の一部を突破した部隊がでた。歓喜の雄叫びが戦場より木霊する中、陣内には慌てふためいた様子で飛び込んできた者が。

「如何したのだ、馬琴よ」

「主様より御伝令にございます。即刻戦を中止し、海興国まで退くように。と」

 やはり嫌な予感は当たっておったが、一体どういうことじゃ。何故ここまで優勢に運びながら、撤退の命が出でるのだ。しかし命令は命令。

「越内国との戦はここまでですな」

「真に悔しいことにございますが・・・」

 虎上殿も大いに落ち込まれておる。しかし大将たる儂がここで立ち止まるわけにはいかん。撤退の命が出た限りは、迅速に被害を最小限に撤退を開始する必要がある。

「馬琴、北仙を呼んでまいれ。急ぎ撤退戦の用意じゃ」

「・・・っ、かしこまりました」

 悔しいのは誰も同じよ。儂も虎上殿も馬琴も、そしてきっと主様も・・・。

 急ぎ撤退の用意を整えた儂ら侵攻軍は、殿を残しつつ撤退を開始する。奴らは防衛どころか追撃もしてこなんだ。

 一体どういうことなのであろうか。

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