61.下準備完了
太陽暦1306年4月上中旬 柳泉
「柳泉殿、如何かな?」
「近陵国内からの報告が正確なら悪くないでしょう。私の評判は最悪ですよ」
俺が笑うと白雲殿が困った顔をする。まぁ大将が敵に舐められていると聞いて笑っていたらよっぽど困惑ものだと思うけども。でもことこれに関しては何も問題はない。
俺が舐められて、李将軍の率いている侵攻軍の背後を襲う兵が減れば俺の狙いは大成功になる。
さらに忍びを使った流言以外にも上手くいったことがあった。
今目の前にいる白雲殿の撤退。さらに複数の武官らの鶴城からの退去。そして鶴郡に住んでいる領民の一斉逃亡と見せかけた避難誘導。
正確な情報を全て寸断し、曖昧な情報のみが近陵国に入るように徹底的に敵方の忍びを排除した。
結果がこうだ。後詰めの大将は大将の器ではなく、援軍を入れた武官らは主力である白雲殿をはじめ多くのものに見限られた。鶴城を守っているのは旺家のわずかな兵のみ。
さらに鶴郡という近陵国が南下するには絶好の土地に、長年苦しめられた鶴城をようやく落とせるという焦りと気の早い喜び。様々な要因でこの地に裏切り者を引き寄せることが出来る。
あとはもう簡単な話。白雲殿には武器商人に紛れさせて選りすぐりの精兵を数百城に入れた。近隣に移動した武官らは狼煙を上げればすぐに援軍に来れるように軍の用意をしている。
そして俺の知る最強の城防衛策といえばアレだ。真田昌幸が2度に渡って徳川の大軍を撃破した『上田合戦』。それをこの時代とこの城や地形を使って再現する。
「先ほど父が放った使いより報告がありました。本隊はすでに国境を越えておるそうです。例の兵糧輸送は上手くいっていると」
「そうでしたか。それは良かったです。これで万が一にも兵糧不足で士気が駄々下がりなんて事にはならないでしょう」
「にしてもよくあんな方法を思いつかれましたな」
「・・・まぁ偶然ですよ」
本当は豊臣秀吉がまだ織田信長に仕えていたときに作った城。墨俣城をイメージしたわけだけどね。
「偶然と言われますか。・・・それよりも奴らは本当に裏切ってきますかね」
「これだけ隙を見せていますからね。間違いなくこの地は戦場になります。あとは手はず通りやって頂ければ・・・まぁ負けるとは思いませんね」
これ、日本にいたときはよくゲームでやったよな。真田幸村って史実でも凄いっていうイメージあったけどゲームだとさらに色々補正かかって強かったんだよ。それでやりこんだからこそ思いついたんだ。
幸村様様々だよね。
そんな暢気なことを言っていたとき、廊下をバタバタ走る音が聞こえてきた。
思ったよりも早かったな。まだ越境から4日も経ってないんだけど。
「お話中、失礼します!」
「馬琴か。如何した」
馬琴っていうのは紅林殿の長子。馬の扱いが上手くて早馬に乗って伝令やら使者やら色々こなしている人物だ。
「江長久が軍を起こしたと連絡を受けました!すでに謀反人は近陵国の主要地域を制圧しているようにございます。あわせて江景晴が多くの兵を率いて海興国・近陵国国境を越えました」
「随分と手際が良いですね。これは思ったよりも同志が多かったのかもしれません。もしくは有力者を味方に付けたかですね」
にしても馬琴は俺より年下なのに全然動揺していない。流石恵楽で李将軍と共に敵を撃退しただけある。
「では皆さん配置につきましょうか。羽鶴殿に伝令をお願いします。旺家の精鋭で敵陣をかき乱してください、と」
「分かりました!」
また凄い勢いで馬琴殿はかけていった。
「いよいよですな」
「・・・ふぅ」
「初陣がこのような籠城戦ですからな。緊張されますか?」
「緊張は・・・、もちろんしています。負ければ死ぬことになる。でも、・・・大丈夫です。白雲殿、勝って李将軍を迎え入れましょう」
「・・・っ、かしこまりました」
一瞬驚いた表情をした白雲殿だったが、すぐに引き締まった表情へと変わる。
さて、この絶望的な戦場が俺の初陣だ。




