58.軍師柳泉の初陣
太陽暦1306年3月終旬 柳泉
俺が今いるのは鶴城の広間だ。
今年は暖冬だったということもあって雪解けが早く、予定されていた進軍より1ヶ月ほど早くなった。
今日ここで全員揃った最後の軍議が開かれる。
主様は王都にて侵攻作戦成功の報告を待ち、白轟様は西璋郡の坑道にて秋長官とともに兵糧輸送の準備をしている。
この場にいる人物で最も高い地位を持っているのは、侵攻軍総大将に任じられている李雲玉大西将軍だ。
軍議の進行を取り仕切っているのは長年この地を守ってきた旺家当主旺羽鶴殿。他にも従軍する王国北部の武官が多くならんでいる。
そして俺の座っている位置だが主様がいない軍議において上座に座るのは李将軍なのだが、そこに1番近い場所に座っているのが旺羽鶴殿と江家より派遣されてきた赤虎上殿。その次に座っているのが侵攻軍の軍師に任じられている“北仙高明”殿と俺だ。
俺が末席に座ろうとすると、目の前にいる北仙殿が俺を手招きしたのだ。何事かと思って近寄ってみるとここに座らされた。ちなみに俺の次に座っているのが李将軍の次子である李白雲殿。
マジでここに座って良いのか不安になる。驚いたのは俺だけでは無い。この軍議に呼ばれた武官の方々のほとんどが目を剥いた。
ここまで居心地が悪いと思ったのは、恵楽の報償を貰ったとき以来だと思う。
「赤虎上殿もよろしくお願いいたしますぞ」
「お任せくだされ。高白麗様、江政長様お2人のご期待に最大限応えられる働きをいたしましょう」
ちなみに虎上殿の主な役割は、近陵国内の地理に疎い侵攻軍の先行を行う他に近陵国を抜けきるまでにある程度の軍を用意し、自身も海興国軍として参戦するということになっている。
にしても李将軍は思いきったことをすると思う。この場で近陵国の裏切りも想定していると知っているのは李将軍と羽鶴殿、俺の元で鶴城防衛に当たる白雲殿とそして軍師の北仙殿だけになる。
本当に裏切りがあった場合、軍を上手く統率できると信頼されて極秘にされている。
「柳泉殿」
「はっ」
やはり虎上殿以上に視線が集められたのが分かった。当然好意的なものは圧倒的に少ない。
「羽鶴殿と共に存分に働かれよ。此度が初陣だと聞いた、貴殿のおかげで恵楽では勝てたも同然であるからな。此度も期待しておるぞ」
「かしこまりました」
まぁ当然だが虎上殿がいる前で俺の本当の役割は言わない。だから多くの方は俺がただの留守役だと勘違いしている。
俺は形上の初陣を果たしたのだと、しかしそうではない。そうではないのだが口には出せない。だから俺は万が一の時に成果を出せないと無能の烙印を押される。わりと厳しい状況に身を置いているのだと改めて思った。
その後も侵攻における軍議が綿密に行われ、そして英気を養うよう言い渡されて解散となった。
ゾロゾロと武官の方が出て行く中、残ったのは俺と隣に座っている白雲殿、そして総大将である李将軍と軍師の北仙殿だけになった。
「改めて儂が李雲玉である。恵楽では世話になったな」
「俺は何もしていません。ただ思ったことを言ったまでです。それを実行されたのは恵楽御城にいらっしゃった皆様です。あ、改めまして柳泉と申します。未熟者ですがよろしくお願いします」
「まだお若いのに後詰めの頭を任されるとは将来有望ですな」
「真に。我らも安心して戦うことが出来ましょう」
北仙殿と白雲殿は俺を好意的に受け入れてくれているらしい。まぁそれがありがたいんだけどね。
「先ほども言いましたがまだまだ未熟者ですので、それに俺の価値はむしろこの一戦にて証明されます」
李将軍は俺と気持ちを理解してくれるらしい。
「柳泉殿は間違いなくだとお思いですかな?」
「もちろん結果的に何もなければそれで構いませんが、いつまでも不確定要素を抱えたままでは江政長様もお辛いでしょう。この機会に一掃できればそちらの方がよろしいのではないでしょうか?」
反応は様々だったらしい。北仙殿はおかしそうに笑われた。
「まことその通りじゃな。敵は一度で一掃するに限る。それを実現するのが我ら軍師の仕事じゃで」
なんだか俺のポジションのハードルが数段上がった気がする。そんなたいそうなものじゃないんだけどな。
「と言うわけですので、白雲殿には予定通り部隊を率いて恵楽に帰って頂きます。あとは・・・」
本当の軍議は夜遅くまで開かれた。
明日はいよいよ越内国に進軍する。
北仙高明(48):高白麗付きの軍師。戦の度に各地に派遣される。元々は対外省の文官だったが、その才能を見抜いた白麗によって直接仕えることになった。




