51.婚姻同盟
太陽暦1305年6月終旬 高白麗
「兄上、此度は朱光殿の結婚真におめでとうございます」
「真にめでたいわ。白轟、お前にもだいぶ苦労をかけておる。次の戦が終わればしばらくはゆっくりするが良い」
「では、そうさせていただきます」
今年突如訪れた朱光の結婚の申し出。海興国の北部と接する近陵国の新しい当主が持ちかけて来たものであった。
これまでの2国の関係を考えれば婚姻同盟がなるなど誰も思ってはおらんかったが、江政長が家中を纏めたおかげでそれが成ったのだ。
そして白轟もまた、海近同盟によって忙しく働いておる者の1人である。海近同盟の証として、長年近陵国と同盟を組んでいた越内国を我らが軍で討伐する。近陵国は最早同盟を組む価値のない越内国を切り、我らとともに行動するという意思表示でもあった。
そんな計画を柳泉に話すと、あやつは「近陵国は裏切る」と言いおった。まあ理由を聞けば無い話ではない。そう思うた。
だからこそ、その万が一に備えた策を白轟に託しておる。この者なら上手くやるであろう。そんな忙しくしておる時の祝いの訪問であった。
「兄上、これから朱光殿と初淀姫様にも挨拶をして参ります。では後ほど」
「あぁ行って参れ」
白轟はそう言うと、今回の祝宴の主役である朱光らの元へと進んでいった。
それにしても我の婚儀の時と違い随分と人の増えた事よ。我の時は帝家の方々が多かった。そして積極的に建国に参加した領主らは祝いにきておった。それでもこんな賑やかなものにはならなかったものだったのだが。
「随分と多くの方に祝われておるのですね。旦那様のときはこの半分・・・いえ、もっと少なかったかもしれませんでしたが」
「それは我も思うておった。しかしそれを寂しいとは思わん。むしろここまで大きく出来たことが誇らしいものよ」
「流石旦那様です。・・・それにしても朱光が結婚だなんて、母としてはやはり寂しいものですね」
朱陽は遠くの方で、多くの者らに囲まれておる朱光を見ながらそう呟いておる。朱光は我の跡取りで、遠くに行くことは無いのだが母の感情とはまた別のものなのであろう。
そんな朱陽を見て、我の母のことを思い出した。いつまで経っても我を子供扱いしておった。我が殺した弟、“高孫麗”のことも愛しておったと思う。いや愛しておったのだろう。それ故母は死んだのだ。我らの兄弟げんかに巻き込まれて。
「旦那様?大丈夫ですか?」
「ん?あぁ大丈夫だ。少し考え事をしておった。それよりも朱陽、おぬしも祝いに行ってやれ。先ほどから朱光がこちらを見ておる」
「そうかしら?まったくいつまでも母離れは出来ないものなのかしら」
そう言い嬉しそうに2人の元へと歩んでいく。それに気がついた臣や客人らは道を譲りすぐに朱陽は2人のもとへとたどり着いた。こちらからでも楽しそうに話しておるのがわかる。最初こそ心配したが、どうやら朱陽は初淀姫と上手くやっていけそうだ。
「主様、少しよろしいでしょうか?」
「呂伏か、如何した」
我のおる席の後ろに静かに立ったのは呂伏であった。顔は祝いの席らしからぬ緊張した面持ちである。
「はっ、先ほど帝家より使いがやって参りました。用件は2つ。1つは朱光様への祝いの品を用意したとのことです」
「であるか。それでもう1つとは」
一瞬言いづらそうに呂伏は黙った。いゃ違うな、知らないのか。
「我と直接話させろと言うことであるな。構わん、大広間に通せ。そして誰も呼ぶでない。おぬしも外におれ」
「はっ」
残念だが朱光の晴れ姿をみられるのはここまでのようである。にしても帝家からの使いか。帝家は海に出る技術が無く、これまで近陵国は大陸北部から海興国に通り抜けるために国内を通ることを禁じておった影響で随分長い間疎遠な関係にあった。
此度の婚姻同盟で自由な往来が可能になり、帝家から使いを寄越すことになったのであろう。
「良い知らせに思うか?」
「少なくても我らにとって良い知らせでは無いでしょう。使者の顔はそう言うておりました」
「そうか」
一体帝家は我らに何を持ち込もうとしておるのであろうか。




