50.後詰めの頭脳
1305年5月初旬 柳泉
「私の策を実行するためにはかなり開戦までの時間を稼ぐ必要があります」
「坑道の整備のためであるな」
「はい。既存に整備された坑道の安全な範囲での拡張と、山をくりぬき越内国内までの道を確保しなければいけません。出来れば越内国に詳しい者を雇い入れて龍尾山脈の北側における越内国の活動範囲まで知りたいところですね。生活範囲、または監視範囲に侵入してしまえばこちらの策を破られる可能性があります。ですからそのギリギリの場所に兵糧の輸送拠点を作りましょう」
難しい顔をしている白麗様と呂登殿。まぁ途方もない作業になることは間違いないし、どう考えても年内の侵攻は不可能だろう。
「仮に拠点を作ったとしてどう兵糧を運ぶ。道がなければ多量の輸送は難しいぞ」
「それならばコレを使えばよろしいかと」
俺はまた別のページを開いて一本の線を指さした。
「・・・これは龍のタテガミと呼ばれている“百本川”の本流ですな。まさか流すのですかな」
百本川って言うのか。それは知らなかった。まぁ旺羽鶴殿の言うように川を使って輸送する。船の技術に関して言えば、海興国はかなり高度なものを持っているらしい。今回も水に濡れない簡易的な船を作ってくれるはずだ。
「はい、船を使って川下の本隊に兵糧を流します。こちらとしては近陵国は裏切る前提で進軍するため、どちらにしてもその輸送方法は確立させるべきです。そして兵糧線を切られる心配のなくなった本隊は前に進むもよし、後退して近陵国を叩くもよし。それはその時の大将に判断を委ねれば良いでしょう」
俺の話は終わった。3人とも難しい顔で考え込んでいる。やはり賭けが過ぎただろうか。
言っても越内国は大国だ。生半可な軍で侵攻しても勝てはしないだろう。だから本気で叩きに行くわけだが、負ければ他国に付け入る隙を与えてしまう。
難しい判断だ。
「柳泉」
「はっ」
主様は俺をジッと見ている。目を逸らしたら負けだ。俺はこの策に自信がないと言っているのと同義になる。
重大な案件の話し合いの時、宰相殿は相手の目から一切目を逸らさず話を聞いていた。話している方はプレッシャーだろうが、その程度に負けるのであれば国の未来を左右するような重大な政策の提言など出来はしない。そういうことだった。
「ぬしに後詰めの指揮を託す。後詰めの大将としてこの城に入れ。そして後ろから様子を見て軍を動かしてみよ。実際軍に命令を出すのは別の者にさせるが後詰めの頭はぬしに任せる」
驚いた。すぐに返事が出来ないほどに。
「主様、真に柳泉に任せるのですか!?」
「任せる。此度の献策、全てを理解しておるもので無ければ指揮など出来るはずがない。本隊は李雲玉に率いさせる。白轟には龍尾山脈を押さえさせ確実に兵糧を運ばせる。我が国の北側の領主らに軍を出させて越内国を討つ。各領主にそう伝えよ。白轟もこのあと呼べ。急ぎ先の策を伝え準備に取りかからせる」
「決められたのならば私からは何も申しません。全力で主様の、そして柳泉の助けをしましょう」
「よろしく頼む」
驚くほどにあっさり採用されてしまった。しかもまだ返事してないけど、後詰めの件も決定してしまったらしい。
「柳泉、そちには負担を強いることになるが、頼むぞ。此度の戦い、我らにとって重要な一戦になることは間違いない。何かあれば我の元に仕えておる忍びを使うと良い」
「ありがとうございます!」
ここまで来たら引き返すことは出来ない。
にしても万が一の心構えは必要だと思う。前の釣り野伏せと違って、今度は下手したらこの鶴郡も最前線になりかねない。
いざというとき俺も戦う覚悟をしておかないといけない。
そう思うと無意識の中で身体が震えていた。
活動報告にて人物案内やっております。登場人物が多すぎて誰が誰か分からないという方は是非そちらを覗いてみてください。
現在海興国王家の紹介だけしてあります。




