38.祭り
太陽暦1305年1月下中旬 柳泉
高白轟様一族の治めている西璋郡をグルっと馬に乗って回ってきた。その中には高家が元々治めていた龍尾の郷も含まれている。
宰相殿主導で行った鉱山開発の成果なのか町の中はガタイのいい人たちで溢れていると印象を持ったのだが、それよりも目に付いたのは王都に比べて圧倒的に酒場が多いことだ。
「活気のある街ですね」
「この地は比較的友好な関係を築いている東側の群国連合に近い都市ですからな。交易品も集まる上に、採掘される鉱山資源のおかげで街自体も潤っておる。港がない街では1番栄えておるかも知れませぬな」
紅林殿は、領監部に来る前はこの地を治めていた。俺の素直な感想が嬉しかったとみた。
「もうすぐ白轟様のお屋敷です。あの方のもとに仕えだしてから、これほど会わない日はなかったですな」
「一刻も早く一人前になります」
「なに、急かした訳ではありませんぞ。ただこういうのも悪くは無いと思うのでな」
紅林殿はそう言いながら馬を走らせる。
それにしてもいい加減尻が痛いな。鞍をどうにか改良したいと何度思ったことか。
俺の跨がっている馬は、乗馬の練習の機に相棒として選んだ馬である。名前は“赤兎”だ。まぁ分かると思うがあの有名な馬からとっている。ちなみに雌である。当時候補にいた雄らは元気すぎて初心者には扱えまいと言われたからだ。
「さぁ、俺らも行くぞ」
腹を蹴って赤兎を走らせる。俺の後ろにいる護衛の者らも一緒に着いてきた。
「よくぞ参った。紅林、そして柳泉よ。どうであったこの地は?」
屋敷に着いてすぐに高白轟様に面会しに行った。すでにもてなしの用意は終わっていて、まずは食事をしながらという流れになった。
「あいかわらずの賑わいで嬉しゅうございます」
紅林殿はそう言って頭を下げる。満足げに頷く白轟様は今度は俺を見る。感想を求められているんだな。
「王都とは違う活気がありますね。鉱山の開発は大当たりといったところでしょうか」
「であろう。あの宰相殿が突如鉱山開発をする故資金を用意しろと言ったときは驚いたものだが、今ではもう頭が上がらんな」
愉快そうに笑っておられる。この地は人も多く、資源は豊か、海はないが陸路を使って他国から物が入ってくる。北側にある龍尾山脈のおかげで他国からの侵攻を心配する必要も無い。
一見すればかなり良い領地を持っていると思える。
しかし1つだけ気になったことがあった。
「浮かぬ顔をしているな。如何した?」
白轟様は俺の懸念を気に掛けている。俺の考えすぎだろうか?しかし、万が一のときこの国の国防に大きな衝撃を与えかねない。そんな懸念。
「この地は随分と流れ者が多いのではないでしょうか?」
「よく分かったな。最近かなり流民が我が領に入ってきておる。原因は知っていよう。東方にて動乱の芽がある。敏感な者らが先んじて国を出ておるのだ。この地には身分を問わぬ鉱山夫を募集しておる故、他の領地に比べて多くの者がこの地に来ておるようだな」
「なるほど。では最近まで他国の者らであったということですね」
「にしても良く気がついたな。何故分かった」
「領地の視察をしているとき、領民と思われる者らの言葉の訛りが微妙にバラバラでした。同じ地で育った者らが、そこまで別の言葉を話すとも思えません。東方の事情を鑑みればおそらくそういうことかと」
しかし、この予想が当たっているのは余り嬉しくない。今白轟様の土地では兵農分離策を用いて4000の兵を従えている。しかしその内の何割かが、最近まで他国に住んでいたのだ。これでは本当に傭兵を抱え込んでいるようなものだ。
万が一にも統率が乱れるのは困る。
「何が不安なのだ」
「私の提示した兵農分離の根本が覆される可能性があります。この地は他の地と同じ政策をしていても意味が無いかと。他国の者を優遇しつつ、元々この地に住んでいた者らとの関係が円滑にいく政策を行う必要がありますね。でなければ、軍を動かすとき白轟様の部隊から崩れかねません」
大将軍の部隊が崩れれば、国軍全体の指揮に関わる。さてどうするか・・・。
「とりあえず皆と仲良くするために必要なものはふれあいでしょう。となれば、1番良いのは」
「祭りは如何ですかな」
紅林殿がそう言った。そう、祭りが1番だろう。
「祭りであるか。確かに銭は余るほどある。が、それで上手くいくか」
「人の心は案外単純なものです。領主から日頃の労いだと言えば多くの者らが参加するでしょう。そして人と人がふれあい、互いに信頼を得る。大盤振る舞いな領主様も民から親しまれる存在へとなるでしょう。有事の際には力になってくれるかと」
「なるほどな・・・。しかし祭りか、面白そうだ。早速用意をさせよう」
と言うわけで、大々的に宣伝した結果この領地に住む多くの者らが参加する規模になった。
ただし残念ながら俺達にそこまで参加する時間は無い。
祭りが成功し、領内が一致団結したと知ったのは白轟様からの使者がやって来て知ったのだ。




