37.期待の者
太陽暦1305年下中旬 高白麗
「久しいな。羽鶴は元気か、鶴翼よ」
大広間にて謁見しておる者は、“旺鶴翼”である。海興国北部の要地を治めておる旺家の長子にして嫡子である。父親の“旺羽鶴”は老体であるが故に、代理として鶴翼が王都に参上しておる。
「お久しぶりにございます。父は相変わらずにございます。まだまだ冗談を言う余裕があるのは、我らが一族の者も安心してはおりますが実際いい歳でございますので」
「そうか。重い病などではないのだな」
「はい」
新年の儀で一部の臣が代理を寄越している。旺家もその1つであり、理由が当主の健康が優れないといったものだった。代わりに鶴翼が参っておった。
「あまり無理をさせるものでも無いな。早いうちに当主の座を譲って貰え」
「そう伝えさせていただきます」
鶴翼は深く頭を下げた。
そもそも旺家とは、海興国にとって重臣の家系の1つなのだ。
その家が揺らぐことは、どんな理由であっても許されん。
「弟には会ったのか。今は領監部棟におるはずであるが」
「はい、昨日会いました。我らが鶴郡をよろしく頼むと言うと「我らは王国の平和を預かる身。身内贔屓は出来ません」ときっぱり断られました」
鶴翼は笑いながら頭をペコペコ下げている。冗談で言っただけだと言いたいようだ。もちろんそんなことは分かっておる。
「旺輝は合格だったようであるな。あそこは優秀な者が多い、存分に学ぶであろう」
「長官は紅林殿と伺いましたが、補佐長殿は存じ上げませんでした。名は確か・・・」
「柳泉であるな」
まだまだ柳泉の名は知れ渡っておらぬか。まぁそれも仕方なきこと。長港宮に頻繁に顔を出す将らなら知っておる。恵楽の地にいた者も知っておるであろう。
ただ、地方を治めておる者らにはまだその名は届いておらぬ。まぁ現在領地行脚に行っておる。嫌でも名を売ることになるであろう。
「その通りでございます。弟がどうやら心酔しておるようにございました故、少々気になりました」
「柳泉とはなかなかの知恵者である。最近我が臣に迎え入れたのだがな、なかなかに面白い男であるぞ」
「私の記憶が正しければ、張希京殿を下贈されたと」
「よく知っておるではないか。希京を守るためと言っておったがな、おそらくアレは惚れておったわ。それも互いにな。であるから、柳泉に下贈を許した」
「そこまでする価値があるということですか?」
「ある。少なくとも今はな」
鶴翼は小さく頷いた。まぁ今は納得できずとも会えば分かることもあろう。
北部の懸念を柳泉には伝えてある。おそらく領地行脚において鶴郡には自ら足を運ぶであろう。
そのとき、旺家の者らに近陵国との対策を練らせれば良い。・・・いや、近陵国は同盟関係になる。正しくは越内国の蛮行の対策、が正しいか。
「我から言えることは、柳泉とは仲良くしておくことだ。ぬしらも知っておるであろう。」
「近陵国との婚姻同盟に関してですな。父も不安に思っております」
「多くの臣らは結ぶべきと申しておる。朱光も乗り気だ。しかし柳泉は今は益があると申しておった。つまり益がなくなるときが来るということ」
鶴翼は目を瞑ったまま黙っておる。そしてゆっくり目を開いた。
「柳泉殿は信用できますか」
「我はしておるぞ、あとは宰相殿もな」
「ほぉ!あの宰相殿が、それはなかなか」
やはり宰相殿の存在は偉大であるな。この一言を言えば大概の人間は驚くのだ。
可笑しくて笑ってしまう。そう不審がるな、何もないぞ。
「柳泉は領監部の仕事として、各領地を回っておる。おそらく鶴郡に向かうのも柳泉であろう。その時は存分にもてなしてやってくれ」
「かしこまりました」
鶴翼が深く頭を下げた。ここからが本番であるな。
「さて雑談はここまでである。今日王都を訪ねてきたわけを聞かせて貰おうか」
鶴翼の顔は我の言葉と同時に引き締まった。
人物紹介(旺家編)
旺羽鶴(61):旺家当主。老齢なため、嫡子を代理として各地に派遣している。鶴郡の領主。
旺鶴翼(28):旺家の長子で嫡子。父の代理として、様々な仕事をこなす。
旺羽(25):旺家の次子。李白雲の下で弓兵部隊長を務めている。




