32.北からの使者
登場人物・地名が増えてきたので近いうちに活動報告にまとめておきます。
土地名鑑
近陵国:海興国の北部に接している国。江一族によって治められている。現当主は江政長。
越内国:近陵国の東部に接している国。朝一族によって治められている。現当主は朝景雨。
近越同盟:上記二国が数代前に結んだ婚姻同盟。代々続いている。
太陽暦1305年1月 初旬 高白麗
新年の儀で、全ての家臣に今後の希望を出させた。
柳泉曰く、文官・武官と言い分ければ分かりやすいと言われ確かにそうだと思うた。
各省の再編も翌日までにと陸宰相と呂伏に伝え任せ、そして武官の方の領地の移動、任命は我と白轟が受け持った。
これに手間取れば国内は全地域において手薄になる。迅速に決定し、早急に実行させる。
今年の三が日は我も臣もその家族らも例年に無いほど忙しくなったであろう。ただし国内の政体はかなり安定した。
「と、思っていたのだがな」
「如何いたしましょう?」
我に前に座っているのは、対外省長官である呉霖であった。
この者は昨年に引き続き対外省長官に就いている。
それにしても随分と厄介な話を持ってきたものだ。
「現状我に北進する意思はない。一見見れば魅力的な提案であると言えるな」
「はい、北部で唯一平地で接地している『近陵国』と婚姻同盟を結べることは双方に利益がございます。さらにこちらを好意的に見ていなかった『江長久』が隠居し、長子の『政長』が跡を継いだとなれば、その同盟もいよいよ現実的なものになりましょう」
北の近陵国は帝都『豊泉』と海興国を結ぶ交通の要所である。しかし、先代江長久が当主の頃の関係は険悪。我が国の商人はその地を通ることが許されておらず、わざわざ海路を使って大きく大陸を迂回しながら交易する必要があった。
しかし先日、ある報せが届く。
江長久が体調を崩し、突如として長子の江政長が跡を継いだのだ。政長はこちらに敵意を持っている様子は無い。忍びからの報告ではそう聞いていた。
これからゆっくりと交易に関する同盟を結ぼうと思っていた矢先の使者である。
我が長子である朱光と、江政長の長女である『江初淀』の婚姻同盟。めでたい話ではある。家格も申し分ない。しかし馬鹿正直に賛成も出来ん。
原因は江家の古くからの同盟相手である『越内国』の朝家だ。奴らは現存する王国の中で2番目に帝家との関係が古い一族であり、新興勢力である我が海興国を快く思っていない。故に近陵国を通って海興国の領内を荒らしておるのだ。
しかし前当主であった江政久は黙認。何の盟約もしていない国に侵入することは出来ず、実質狸寝入りをしている状態であった。
その辺、新たな当主はどうするつもりなのか。そこが分からぬ限りは婚姻同盟など結べるはずも無かった。のだが、それだけでは終わらん。
ここ数日、東部の商人らが少々騒いでおることを青海商会の漢水月より報告を受けておる。
まだ何も起きているわけでは無いが、のんびり構えておくわけにもいかん。その辺は我らよりも商人の方が鼻が利く。
故に北の安寧は最優先事項でもあった。
「頭の痛い話よの。もしや江政長はその辺りも分かっての同盟打診だったのでは無いか」
「・・・否定はできませんな。しかしやはり南以外に敵を抱えている我らとしては、心配事を減らす必要はやはりありましょう」
ハァ。
自然とため息がこぼれた。朱光も今年で13歳。許嫁がいてもおかしな歳では無い。
「仕方が無いな。朱光には我から話しておく。使者には受けると答えておくがよい。政長殿とはいずれまたじっくりと話したいものだ、とも伝えてな」
「はっ」
呉霖は頭を下げて、部屋から出て行った。
あとで宰相殿と白轟に伝えておくか。あとは朱光と朱陽にも伝えておこう。
「呂伏、おるか」
「はっ」
「少し1人にさせよ。それと柳泉を呼んでおけ、少し話があるとな」
「かしこまりました」
あの者も領監部に配属されてからは随分と忙しくしているようだ。補佐長だと聞いた時は随分狼狽えたと紅林に聞いた。
是非ともその顔を拝みたかった、まぁそれはまたいずれであるな。
人物紹介(今回登場人物編)
江長久(57):近陵国の前当主。海興国を好意的に見ておらず、越内国の蛮行を黙認。
江政長(27):近陵国の現当主。海興国に婚姻同盟を打診する。
江初淀(10):江政長の長女。朱光の妻へと打診される。
朝景雨(69):越内国の現当主。海興国を蔑んでおり、領地の接している近陵国を通って土地を荒らしている。




