31.成すべき事、成す者
創世暦47億35年??? ???
目を覚ましたとき、そこは知らない場所だった。
というよりも、周りが真っ暗でどこにいるのかが分からないという方が正しいだろう。足下にも何も無く、地面は無いがそこに確かに立っているという不思議な感覚だった。
「ようこそいらっしゃいました。高柳泉様」
随分久しぶりにその名前で呼ばれた。
真っ暗な空間の中に一筋の光が出現したかと思えば、その光は次第に大きくなりやがて人の形を形成して、実体が現れる。
「あんたは誰だ」
「私は・・・そうですね。龍神様のつかいとでも申し上げましょうか」
人の形を成したそれは一見とても美しい女性だった。ただ、よく見るとそれは人では無かった。
頭からは牡鹿のように立派な角のような物が生えている。目をこらしてみれば肌に鱗のような物も見えた。
龍神のつかいという、冗談ともとらえられる言葉はその事実の元で疑いようのない真実として俺に認識させた。
「俺に一体何の用だ」
「高柳様に龍神様のお告げを伝えにやって参りました。あなたがこの世界で成すべきことをすれば、元の世界に戻ることも出来るでしょう」
「日本に帰れるっているのか?成すべき事とは一体?」
「私にはそこまで分かりません。ですが創世神様は時代の区切りを付けるために転換点となり得る事象を創られます。あなた様もその1つ。龍神様は主である創世神様のご意志の元、あなた様をこの世界へと連れてきたのです」
もう俺の中でこれは夢なんだと割り切っていた。あまりに非現実的なものだと頭の中で結論づけたのだ。
だからこの龍神のつかいなる者の言葉が真実かは分からない。ただ夢と分かった上で1つ聞いておきたいことがあった。
「時代の転換点と言ったが、これまで何がその転換点とやらになった?」
「前時代の生命の消滅。今より高度な文明が隕石の衝突によって全て無になりました。今の人類を創世神様は第二人類と呼んでおります。あとは太陽大陸では無い別大陸の大陸統一、あなたと同じ立場にあった者がそれを成しました。しかし最後は裏切られて死んでおりますね。国も既に滅んでおります。これらは非常に大きな転換点です。他にも小さなことはたくさんあります。しかしその転換の大小を決めるのは、創世神様や龍神様では無くその転換点に選ばれたモノ達です。あなたが何を成すのか、我らは楽しみにしておりますよ」
それだけ言うと、俺の言葉を待つこと無くまた光だしそして闇の中へと消えていった。
俺の意識はそのままあやふやなものへとなっていく。
「はぁ・・・やっぱり夢か」
目を再び開いたときには、ようやく見慣れた天井が目に入る。
横を見れば、隣の布団で眠る希京様がいた。
「にしても新年早々不思議な夢だったな・・・いや、特別な日だからこそだったのかもしれないか」
身体を起こして、自分の手をみた。
俺の成すべきモノ。転換点に選ばれたモノ。まだ俺にそれは分からない。今はまだ流れに身を任せているだけだ。
何度か開いて閉じてを繰り返す。
「はぁ・・・わかんないな。ただ、元の世界に帰れるかも知れないのか」
でもそれはすなわち・・・
今度は隣で眠る希京様に目を向けた。あ・・・
「眠れませんか、旦那様?」
布団に入ったまま、ジッとこちらを見ていた希京様とバッチリ目が合う。
「いや、少し変わった夢を見ました。初夢ですからね、頭の中にしっかりと記憶してしまったようです」
「そうですか・・・。帰られるのですか?元の世界に」
迂闊だと思った。さっき口に出した言葉はしっかりと聞かれていたらしい。
「いえ、そんなつもりはありません。希京様を悲しませるようなことはしません。ですから安心してお眠りください」
外はまだ暗い。早起きだとしてもまだ少し早いのだ。
「そうですか?ではこちらにどうぞ?」
布団を持ち上げて、空いた手で俺を手招きしている。いや確かに夫婦だし、俺も年頃だしそういうのに関心が無いとは言わないが、彼女とかじゃ無くていきなり妻が出来た身としてはやはり覚悟を決める時間は必要だと思ってしまう。
だからここ数日、同じ布団で寝るのは勘弁してくださいと何度も断っているんだ。初日は魅力が無いのだと思いっきり悲しませてしまった。
事情を説明すると一応は納得してくれるのだが、こうして時々誘惑される。
「そんなに怖い顔をしないでください。また雪が降っているようです。こうも寒くては眠れません。ですから一緒に暖をとりながら眠りませんか?」
健全な少年にはあまりに刺激が強いと思った。ちなみにこの世界に誕生日という概念は無い。新年を迎えた瞬間一斉に年をとるので、俺も今日で19歳だ。少年を名乗って良いのか不安になってくる。
ただまぁ確かに寒い。夏は暑いと思ったが、冬はとにかく寒いのだ。
「・・・一緒に眠るだけですからね」
「・・・わかっています。早く来てください。寒くて風邪を引いてしまいますよ」
少し怒ったように頬を膨らませた希京様は、俺の手を引っ張って自身の布団へと引きずり込んだ。
約束通り手を繋ぎ、身体をくっつけて眠ったのだ。
隣では小さな寝息が聞こえてくる。俺は一切希京様の方を見ず、天井を見ながら寝ようと試みた。
結果的に新年早々俺は寝不足になった。




