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30.国の秩序を守る者

2日投稿の予定でしたが、時間が出来たので投稿することにしました。

太陽暦1304年12月終旬 柳泉


 主様の部屋を出た俺と紅林殿は、新部署が出来る新棟へと向かっていた。

「私の倅が恵楽の地にいるのですがね」

 紅林殿はいきなりそう話された。

「はい」

「燕国を釣り野伏せなる策で追い払ったとき、李将軍とともに囮部隊の一員として出陣していたのです。白轟様が率いた援軍は、恵楽での戦いが終わったあとの到着になりましたが、その時城に留守役として残っていたのが倅でした。非常に興奮しておりましたぞ。これまで何度も海興国が手を焼いてきた燕の者らが散り散りになって逃げていったと」

「はぁ・・・」

 そう言われても・・・なぁ?

「倅は主様から策を預けられたと言っておりましたが、真実を聞いて驚いておりました。まさか自分とさほど年の変わらない者からの献策だとわ、とね」

 おかしそうに笑うのは、その時の顔でも思い出したからなのだろうか。俺はまだ笑えないな。

「誰もかれもが言っておりますぞ。この話で柳泉殿を褒めても微妙な顔をするばかりだと」

「俺は・・・俺が前いた場所では人が戦いで死ぬのが当たり前の事ではありませんでした。俺の何気ない言葉1つで何百何千の人が死んだと聞いて、素直に喜ぶことはできません。顔も知らない人たちのことですが、罪悪感で潰されそうです。それが笑えない理由ですかね」

 俯きながら話す。それでも紅林殿の反応が気になって、チラッと紅林殿の表情をうかがい見た。紅林殿は、不思議そうな顔で俺を見ている。

 俺は何か変なことを言っただろうか?

「なるほど、柳泉殿はそう考えるのですな。私ならば、御味方数千と自国の領民数千数万を守れたと考えますな。そもそも攻めてきたのは燕の者らなのですから気を遣うこともありますまい」

「将はそうですが、兵は違うでしょう。嫌々徴兵された人もいたはずです。家族を残して死ぬのはさぞ無念でしょう」

 守るべき存在が出来たから、余計にそう思ってしまう。

「嫌ならば逃げれば良い。張義京が逃げたように、我らの国境は決して厳重で無い。逃げようと思えば逃げれたはずでは?そもそも我らは戦いによって身を守っているのです。あまり深く考えすぎると身が持たぬ。我らはそういう時代に生まれた。だから戦わねばならぬ、そう割り切るほかありませんな」

 紅林殿はあっさりしていた。俺は考えてしまう。

人の生に、人の死を。

 平和な国で生きていたからだろうか。ただ、確かに奪った命もあるが救った命もあったに違いない。そう考えることにした。

 これは俺の心情を良い方向に引っ張ってくれた。

「すぐには無理かも知れませんが、あの献策を誇れるようになりたいですね。俺はこの国の多くの人を救ったのだと」

「それがよろしい。その日が楽しみですな。非情になる必要は無いが、ある程度は覚悟しておくことです。国に仕えるとはそういうことですからな」

 紅林殿の助言を吸収している内に新棟に着いた。

「主様の話では、すでに人員が入れてあるようです。ほとんどがまだまだ若い者らだそうですので柳泉殿と話が合うかも知れませんな」

 笑いながら新たな職場の扉を開いた。

 中にいたのは確かに俺と同じくらいの青年が6人、俺より少し年上らしい女性が1人。

 全員が俺達の方をみて頭を下げた。いゃきっと紅林殿を見て頭を下げたのだろう。

「さて、現状はこれで全員であるな。私は新たに設置される領監部の長官紅林である。そして隣が補佐長である柳泉殿である。これより長い付き合いになるであろう。よろしく頼むぞ」

「「「はっ」」」

 ん?待って、俺紅林殿の下で働けとは言われたけど、そんなこと言われたっけ?

 俺新参者で、数ヶ月前にここに来たんだけどそれやばくね?

 就任初日に反感を買うわけにはいかない。チラチラッと全員の顔色をうかがってみたが誰も不快感をにじませていなかった。

「その話初耳なんですけど」

「言えば拒否されると思われたのでしょうな。柳泉殿が来られる前に私にだけコソッと言われました」

 別に拒否なんてしないよ。覚悟的な意味でも先に言って欲しかった・・・。

 でもどうせ決定事項なんだ。むしろ周りの皆が俺を不思議そうに見ていた。覚悟を決めるしか無い。

「補佐長の柳泉と申します。これからよろしくお願いします」

 誰からも異議は出ない。とりあえずは認められたということなのだろうか。

 となりで紅林殿がおかしそうに笑っているのが気がかりだが、とりあえず良かったということにしておこう。

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