18.裏切り①
話は1ヶ月ほど戻ります
太陽暦1304年7月下中旬 金武錬
親父より5000の兵を預かって7日が経った。オレ達は恵楽平野を目前にした平地に陣を張っており、ただ時を待っている。
親父に与えられた任は簡単なことだった。奴らの兵糧が尽きるのを待って、動きが鈍ったところを5000の兵を使って粉砕せよ、それだけだ。
この戦に勝てば、あの軟弱者を次期当主と騒いでいる連中も黙るしかあるまい。
しかし、父もあれを嫌っている。あれが当主候補として功績を挙げる機会など皆無に等しいのだ。
目前となった勝利に思わず顔がにやけてしまう。いかんな、こんな顔を見せてはお膳立てされた勝利だとバレてしまうでは無いか。
それでも笑いをこらえることは出来なかった。
「玄督よ、海興国の連中はどうしておる?」
天幕の外へ声をかけると、すぐに返事がある。
「今も周辺領主に声をかけて兵糧を集めておるようにございます。しかし敵本隊の到着は、協力者によってかなり遅れる手はずになっておりますので、いましばらく様子見でも問題ありません」
『夏玄督』はオレの初陣から側に仕えている、親父の元側近だ。戦のいろはをオレに伝授してくれている師でもある。
「そうか。それにしても、李雲玉か。奴だけは必ず殺さずオレの前に連れてくるんだぞ。長年親父を苦しめた将を、オレが顎で使ってやれば誰も彼もがオレを認めるだろう」
またニヤニヤがとまらない。
「御意」
玄督が遠ざかっていくのが分かった。代わりに見張りの兵士が天幕の外へやって来た。
今日も何もせず過ぎた。朝起きて、飯を食う。昼飯まで将らと談笑しながら空腹と戦う敵の陣を眺める。そして晩飯を食い、玄督に奴らの様子を聞いてから寝る。1週もこれを繰り返した。
いかんな。この屈強な身体がたるんでしまうわ。
「そちら、今晩もしっかり見張れよ」
オレはそのまま意識をおとした。
どれほど経っただろうか。にわかに外が騒がしい。
「誰かおらぬのか!!」
「敵襲にございます!!」
見張りの者が叫んだのが聞こえた。しかしそれを誰かが諫めている。
「入りますぞ、若」
「おぉ、玄督か。それで敵襲とは?」
「李雲玉率いる敵騎兵数百が夜襲を仕掛けて来たようです。しかし、我が兵士がその突撃を止め反撃を開始したことで逃げ帰って行きました。現在、陣の立て直しを図っております」
今こやつはなんと言ったのだ?陣の立て直し?李雲玉が自ら飛び込んできたのだぞ?
「玄督、急ぎ将らに指示を出せ」
「はっ、それで何と?」
分からぬのか!そう怒鳴りかけて我慢した。今はまだオレの数少ない臣なのだ。離心させるわけにはいかん。
「雲玉を捕らえる。ここで捕らえればオレの名声はあがり、奴らの士気はどん底まで落ちるぞ。急ぎ兵を出させよ!!」
「お待ちください。これはきっと・・・」
玄督が何か言っているが、オレにこの好機を逃すつもりは無い。
「喧しい!!オレが当主になるために必要なことだ!急げ!!」
近場にあった椅子を蹴飛ばした。その椅子が玄督の足に直撃する。苦悶の表情をしたが、その後何も言わずに天幕の外へと出て行った。
「最初からそうしておけば良いのだ。オレも出るぞ!馬を出せ」
外では慌ただしく足音が鳴り響く。そうだ、これでいい。雲玉を捕らえることで全て上手くいく。誰もオレに文句は言わせん。




