人類殺戮の決意
以前の著作を一話にまとめたものです。
1:人類殺戮への決意
私はこの世界が好きだ。
澄んだ青空も
流れゆく雲も
照りつける太陽も
佇む自然も
吹き去っていく風も
透き通っている川も
実をつける木も
生い茂る草原も
野菜を生み出す畑も
何もかもが大好き
なのに、人間たちは
私が大好きなもの全てを
黒くきたない煙で
青空を白い雲を太陽を
汚し続ける
ゴミを投げ捨て
森林を穢し
風に腐臭を纏わして
川の水を汚くする
無粋で無骨な機械で
果実をつける木を薙ぎ倒し
花々の咲き誇る草原を
野菜を生み出す畑を
冷たい人工の大地に埋め立てていく
自分たちこそ、偉いという風に
私が大好きなものたち全てを
破壊し続ける
彼らがやっているのは世界を歪ませている行為
もうすでに元には直せないほど
歪みきってしまった……
ならば私は、世界を破壊しよう
歪みきった世界に終焉をもたらすために
人間たちを滅ぼし尽くそう
そのために私は形を創る
概念から個体へ
人々が伝え謳い称する
災害中の災害を
悠然と大空を羽ばたくコウモリの羽を模した巨翼
全てを防ぎきる絶壁の麟
死神が振るう大鎌にも似た鋭利な牙爪
巨大な爬虫類を思わせる麟に身を包んだ胴体
トカゲの頭部を大きくしたものに、天を貫くが如く生えた一対の白い角
すなわち、ドラゴンへと
姿を変える
さあ、人間たちよ
私という破滅をもたらす暴威に
抗えるものなら、抗ってみなさい
私はあなたたちを根絶やすのだから
これが世界の滅びへの始まり――
2:暴虐の女神
深い悲しみは憎悪に転換しやすいもの
自然を愛するゆえに
人間が自然を破滅させている行為は
概念から個体に
自分の存在を己が愛する自然の暴威へと
変換させてしまうほどに
彼女――女神に憤りをもたらしてしまった
竜となった女神は
口から深悲に満ちた
憤怒の業火を
人間たちへと浴びせる
罪人を罰するように
肉を焼き、骨も形残らぬように
業火の吐息で焼殺戮する
人間たちは女神に立ち向かうも
女神という竜には勝ち得ない
いかなる刃も
絶壁の鱗によって
弾き返され
強固な鎧も
鋭利な牙爪で
たやすく砕かれ
竜殺しの決意も
圧倒的な暴虐の力に
固めた砂を崩されるように
粉々に散らされてしまう
人間たちが築き上げてきた支配を
蹂躙するかのように
竜という暴威は
破壊する
完膚無きまでに
根絶やすために
滅ぼす
人の世の終焉は
眼前へと迫っている――
3:青年の誓い
私は人間たちの殆どを滅ぼした
自らの罪を否定し続ける人間たちを
私の怒りを秘めた業火の吐息で
焼き滅ぼした
修復不可能なほど歪みきった世界に
終焉をもたらすために
彼らに墓は不要
強いて云うならば
骨すらも焼き尽くした
焼原こそが
彼らの墓なのかもしれない
しかし
人間たちは残っている
わずか数十となった人間たち
私は知っている
彼らに戦う意志は
すでに無いと
私は彼らの元へ向かい語りかけた
【残された人間たちよ
お前たちが未だ自然を破壊するならば
私はお前たちを滅ぼそう
しかし、自然を破壊せぬと云うならば
私はお前たちを滅ぼさない
お前たちの返答を
彼の山の頂にて
待っている】
私は己が巨翼を羽ばたかせ
自ら差した山――私が竜となった山――の頂へと
向かい飛んだ
自らが造り上げてしまった
黒炭の焼原を見下ろしながら
†
幾ばくか
太陽と月が巡った後
己が差した山の頂に
一人の青年がやってきた
私と同じ深い悲しみを
その瞳に宿して
「竜さん、こんにちは
あなたの言葉を聞いた僕たちは
みんなで話し合いました
僕たちは自然を破壊しないことに全身全霊を持って誓います
自然が存在しているからこそ
僕たちが存在できていることを
改めて思い知ったのです」
青年の言葉は
まさしく真を得ていた
自然があるからこそ
清涼な空気を生み出し
生物を生かせているのだ
私が滅ぼしていったのは
自分たちの吸っている空気が
ただ当たり前にあると
慢心していたからに過ぎない
【青年よ、あなたの言葉は
まさしく、私が望んでいたとおりの言葉
ゆえに私は誓おう
私はこれ以上の人間を滅ぼさないと
しかし、また人間が
自然を破壊するならば
私はまた人間を滅ぼしにかかろう
そのことを忘れてはならない
私の誓約の証として、これを渡そう】
私は吠えて、この世に現す
青年との誓約の証となる
蒼き石が中央に填められたペンダントを
「ありがとうございます
それではこのことを
みんなに伝えてこようと思います
それでは」
ペンダントを渡された青年は
丁寧な礼をすると
頂から麓へと
駆け下りていった
これで人間を殺めなくてすむ
青年の姿が去るのを見た私は
胸中で安堵の息を吐いた
そして、巨躯を横たわり
瞳を閉じて
意識を微睡みの中へと
落としていった――
fin
次話から本編に戻ります。




