第2話 美羽には言えないこと
美羽の料理は美味しい。
中学生の頃から料理上手で、泊まりに来るたびに食べさせてもらっていた。
中でも私は唐揚げが好きだ。
元々好物だけど、美羽の唐揚げはいくつでも食べられる気がする。
今日も美羽は私のために唐揚げを作ってくれた。楽しそうに料理をしていて、美羽と私と、美羽ママの三人で食べた。
今日は美羽の家にお泊まりだ。
食事を終えたらお風呂に入って、あとは寝るまで二人でゆっくりする時間。
……だから、私は前から美羽に聞きたかった事を聞く。
「美羽ってさ、彼氏作んないの?」
「え。何急に?」
そりゃそうか。
いきなり聞くんじゃなかったかな。
でも想定範囲内。
私は用意していた返事をする。
「いやー、ほら。やっぱり高校生って一回きりじゃん?だから青春しないのかなーって」
「私は……。私は、佳奈と一緒にいる時間が楽しいから、彼氏なんていらないかな」
「ふーん、そっか。そうなんだ」
「反応薄くない?もっと喜んでくれてもいいんだよ?」
嬉しい。
私と一緒にいる時間が楽しいって思ってくれてるんだ。
まぁでも、私たちは中学から仲良いし、楽しくなかったら一緒にいないか。
「……ねぇ佳奈。私の質問にも、ちゃんと答えて欲しいんだけどさ」
「なに?」
「なんで佳奈は彼氏を作るの?」
この質問をされるのは困る。
どれだけよく考えたって、美羽を納得させられる返事ができない。
前にも同じような質問をされた事があるけれど、うまく答えられなかった。
……本当の事は美羽には言えない。
「……別に」
「いや、別にじゃないじゃん。恋人だよ?ちゃんと考えて作んないとダメだと思う」
「私だって……。ちゃんと考えてるよ」
「じゃあ、なんで好きでもない人と付き合うの?男の子、可哀想だよ」
私だって、悪いとは思ってる。
「それは……。でも私に告白してくる人なんて、別に私の事なんて本当は好きじゃない。美羽にだって分かるでしょ」
「そうだけど、でも、おかしいじゃん。それならやっぱり、なんで付き合うのさ」
そんなに責めないでよ。
私だって、こんな事してるのもう嫌だよ。
「……ごめん」
「いや、謝って欲しいわけじゃ。私も、なんか言い過ぎたかも。ごめんなさい」
美羽にそんな顔をして欲しいわけじゃない。
笑っていて欲しい。
その可愛い笑顔を見ていたいと思う。
「そ、それよりさ、なんか楽しい話しよーよ」
「うん、そだね。そう言えばさ---」
私たちへの悪口は。
いや、美羽への悪口はもう聞きたくない。
私は去年、私たちの悪口を偶然聞いてしまった。
いつも一緒にいておかしいだとか、彼氏も作らず二人でイチャイチャしててキモいだとか。
レズだから近づくのやめようだとか。
そんな事を陰で言われてた。
私は気にしない。
けれど、美羽が言われるのは許せない。
……私は、美羽の事がずっと前から好きだ。
美羽には、彼氏を作って欲しくないし、変わらず私のそばにいて欲しいと思う。
だったら、私が男からの告白を受ければいいだけで、そしたら美羽への悪口はなくなると思った。
美羽以外に興味は無いし、きっと好きにはならない。だから他の人と付き合っても手を繋ぎたくないし、キスなんて絶対にしない。
もし、万が一それでも付き合っていく中で私が美羽以外の人を好きになったら、それならそれでいい。
そうすれば、美羽の事も諦められる。
でも、私は変わらず美羽が好きで、それはやめれそうにない。
「ねぇ佳奈?どうしたの?」
「あぁ、ごめん。ぼーっとしてた。なんだっけ?」
「もう、明日なにしようかなって。どこか出かける?」
美羽とだったらどこへだって行く。
笑顔をずっと見ていたい。
「美羽はどこか行きたいところ、ないの?」
「うーん、じゃ動物園!」
「いいよ、またライオン見に行こっか」
「やったー!ライオン、佳奈みたいで好きなんだよねー」
私みたいに好き……か。
本当に告白してくれたら、どれだけ嬉しいんだろ。何度も想像した夢のようなやり取りを掻き消して、美羽との会話に戻った。
***
「なんか、思ったより寒くない?」
「まぁそりゃ、動物園は外ですから」
「そうだけど。美羽は平気なの?」
「動物の方が寒いだろうし、私は平気。はい、手繋ご。そしたら暖かくなるよ」
「……うん」
この動物園には何度も来ている。
美羽はずっと動物園が好きで、私は動物を見てはしゃぐ美羽を見るのが好きだ。
入ってすぐにヒヒ山があり、そこからゆっくりと色々な動物を見て周る。
キリン、シマウマ、ダチョウ、ゾウ。
周り慣れたコースをゆっくりと歩く。
今日は寒いけれど、美羽と手を繋げるから寒い日は悪くない。
それに、動物園は同級生と会うことが無いし、のびのびと美羽と楽しめる。
途中、軽食を食べようとして売店に寄ったら、美羽がお弁当を出してくれた。
「はい、これ」
「いつの間に作ってくれてたの?全然気付かなかった」
「佳奈が準備してる時に、昨日の残りとか適当に詰めただけだから。あんまり期待しないで」
いただきますと二人で言って、お弁当を食べる。
お弁当の中身は、おにぎりと昨日の唐揚げ、そして卵焼きとトマトにブロッコリーが入っている。
綺麗に詰め込まれたお弁当を見て、心の底から幸せを感じる。
私のために作ってくれた美羽のお弁当。
私だけが食べることが出来るお弁当。
「佳奈、美味しい?」
「うん、美味しい。美羽のお弁当より美味しいお弁当なんて無いくらい」
「大袈裟だなー。でもありがとう」
歩き回ってお腹も空いていたから、パクパクと食べてすぐにお弁当は空になる。
ごちそうさまでした。と言ってお弁当箱に蓋をした。
私も美羽にお弁当を作ってあげたら喜んでくれるかな、なんて事を考えてすぐやめた。私は料理は下手だし、きっと美味しくない。
「佳奈は好きな動物、うさぎだっけ?」
「そうだね、うさぎ可愛くて好きだよ」
なんとなく、美羽のイメージがうさぎっぽい雰囲気だから好きなだけで、本当は特に好きな動物はいない。
「うさぎ、見に行く?」
「いや、今日はいいや。今からだと遠回りになるしね」
「そっか、じゃそろそろ次のエリア行こっか」
そうして、再び歩き出す。
キツネやクマ、イノシシや虎を見ながら、上り坂を上がって行く。
そしてお目当てのライオンへ辿り着いた。
ライオンのエリアは他の動物達より広く、こちらとライオン達のいる場所を隔てるのは一面に設置された強化ガラスで、中が一望できるようになっている。
すぐ目の前に四頭のライオンが寝転んでこちらを見ており、迫力が凄い。
大丈夫だと分かっていても、少し怖いくらいだ。
「ねー!見てみて、カッコよくて可愛いねぇ」
「そうだなー。確かにライオンはずっと見てられるかも」
「だよね!ずっと見てたいー」
美羽が今日一番の笑顔でライオンを眺める。
この可愛い笑顔は、私が守りたい。
絶対に誰にも、壊させない。
「……ねぇ、佳奈」
「どうしたの?」
「もう、付き合うのやめなよ」
「え?」
「だから、もう好きでもない人と付き合うのやめなよって」
美羽がライオンを見つめながら言う。
昨日の話の続きだ。
どうしよう。なんて答えたらいいんだろう。
「どうして?」
「……私、寂しいよ。本当に好きな人なら応援するけど。そうでもないのに、佳奈との時間を取られちゃうの、嫌だ」
それは……困る。
美羽に寂しい思いをさせたいわけじゃない。
けれど。
私は、一体どうしたらいいんだろう。
「本当に好きな人とは、付き合えないから」
「誰か、好きな人がいるの?どうして付き合えないの?」
美羽がライオンから私に視線を移して問い詰めてくる。
しまった。
つい口が滑った。
「いや、それは……別に、なんとなくそう思うだけ」
「なにそれ。本当は好きな人がいるんだよね?誰なの?……いつも別に別にって。なんでこの話になると本当のことを教えてくれないの?」
困った。
美羽とは喧嘩はしたくない。
でも言えないものは言えない。
「ほ、ほら。ライオンも困った顔してるぞ。見てよ美羽。あ、奥のライオンもこっちきたよ」
美羽はライオンに見向きもせず、眉間にシワを寄せて私を睨んでいる。
そんな顔も可愛いけれど、本当に怒って欲しいわけじゃない。
「……美羽。そんなに怒んないでよ。ほら、今はデート中だぞっ?楽しもうよ」
「もう……。じゃ一個約束して欲しい」
「なに?」
「今後は本当に好きな人と以外は付き合わないで。約束してくれたら、今日は機嫌直してあげる」
どうやら、美羽は私の叶わない恋を諦めさせてくれる気はないらしい。
それでも私は、今日の美羽に機嫌を直して欲しくて、指切りをした。




