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初めての啓示

「お疲れさまでした!お先に失礼します!」

 

 僕と戸田は部活を終え、諸先輩方に挨拶をして部室を後にした。僕は戸田と廊下を歩きながら駐輪場までちょっとした反省会をした。

 

「ドラムって、すげー難しいんだな~脚とか手とか訳わかんなくなっちまったけど、とりあえずドンっタンっは出来たぜ。」

 

 戸田は歩きながら手やら足やらを上げた動きを見せて難しさをアピールする。

 

「いやいや、さすがにバスドラとスネアを交互に叩くことぐらいは僕でもできるぞ。」

 

 リズムを刻むことが重要なのだか、そのドンタンすら戸田は同じテンポで続けることが出来ていなかった。

 

「そういうなって、これから上手くなるからさ。サッカーやるよりマシかもしんねぇ。」

 

 本当か?どう考えても足だけじゃなく手も使うドラムの方が難しい気もしたが、サッカーを授業以外でやったことがない僕には戸田の感覚は今ひとつ理解できなかった。

 

「ところでそっちはどうなん?」

 

「あー、ベースか……とりあえずドレミは弾けるようになったけどフレットの間が広すぎて指が吊りそうになるのと少し強めに抑えないと上手く音が出せないから、僕もこれからかな。」

 

 左手の指を動かす素振りを見せる。ベースは弦が太い分ネックが長くフレットとの間が広いので僕の短い指では指運びが難しかった。

 

「ま、そだな、まだまだ時間もあるし文化祭のお披露目に間に合うように頑張ろうな。」

 

 皆春先輩の話では軽音楽部の活動としてライブハウスでの実演と学校行事である文化祭で演奏をしているそうだ。僕らにはライブは到底無理なので、まずは10月にある文化祭に向け演奏できるようになることが目下の目標として言い渡された。

 

「じゃあ、また明日な~。」

 

「じゃあな。」

 

 駐輪場に到着するとお互い自転車を引き出して、戸田は僕とは逆方向に自転車を漕いで帰って行った。

 

 僕も自転車に跨り左手を見る。今日初めて弾いたベースのスチール弦で擦れた自分の左指はジンジンするが楽器を弾いた証であると思うと何となく充実した気持ちになった。


 ※


 翌日の朝、いつものように気持ちよく目が覚めた。一昨日見た謎の声が聞こえた夢はやはり夢だったようで昨日は高校生の欲望を満たしてくれるような邪な夢だった。

 

「ハァ、男だから仕方ないよな……」

 

 上体を起こし、ベッドから立ち上がろうとすると何か声が聞こえる。

 

「………………」

 

 外からかと思い、窓のカーテンを開けてみるが誰もいない。

 

「オハヨウゴザイマス」

 

 急に頭の中に女性の声が聞こえ始めた。

 思わず僕は左右を見るが部屋の中には誰もいない。

 

「貴方の夢の実現をサポートするため今日貴方が行うべき行動を啓示します。」

 

 その声はより鮮明に響き、平板ではあるが人に話しかけられているような薄気味悪さを感じた。

 

「うわぁああ!!」

 

 声を上げ僕は思わずベッドの上で立ち上がろうとする。

 

「のわぁ!痛ってぇ!」

 

 ベッドの上でバランスを崩し転げ落ちた瞬間、頭を机にぶつけてしまった。

 

「落ち着いてください。貴方は選ばれたのです。少しだけお話を聞いてください。」

 

 その声は少し柔らかな口調となり僕に続けて話す。

 

「貴方が抱いている夢は実現することで多くの人々を幸せにすることが出来る夢です。私はそんな貴方の夢をどうしても実現して上げたくて、このように貴方の頭の中に話しかけているのです。」

 

 ぶつけた痛みから僕は頭を片手で抑えながら、一昨日の夢を思い出していた。

 

「選ばれる?誰から?どうやって話しかけてるんだ?」

 

 僕は混乱と動揺で言われた内容が全く理解できなかった。

 

「すみません、それは機密事項でお教えすることが出来ません。」

 

「機密事項?一体何をどうやって話しかけてるのか?」

 

「……それもお教えできません……とにかく貴方には私から啓示する課題をクリアして欲しいのです。それら全てをクリアすることで貴方は貴方自身の夢の実現の扉が開かれるのです。だから信じてください。」

 

「くっ、結局何も教えてくれないのに言うことだけを聞いてくれってことか……」

 

 全く腑に落ちない、まず相手の都合にこちらが合わせなくてはならない不公平さに納得できなかった。

 しかしながら少なくとも僕の夢は知っているようだし、本当に実現するサボートをしてくれるのなら、こちらも条件を提示してみるしかない。

 

「わかった、ただ一つだけ条件をのんで欲しい。もし課題を全てクリアして僕の夢が実現されなかった場合、さっき言っていた機密事項となることを僕に教えて欲しい。そうすればキミを信じて僕は課題をクリアするよ。」

 

「…………………………」

 

「わかりました。条件を承認します。ちなみに私はキミではなく、ルカと申します。よろしくお願いします。」

 

 その声の主は僕の条件を飲んでくれた。ついでによく分からない名前も告げられた。

 

「ふぅ、それで今日はどんな行動を取ればいいんだ?」

 

 少しだけ落ち着いた僕は最初にルカが言っていた行動について訊いた。

 

「そうですね、まず前提条件は覚えてますか?」

 

「……恋人を作らない?」夢で言われたことを伝える。

 

「そうです、それが前提条件となります。その上での課題となりますので忘れないようにしてください。高校生だからと言って欲望に負けてはイケマセンヨ。」

 

 なんだコイツ、こっちが話を聞くようになったら、急に距離感詰めて来たな。

 

「とりあえず今日は戸田さんと早瀬さんが会話をしないようにしてください。」

 

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