『部活動』
今日最後の授業が終わり放課となった。
僕は板書の内容をノートに書き留め纏めると家で復習する分を鞄に仕舞い部活に行く準備をする。
「友近~、早く部活行こうぜ。」
戸田が鞄を持って席を立ち、僕に声をかけて来たので「わかった」と返事をして二人並んで教室を後にした。
部室に行くすがら、昼ごはんを早瀬、敷戸、おまけの佐藤くんと食べていた時に戸田がこちらをチラチラ見ていたのが気になっていたので訊くことにした。
「なあ、戸田。」
「んあ?」
「今日僕らが昼ごはん食べてた時、戸田こっち見てたよな?」
「あれはなんだったんだ?」
「……あーあれ?バレてた?、いや大したことじゃないから気にしなくていいよ。」
右手を顔の前で振り、何となくはぐらかそうとする戸田の態度が気になる。
「いや、気になるだろう。他のクラスメートとご飯食べているのにこっちばっか見てくるんだから僕は気になって仕方がなかったぞ。——なぁ戸田、せっかく同じクラスメートで同じ部活の仲間でもあり何より友達にもなったんだから、何か気になる事があるなら教えて欲しい。」
正直なところ戸田の悩み事など僕は興味ないが、はぐらかされるのはすっきりしないので、仕方なく友達という立場を利用して口を割らせようした。
「………………」
暫しの沈黙の後、少し俯き加減の戸田が口を開く。
「んー、実はさ俺と明日香って幼馴染なんだよな。」
これは初耳だ。お互い全くそんな素振りを見せてなかったから僕も全然気付かなかった。もしかして戸田は幼馴染の敷戸明日香が気になってこちらを見ていたのだろうか。一説によれば幼馴染同士が恋愛対象になると聞く。戸田と敷戸は性格も似ていそうだし良い恋人同士にはなりそうだな。と大して知りもしない二人のことを僕は勝手に想像した。
「そうか、敷戸のことが気になってこっちを見ていたんだな。」
「だったら別にチラ見しなくて敷戸に話しかけてもいいんじゃないか?」
人の事は言えないが恋愛対象になると話しかけづらくなる気持ちは僕も一緒だ。
「はぁ!?」しかし、戸田はいきなり血相を変える。
「いやいや、アイツとは話もしたくねーよ。中学の時からアイツさ~何か俺の事を見た目だけで運動音痴でデリカシーない馬鹿なやつってコソコソ言い回ってるらしいからな。」
戸田は顔色を変え、目を釣り上げ唇を噛み締めながら僕の提案を拒否した。僕の予想は全くの正反対だったようだ。
「でもさ、らしいってことは戸田が直接敷戸に言われた訳じゃないってことだよな?それこそ本人に聞いた方が良いとは思うんだが。」
僕は戸田の発言に反駁する。
「そりゃな俺も聞けばいいと思ったから、最初なんであんなこと言うんだよ!って聞いただけどアイツも俺に対して怒っててさ。話も聞こうとしねーんだよ!」
戸田は敷戸の態度を思い返し、腹を立て悔しさを滲ませている。
「とにかく、アイツの話はいいだろ?そもそも友近には関係のない話だし早く部活に行こうぜ。」
一方的に話を切り上げられ、戸田は部室へ早歩きで向かっていった。
やれやれと僕は頭を掻きながらこれ以上話をしても無駄だなと感じ戸田の後について行った。
それにしてもここまで険悪になっているのなら、きっかけがあるはずだが……何か引っかかり少し気にしつつも、二人の事だから関わらない方がいいだろうとそれっきり僕は考えるのをやめた。
今日の部活動は少し楽器を触らせて貰った。僕はベース、戸田はドラムをそれぞれ選択した。ベースは4本の弦が張られており、主にリズムパートとして扱われメロディラインも弾くことが出来る楽器だ。
アンプに繋ぎフレットは触れず一弦目をピックで弾くとドーンとアンプから部屋が震えるほどの重低音が響いた。自分で音を出したことへの感動を感じつつ、横でドラムセットの前に座る戸田を見た。
戸田は座りながら操り人形のようにドラムスティックを持ちながら両手足を一所懸命使って踊っていた。
本当に運動音痴なんだな。直に見せられると残念戸田と思ってしまった。
そもそもドラムはリズムパートの要であり、その四肢を使いハイハット、シンバル、スネア、バスドラムでリズムを刻む。
当然リズム感が必要な楽器でこれが狂うと曲自体が瓦解する。
そんな重要なパートを戸田がなぜ選択したのか理解に苦しむ。あの様子を見ると戸田にはカスタネットがお似合いに見えた。
「ここは右脚でバスドラムをドン、次に左のスティックでスネアをタンって叩くんだ。」
ドラム担当の三佐先輩はダメダメな戸田に丁寧に教えている。優しい先輩だな。
そんな戸田の面白ドラムダンスに見入っていると皆春先輩が僕に近づいてくる。
「今日、早瀬さんは来ないの?」
皆春先輩は早瀬が来ていないことに気づき僕に尋ねてきた。
「……あ、そういえば昼休みの時、今日は家族との予定があるから行けないって言ってましたね。」
僕は戸田のチラ見と敷戸の怒涛の熱弁のせいで、肝心な早瀬からの伝言をすっかり失念していた。
「そうか、まあ予定があるなら仕方ないな」
皆春先輩はそう言い、自分が座っていた場所に戻りギターをアンプに繋げずにリフをシャカシャカやり始めた。
皆春先輩は教える人がいないから暇なんだろうな。
――リフを弾く姿は少し哀愁が漂っていた。




