『敷戸明日香』
朝、学校に向かう途中、昨日早瀬と別れたT字路で再び会った。
「おはよう、友近くん。今日は少し寒いわね。」
春とはいえ今日は寒の戻りで昨日より大分寒く早瀬は水色のマフラーを巻いていた。
「あー、おはよう。」
お互い自転車を一旦停めて挨拶を交わしたが、僕は大して早瀬と話すネタもなかったので再び自転車を漕ぎ出そうとした。
「友近くん、まだ時間も早いし一緒に行きましょ。」
そう言って早瀬は自転車を降りて手で押し始めた。
「わ、わかった」
早瀬の誘いを断れず、仕方なく僕も降りて並んで歩く。
早瀬は男子と二人並んで歩くことを気にしないのだろうか。僕はどうにも人目が気になって仕方なかった。
「そういえば昨日言わなかったけど、一人友達が出来たわ。」
あー、昨日放課後、早瀬と話していた女子だろう。
「へー、だれ?」
「敷戸さん。」
「私ね自分が話したいと思う人以外本当は話したくないの。だからあまり友達を作るのは得意じゃない。」
早瀬は軽々しくそう言うがじゃあ僕は何なんだ。早瀬にとって話をしたい部類に入っているのだろうか。聞いてみたい気持ちもあったがここは黙っていた。
「でも敷戸さん、彼女は凄いわ。休み時間に私のそんな気持ちを無視してグイグイ来るんだもの。さすがに無視する訳にも行かなくて放課後少し話して見ると敷戸さんも音楽やってるみたいで、中学の時からベースをやってるそうよ。私はピアノだから同じ音楽でも接点はないんだけど、今やってるバンドの話とかされて少しだけ聴かせて貰ったの。そうしたら私もいいなって思ってギターに興味を持ったわ。ちょうどピアノも辞めたかったし敷戸さんと仲良くなって色々と軽音楽のことを教えて貰おうと思って友達になったの。」
「そうなんだ、敷戸さんもバンドをやってるだ。まあ僕は軽音楽部に早瀬が来たことが信じられないままだけどな。」
「それはだって、そうじゃないと……」
僕が話した後、早瀬が何か目線を下にやり小声で話していたが、言いにくいことなんだろうと思い何も聞かず再び前を向いた。その後は今日の授業のことなど話しながら二人で登校した。
「よっ、おはよう!」
戸田が僕の肩を軽く叩き挨拶をしてきた。
「早瀬さんもおはよう。」
戸田は早瀬にも挨拶をしたが、早瀬は小声で「おはよ」と答えるだけだった。
今の戸田に対する態度を見ると、早瀬が朝言っていたことは本当なんだなと思ったが、より一層僕に対して彼女の態度が違っていてモヤモヤしてしまった。
午前の授業が終わり休み時間となった。昼ごはんにしようと持ってきた弁当を取り出そうとする。
「ねぇ、一緒にご飯食べない?」
早瀬が僕の横に立ち、話しかけてくる。
二人で食べるのはさすがに緊張する。
「佐藤くんも一緒に食べないか?」
僕は咄嗟に横の席に座り既にご飯を食べている佐藤くんに声をかけて誘った。佐藤くんは「え、あ、うん」と戸惑いながらも席をこちらに向けてくれた。(サンクス、佐藤くん)
「早瀬もさ、ほら敷戸さんとか誘ったらどう?」
「え、いや、うーん……わかったわ。」
早瀬は少し残念そうな顔つきになり、渋々敷戸さんの席に行き話しかけると敷戸さんは二つ返事で早瀬と共に弁当を持ってきた。
「やっほー、友近くん!敷戸です、よろしくね!あ、佐藤くんも!」
この女子生徒が早瀬にグイグイ来る敷戸明日香か、早瀬とは席も離れいるが、今日の様子を見ると単に早瀬だけではなく他の女子とも仲良くなっていたから、わざわざ早瀬のことを気にして声をかけたんだろうな。まあ金色のミディアムヘアーと二重瞼で大きな橙の瞳も彼女らしさが出ていて快活で友達想いのいい子なのかもしれない。
ただ僕には萩原さんとの一件があって正直苦手なタイプだ。
「ほらほら、早くしないと時間なくなっちゃうよ。早瀬さんもこっちこっち。」
敷戸が僕を含め急かしながら準備を進め、とりあえず4人でご飯を食べた。
なぜだか戸田が他の友人とご飯を食べながら、こちらをチラチラ見てきているのが気になったが、敷戸がやたらとバンドのことや楽器のことを熱弁するので僕は彼女の話を聞くのに精一杯になり、それどころではなかった。




