蒼輝祭編 Vol.2(軽音楽部)
軽音楽部の蒼輝祭準備の一幕です。
こうして、蒼輝祭の実行委員に選ばれた僕と敷戸は、明日の放課後に古国府と蒼輝祭の打合せをすることとなった。
そして、今日は軽音楽部の部室でオリジナル曲の打合せを行っている。
*
「ほとんど鍵山先輩が作っちゃたんだよねー、私はサビの部分を少しこうしたらって言ったぐらいで、ほぼ何もやってないよ」
今日は作曲組の2人から原曲のお披露目の日だった。僕と早瀬と戸田は聴き終わると一様に「おぉ、いい曲」と称賛した。しかし、当の鍵山先輩はモジモジと恥ずかしがり、何も話さないので、敷戸が代弁して鍵山先輩が作ってくれたことを強調していたのだ。
「う、うん、みんな、ありがと」
俯いて顔を赤くする鍵山先輩はなんと言うか日に日に小動物のように見えくるな。
とにかく、原曲は出来たのだが問題はここから各パートでアレンジをしなければならない。敷戸を除く僕たちは全くの素人なわけで、到底自分のパートをアレンジをすることは難しい。
しかし、鍵山先輩がそこも見越して準備をしてくれていた。
作曲用に使用しているパソコンを開いて、原曲を機械音でアレンジした音源を聴かせてくれたのだ。機械音なので寸分違わず流れるリズムとメロディは逆に僕たちにとっては分かりやすくて良かった。
うーん、鍵山先輩はこういうところは凄いなと僕は改めて真剣な眼差しで見つめる。
「と、ともちか、くん。は、恥ずかしい、からそんなに、真剣に、見ないで」
僕の熱視線に気づいた鍵山先輩は面白い(先輩に面白いは失礼か)ように顔を真っ赤にして、オロオロと目を泳がせていた。
「こうくん……ヘンタイ」
その横で一緒に聴いていた早瀬が僕へ睨みを利かせながら、ぼそりと呟いた。すまん、早瀬。これはわざとじゃない。
とはいえ、聴くだけでは当然弾くことができないので、鍵山先輩は印刷したTAB譜を僕たちに渡してくれた。
ただ、ベースの分だけはなかったので、それは敷戸に任せるのだろう。僕は渡されたギターのTAB譜をざっと見てみると、そこまで難しくない指運びだったので、歌いながらでもギターは弾けそうな気がした。
「戸田くんと友近くんも、わ、わたしのをベースにしてあ、アレンジして、もらって、も大丈夫だよ」
鍵山先輩はそう言ってくれたが、僕たちはTAB譜通り弾くことすら怪しいレベルなので、素直にアレンジを断ろうとした時。
「マジっすか、じゃあ俺、ドラムをアレンジします」
戸田、一体どこの口がそんなことを言ってるんだ。そもそもお前は鍵山先輩が準備してくれた内容ですら怪しいだろう。まずはそのイミフな頭の中をアレンジした方がいいと思うぞ。
「と、戸田くんは、やる気が、あって、いいね。じゃあ、こ、ここの、フィルをこ、こんな感じ、でもいいよ」
そんな僕の心の声は、当然届くことはなく、鍵山先輩は作曲ソフトを開いて、ドラムパートの一部を調整して戸田に聴かせていた。
「ほう、なるほど、何となく分かりました」
戸田は顎に手を当て頷いていたが、世の中なんとなくって言うのが一番怪しいんだ。
「僕はとりあえずこの通りに弾けるようにしておきます。鍵山先輩ありがとうございます」
ボーカルのこともあるので、ギターのアレンジは考えずTAB譜通り弾くことにした。
「ど、どういたし、まして」
「私はどうすれば?」
早瀬は、モジモジする鍵山先輩にグイっと顔を近づけると、先輩はビクッとして仰け反る。
「早瀬さん、は、メイン、だから、わ、わたしのだと味気、ないから、アレンジはして、欲しい」
「ピアノやって、たんでしょ。だ、だからできると、思うよ」
鍵山先輩は何となくクールな早瀬が怖いのかもしれないな。いつもの緊張しいが極まっている感じがした。
「うーん、ピアノとはまた違うので、できるのか分かりませんけど敷戸さんにも意見を聞きながらやってみようと思います」
早瀬はしばらく首を傾げ、頬に指を当てながら考えていたが、どこか納得して鍵山先輩へ意気込みを見せた。
「う、うん、お願い」
*
部活が終わったあと、僕と早瀬は、途中まで自転車を押しながら一緒に帰っていた。
「ねぇ、こうくん」
「ん?」
「ギターとボーカルは大丈夫そうなの?」
「今やってる3曲は多分大丈夫弾けると思うし、ボーカルもいけそう。それよりもオリジナルかな、正直なところ歌詞は出来ていないし、ギターもこれからだから、蒼輝祭までに間に合わせられるかどうかは分からないな」
「そう、あの、相談なんだけど。歌詞は私が書いてもいい?」
「ん、早瀬が?」
「そう、私歌詞はやってみたいの」
早瀬からなんだか決意じみた感じがするけど、気のせいか。
「別に歌詞を誰が書くとかは決めてなかったから、いいんじゃない?」
「それに、僕はなぜか古国府から蒼輝祭実行委員に選ばれてしまったからなー」
僕は正面を向きつつ、不本意ながら決まったものに苦笑いを浮かべる。
「それについては私は不服だわ。立候補したのに却下されるなんて信じられないわ」
古国府の名前を口にした僕に対して、早瀬は納得いかないといった様子で眉をひそめた。
「まあまあ、何か考えがあってのことでしょ。それに古国府が早瀬に何をやらせたいかは大体想像はつくけど」
「それは何?」
「うーん、給仕じゃない?」
恐らく古国府は、早瀬がどれほど視線を惹きつけることができる存在かをわかっているんだろう。その点では僕も同意見だ。早瀬の容姿でメイド服なんて着させたら、間違いなくメイド喫茶は繁盛する。そうすれば他クラスを圧倒するという古国府の目的は達成することができるはずなのだ。
「私は別に構わないけど、こうくんがちゃんと見てくれるなら」
先程の不機嫌な表情はやわらぎ僕に対して微笑みを浮かべる。
「それはもちろん。約束したからな」
「約束とかじゃなくて……こうくん自身が私のことを見ていたいと思ってほしいの」
「そ、そうか。ごめん」
はっきり言えば、僕は早瀬ならどんな容姿でも見ていたいと思ってる。早瀬のメイド服なんて滅多に見られないからな。そういやこの前試着で見たな。あの店でなぜメイド服がラインナップされているのか全く理解できなかったが。
——そして翌日、古国府との蒼輝祭の打ち合わせで、僕は予想だにしないことを彼女の口から耳にする。
次回は実行委員のちょっと可笑しな打合せです




