軽音楽部の合宿編 Vol.5
水着回です。書きぶりに苦労しました。
合宿最終日、僕たちはホテルでチェックアウトを済ませると午前中はスタジオで練習をした。午後は田ノ浦ビーチへと向かい、待望の『海水浴』となる。
いや、別に待望ではないが、僕以外が、皆楽しみしていたからそういうことにした。
「うぉー、海だー」
「うわ、日差しつよ。めっちゃ焼けそうじゃん」
「う、海、だね。わ、わたしも、す、すこしだけ、およ、ぎたい」
「眩しいわ。私は泳ぐより見せる派だから、日陰で過ごすわ」
「くっ、暑いな。日に焼けたら赤くなって痛そうだな」
田ノ浦ビーチに到着すると、強い日差しが僕たちを容赦なく照らす。僕は手庇を作って砂浜を見渡すと、多くの海水浴客が夏を楽しんでいる姿が目に入った。
(田ノ浦ビーチは別府湾と高崎山を望む人工のビーチで、波止構造で波が非常に穏やかで、夏は多くの海水浴客が訪れる場所だ。)
*
先に水着へと着替え終わった、僕と戸田はレンタルショップで借りてきたビーチパラソルと場所取り用のシートを敷いて準備した。すると女子3人も着替え終わったようで、周囲の視線を集めながら、こちらに向かってきている。
特に早瀬は綺麗だった。美しく整った肢体と白い肌、まるで、そこに美術品が歩いていると錯覚させるほど僕には煌めいて見える。
合わせている水着も、早瀬が好きな少し濃いめの水色のビキニタイプでクールな彼女にはピッタリだった。
敷戸はその明るい性格と健康的な肌に全く違和感のないオレンジ色のフリルワンピースの水着だった。そして、戸田がマジマジと敷戸を見つめていたことは言うまでもない。
鍵山先輩は……普段の性格には不釣り合いなくらい、露出度の高い黒のビキニタイプ。いや、その胸にその布量はおかしくないか。別の意味で周りの視線をくぎ付けにしていた。
「お待たせー」
敷戸はオレンジ色のフリルをくるっと見せつけながら、ウインクをする。戸田は敷戸の可愛らしい水着姿に見とれ、泳ぐ前から熱中症になるのではないかというくらい顔が熱暴走していた。
「こうくん、どうかしら?」
「あー、似合ってるよ」
「ふふ、ありがと」
僕も戸田のことを言えないな。早瀬が少し屈みながら見せる胸元は、はっきりとその大きさが分かるほどだった。そこから主張する谷間は僕の理性を飲み込まんとする艶っぽさがあり、僕は口では平常心を装ったつもりだったが、顔を赤くして思わず生唾を飲んだ。
「わ、わたしは、ど、どうかな、す、すこし、頑張って、みたんだけど」
「鍵山先輩……似合ってますよ。(目のやり場に困るくらい)」
鍵山先輩は本当に海が好きなのか。モジモジ身を捩りながら、緊張しい雰囲気が全開になっていた。
「敦!海行こ、海!」
「海まで競争だー」
「お、待てよ、明日香、あんまりはしゃぐとケガするぞ」
「平気平気、ほら海、冷たくて気持ちいいよー」
いち早く、海に入った敷戸は、追いついてきた戸田に海水を掬って浴びせる。
戸田は思わず「つめた」と目を細め顔を背けるが、すぐに笑顔を浮かべて、敷戸と水幕ができるほどの掛け合いを始めた。
「じゃ、じゃあわたし、もおよいで、くるね」
鍵山先輩はいつのまに準備したのか、大きな浮き輪を腰にはめている。そしてそのまま歩いて海へと入っていった。
鍵山先輩の2つの大きな風船は浮き輪にしっかりと挟まり、流されないように注意しておけば、浮き輪から落ちることはなさそうだなと僕はひとり納得した。
「ところで敷戸は日焼け止めは大丈夫なのか?」
「それは大丈夫、私が背中まで塗ってあげたから」
「じゃあ、早瀬も大丈………」
「私は大丈夫じゃない」
早瀬はいきなり僕の言葉を遮り、傍においてあるバッグから日焼け止めクリームを差し出す。
「こ、こうくんに……塗ってほしいの」
「え!?」
何を言ってるだ早瀬。僕がこんなヌルヌルしたものを、早瀬の白く綺麗な肌に触れて塗り広げてもいいというのか。
「う、うん……こうくんなら、平気かも」
「まてまてまて、それはなんというか……」
「いやなの?」
「いや、嫌じゃないというか、(うれしいというか)……」
早瀬はバスタオルを敷いて、そのしなやかな背中を僕に向けた。そして、振り向く横顔は赤く染まり、艶めかしい流し目で、水着の結び目をゆっくりとほどいていった。
「じゃあ……お願い……こうくん」
早瀬は、紐をほどいた水着を両腕で抱えながら、うつ伏せになると、僕の目の前で無防備となった背中が露わになった。
僕は真っ赤になった顔と震える手で日焼け止めクリームを手に取ると、慎重に蓋を開ける。そして、手のひらにクリームを落とそうとした瞬間。
「おーい!だめだよ。はやっち」
戸田と海から戻ってきた、敷戸が救いの手を伸ばしてくれた。
「ちょっと、いくらなんでもやりすぎだよ。だからさっき塗らなくていいとか言ったんだね」
敷戸は僕から日焼け止めクリームを奪うと手のひらに出して、早瀬の背中にクリームを伸ばしていった。
「あ」冷たさに早瀬はビクッと体を竦ませるが、そんなことお構いなしに敷戸は早瀬の背中全体へ綺麗に塗っていった。
そして、早瀬の水着の紐を結んであげると、早瀬はうつ伏せの体を起こして、顔を赤らめたまま僕の方へ向き直った。
「ほら、はやっちさ、ともちんを見てみなよ。顔を真っ赤にしながら、白目向いて今にも死にそうじゃん」
敷戸は僕の顔を指差し、自分の手を早瀬の肩において説教している。
「う、ごめんなさい。こうくん……」
早瀬は僕の表情を見つめると、俯いてしょんぼりしていた。
「油断も隙もないよね、はやっちは」
敷戸はやれやれと言わんばかりに肩を竦めて、早瀬へ笑顔を向けた。
「じゃあ、今度は4人で海に入ろうぜ」
戸田が先導して、海に向かって走っていく。僕もそれに続く。
早瀬は敷戸と並んで砂浜を歩いて、ゆっくり海へと入った。
そして、僕たち4人は海水を掛け合ったり、泳いだりして、夏合宿最終日の『海水浴』を思いっきり楽しんだ。
「そういや、鍵山先輩は?」
「あ」(4人)
鍵山先輩は沖へ流されそうになっていた。当の本人は楽しそうにしていたが、これ以上は危険なので僕と戸田は鍵山先輩の浮き輪を掴み、浅瀬まで引っ張りながら無事救出した。
*
「さ、か、かえり、ましょう、か」
僕たちの方を振り向いた鍵山先輩は、拳を掲げて先導し、バスへ乗り込んだ。僕たちもその後に続いた。
2泊3日の合宿は練習自体も大変だったが、廻栖野の登場で早瀬へいらぬ誤解を生んだり、海水浴では早瀬に日焼け止めクリームを塗らされそうになったりと僕を悩ますことばかりだった。でも、あの夜に早瀬の気持ちを聞けたことは、率直に嬉しかった。
まだ、宿題もたんまりと残っているから、残りの夏休みは勉強に集中しないといけないな。
次回は幕間⇒文化祭です。




