仲直り大作戦 Vol.6
——僕と敷戸の負けられない勝負が始まった。
『ねこすけ丸』はキーホルダーには珍しく箱に入っているため、橋渡しの設定だ。
僕と敷戸はじゃんけんで順番を決める。僕が勝ったため後攻を選択した。
先攻は敷戸だ。敷戸はお金を入れ、ボタンを押してクレーン操作する。
1回目、やはり自信があるだけある。敷戸はクレーンの左アームを上手く景品の左側に合わせ、続いて奥へと移動させ下降させた。狙い通りいったのか、景品は斜めに傾いた。
2回目から4回目までその操作を繰り返す。
そして5回目、景品の箱は橋の間に斜めの状態でハマった。
6回目、斜めにハマった箱と橋の隙間に左アームを滑り込ませると、景品は落ちる寸前のギリギリの状態で引っかかった。後少しだとわかると敷戸は勝利を確信する笑みを浮かべる。
——最後、敷戸は8回目で景品を獲得した。
「さ、さすがだな。ここまで早く取れるとは思わなかった」
「だから言ったじゃん、これ得意って。それにねこすけ丸はぬいぐるみだから軽いし取りやすいよ」
敷戸は自信満々に話しながら、景品の箱を早速開けて登場した『ねこすけ丸』のぬいぐるみに笑顔で頬ずりをしている。
敷戸の今のアーム捌きを見ると戸田の言っていた気持ちが分かってきた。——確かに敷戸は要領がいい。
今度は僕の番となるのだが、こうなると僕は7回目で取らない限り敷戸には勝てない。
かなりのプレッシャーだ。しかしここで引き下がる訳にはいかない。僕だって男だ、7回目で取ってみせる!
僕はお金を入れ、1回目をスタートさせた。
————(チーン)
僕は負けた。練習では最短8回目で取ることができたから、もしかして勝てるかもしれないと思ったが甘かった。
僕はその場に跪いて、両手を床についた。
「ま、10回目で取れたんならいい方だと思うけど。そんなに落ち込まないでともちん」
言葉とは裏腹に敷戸は両腕を組み、勝ち誇った顔で僕を皮肉っぽく称賛する。
「くっ、敷戸。僕を殺せ……」
「は?何言ってんの?無理じゃん」
敷戸は目を丸くし、呆れたように眉根を寄せた。
「敷戸さん……、こ、友近くんを生かしてあげて」
早瀬は瞳を潤ませ、縋るように懇願する。
「はやっちまで……一体私をなんだと思ってるの」
敷戸は右手に『ねこすけ丸』を持ったまま、やれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
「はぁ……ともちんも、これ結構練習したんでしょ?」
「まあな、ゲーセンなど僕にとっては無縁の存在だったからな」
「わかったよ、仕方ないな~そこまでして気にしてくれてるんなら、話してあげるよ」
「!?」
「とりあえず、ここじゃなんだしさ。場所変えようよ。まだ時間あるし」
「わかった、お情けありがたく存じます」
僕は生まれて初めて、敷戸に平伏した。
*
こうして僕らはゲームセンターの近くにある喫茶店へ足を運んだ。
店内はレトロな昭和?(昭和をしらないが)を思わせるような雰囲気にクラシック音楽が流れていた。
僕らは窓際の4名席に座り、敷戸はホットコーヒーとカップに入ったソフトクリーム、早瀬は紅茶、僕はアイスコーヒーをそれぞれ頼んだ。
「ところでさ、なんで2人はそこまでして、敦とのこと気にしてんの?」
敷戸は肩肘をついて正面の席にいる僕の顔を見ながら訊いてきた。
「あー、それは……」
「それは私から話をするわ」
僕が一瞬言い淀むと、言葉を遮るように早瀬が口を開いた。
「私たち、敷戸さんと戸田くんには仲直りしてほしいの」
敷戸の隣に座る早瀬は体の向きを変えて神妙な面持ちで話し始める。
「ん、まあそうだと思ったけど」敷戸がぼそり。
「それで敷戸さんには軽音楽部に入ってもらいたいと思ってるの」
「理由は、部員が少ないというのもあるけれど、10月の文化祭で軽音楽部が演奏を披露することになっていて」
「私の勝手な思い込みかもしれないけれど、敷戸さんがいてくれたら心強いのもあるし、絶対に盛り上げられると思っているの」
「ふーん、そんなもんかなぁ~。なるほどねぇ、敦がいるからか。」
「まあなんていうかさ、お互いの友達が仲悪いとこちらも気まずいというか、せっかくなんだから4人で夏休みとか遊んだりできるといいなとも思ってるんだ」
夏休みで遊ぶは僕のその場の思い付きだが、事実気まずいことに変わりはない。
「まあ、はっきり言うけど。私、別に敦が嫌いなわけじゃないんだよ」
敷戸は居住い(いずま)を正して、早瀬と僕の顔を交互に見つめながら話し始めた。
——
「敦とは、知ってると思うけど小さい時から遊んだりしてた幼馴染だから」
「いつも一緒だったよ」
「家族ぐるみで仲も良かったから、小学生の時は夏休みによくキャンプとかいってたなぁ。川で魚とったり、虫を捕まえて遊んでたよ」
「休みの日に2人でゲームとかするとね、大体私の方が強いから敦は悔しがって、私も意地になって喧嘩とかしてたけど」
「まあそのあと、外で遊ぶといつものように仲直りしてた」
「そのころはね……今みたいにはならなかったんだよ」
——
「きっかけはね。敦が中学生になった時、部活やるって言いだして、何するのって訊いたら、サッカーっていうから」
「私も応援するねって言ったら、その時は敦も喜んでた」
「まあ敦はスタメンにはなれなかったみたいだったけど、それでも」
「敦がピッチに立ってサッカーをしている姿はカッコよかったよ」
「だから私は一所懸命に応援した。けど」
「何が気に食わなかったのかわからないんだけど、アイツ急にもう応援に来るなって言いだしたの」
「私はどうしてって訊いたけど、教えてくれなかったんだ~」
「それでも私は敦のこと見ていたいから応援してたんだけど、今度は辞めるって言いだして、そのあと本当に辞めちゃった」
「まだ2年の終わりぐらいだったから、最後まで頑張ろうよって言ったんだけど、全然聞いてくれなくて」
「結局、私もそんな敦の態度に腹が立って、もう口も聞きたくないって怒っちゃって……今みたいな感じ」
——
「…………」
敷戸はいつの間にか正した姿勢を崩し、テーブルに肩肘をついたまま、窓際から見える外の景色を眺めていた。
「ありがとう、敷戸さん。言いにくいことを私たちに教えてくれて」
「でも敷戸さん、それって戸田くんのこと好きってことじゃないかしら」
早瀬は、僕が心の中で思っていたことをあっさりと口にした。
「う!……」
敷戸は早瀬を見つめながら、顔を紅潮させた。
「戸田くんに今のこと話したら、きっとわかってくれると思うわ」
「え?いやいやいや、無理無理無理!はやっち、私そんなこと言えないよ」
敷戸は顔を真っ赤にして仰け反り、両手を顔の前で振って、慌てふためいた。
「まあ、敷戸の気持ちを伝えるのはともかく、僕たちはやっぱり仲直りしてほしいわけだから」
早瀬の真剣な顔と、慌てる敷戸を見ていて少し可笑しかったが、戸田の気持ちと敷戸の気持ちは同じだということがわかった。
「そうすると何か戸田と話すきっかけを作った方がいいな」
「少なくとも敷戸はさ、戸田とは仲直りしたいわけだよな?」
僕は念のため、言質を取りたくて敷戸に訊いた。
「まあ、それはね、そう」
敷戸は僕の顔を見て頷く。
「んー、いずれにしても今のままじゃ、何も変わらないから」
「僕と早瀬で戸田と敷戸がちゃんと話し合える場所を作ろう」
僕がそう宣言すると早瀬も無言で頷き、敷戸は「お願い」と軽く頭を下げた。
そこに、店員が現れ、僕らが頼んだものを運んでくれた。
*
「このアイスクリーム、めっちゃ美味しい。」
美味しそうに食べる敷戸の横で早瀬が笑顔で僕に向けてウインクを投げてきた。
(ね、美味しいものを食べてたら何でも話してしまうでしょ?)
そんな意図を視線で僕に伝えてきているようだったが、あながち間違いでもないのかもしれないと僕はひとり納得した。
——「あ、そういえば、私、ともちんがはやっちのことどう思っているか聞いてないけど?」
美味しいものを食べて何でも話すのはいいが、余計なことまで思い出して欲しくないな。
「くっ、敷戸……僕を殺せ」
「は?またやんのそれ?」
次回で『仲直り大作戦』は最後です。




