仲直り大作戦 Vol.2
戸田と友近編です。
——昼休み、僕は戸田が1人でいるところを見計らって声を掛けた。何をしているか分からなかったが、自席で俯きながら、指を忙しく机の上で動かしていた。
「戸田さ、少し先だけど期末テストに向けて一緒に勉強会をやらないか?」
「ん?俺?」
どうやら授業で生成された消しゴムのカスを指でコネコネして、また消しゴムにする最中だった。
何やってんだ……突っ込む気にも慣れないな。
「そう、戸田は物理とか得意だからさ、僕は物理、結構苦手科目だから出来れば戸田に教えて貰いたい」
「別に構わんけど……」
何だか少し勘ぐられてる気もするが僕は続ける。
「それにこの前、数学ヤバかったとか戸田は言ってたじゃないか?逆に僕は数学得意な訳だし、お互い勉強会するメリットはあるだろ?」
「んーまあ確かにな……でも場所はどうすんの?」
「戸田の家でやろう」
「は?」
「実はさ、前々から戸田飯店で食べてみたいと思っていたんだよな」
そう、これは嘘ではない。やはり町中華と言えば安くてボリュームたっぷりが基本と思っている(個人の見解)。せっかく友達の親が営んでいる店なんだから一度は食べておきたい。
「それで勉強会のついでに戸田のところのお勧めを食べさせて欲しい」
「あ、そりゃ勿論、お金は払うよ。当然だ。」
なんか変な言いぶりになってしまった。これじゃまるで奢れと言っているようなものなので、敢えて支払うことは強調した。
「ま、別に問題ないけどよ」
「んで、いつにする?」
「そうだな……今度の日曜日の10時でどうだ?」
「あー俺予定ないな。OK、わかった」
※
——日曜日、僕は9時30分に家を出て、戸田の自宅がある新川の『戸田飯店』へと向かった。
「ピンポーン」
僕は自宅の方に回り、玄関の呼び鈴を鳴らす。
「おぅ、いらっしゃい、どうぞ」
戸田がラフなジャージ姿で玄関先に現れ、僕を招き入れてくれた。
店舗兼自宅のせいか玄関のすぐ近くにドアがあり、そこから厨房へ入れるようになっている。1階は店舗があるため長屋のように細長く、脇には2階へ上がる階段が設けられていた。
僕は戸田に促されるまま、2階へと上がり、戸田の部屋へと入った。
「まあ、大したもんないけどよ。せっかく来てくれたんだしゆっくりしていってよ」
部屋の真ん中には卓袱台があり、そこに戸田が座布団を敷いてくれた。
「友近、喉渇くよな?何飲む?ドリンクバーあるから何でもいいぜ」
「ウーロン茶でいいよ、ありがとう」
「わかった、じゃあ俺はコーラでも飲もうかな」
そう言って、戸田は部屋を出て階段を降りて行った。
取り残された僕は戸田の部屋を見渡す。結構綺麗に整理整頓されており、物もそんなに多くない。窓際には机があり、この前購入したPearlのドラムスティックがおいてあった。
家でも練習しているのかわからなかったが、戸田の部屋にドラムセットを置くだけのスペースはなさそうな感じだった。
僕は何かを見落とした気がして、もう一度机を見ると小さな写真立てが置いてあった。そこには恐らく小学生の時であろう戸田と敷戸が肩を組み笑いあってる姿が写されていた。
——やっぱり……幼馴染なわけだから元々は仲が良かったんだな。
暫くすると階段を上がってくる戸田の足音が聞こえてきたので、僕は見分をやめた。
「おぅ、お待たせ。はいウーロン茶」
「ありがとう」
——早速、僕らは教科書とノートを取り出し、勉強会を開始した。
*
初めてわかったが、戸田は思って以上に教えるのが上手い。僕がわからないところをノートに図を描きながら1つずつ説明をしてくれた。
意外と戸田は教師が向いているんじゃないかと僕は思った。
「うーん、もうお昼すぎてんな」
戸田は伸びをしながら、時計を見る。既に13時前となっていた。
「そうだな、お腹は空いてきた」
「まあ、ぼちぼち空き始めると思うから、ちょっと下に行ってみるか?」
僕らは1階に降りて、さっき見た厨房へ繋がるドアを開けて中に入った。
「父ちゃん、昼いい?」
「敦、みてわかんねぇのか。どう考えても席あいてねぇだろ!」
確かに席はいっぱいで、到底僕らが座れるような席はなかった。
しかも日曜日のピークタイムが凄まじかったとわかるほど厨房は荒れ果て、戸田の父親も含め店員達は戦々恐々としていた。
「あーもう!とりあえず、何か余ったもんでつくってやっから、ちょっと待ってろ!」
「あー、わかった。わりぃな父ちゃん、忙しいのに」
そして僕たちは戸田の父親が即席で作り上げた、チャーハンと唐揚げ、余った麻婆豆腐を受け取り、再び2階へ上がった。
「いただきます」
早速チャーハンをレンゲで掬って、口に頬張る。美味いの一言だ。米はパラパラで食感もいい。これならいくらでも食べられる程、最高だった。
唐揚げも衣がパリパリで中はジューシー。ニンニク醤油の味と混ざり合い、ジューシーな鶏もも肉のおいしさをより引き立てていた。
余った麻婆豆腐も旨辛で花椒が苦手な人でもおいしいと思える、そんな一品だった。
「ごちそうさま、いやー戸田、本当に美味しかったよ」
「まあ俺が作ったわけじゃねぇけどな」
座布団に座りながら、僕たちは両手を後ろに置いて、満腹の溜息をついた。
「なぁ……戸田」
一息ついたところで僕が口を開く。
「ん?」
「なんで戸田は敷戸をそんなに嫌っているんだ?」
僕は神妙な面持ちで訊いた。
「いや、それは友近には関係ないだろう」戸田は反論するが僕はさらに続ける。
「いや、関係はある。はっきり言うが僕は戸田と友達になれたこと凄くよかったと思ってる」
「なんだよ、改まってはずいな」
戸田は少し目線を逸らして、左手で頭を掻いている。
「そんな大事な友達が毎回怒ったり、落ち込んでいたりしている姿をみて、僕は放っておけるはずないだろ」
「だからと言って余計な手出しを僕はしたいわけでもない。ただちゃんと知っておきたいんだ戸田のことを」
「何より戸田が辛いと思っているなら話せる人はいた方がいいし、もちろん僕にもだ。戸田とはお互いそんな関係になれればと思ってる」
僕はまっすぐ戸田を見て、真剣に嘘偽りなく自分が思っているを口にした。
「はぁ……友近~お前、意外と口説くの上手いな。今の言葉、早瀬さん聞いたら泣いて喜ぶんじゃないか」
戸田は目を細め、口角をあげて、僕を茶化しにかかる。
「え。ま、待て。今は早瀬のことじゃ……。それに僕と早瀬はそんな関係じゃないから」
まんまとハマった僕。戸惑い、顔が赤くなる。
「まあ、いいよ。早瀬さんがお前に惚れてんのは見ればわかるからさ」
「いや、だから、早瀬は……」
「そうだな、すまん。俺の話してたもんな」
——戸田は改まって天井を仰ぎ見て、思い出しながら話を切り出した。
「実はさ、中二までは明日香と仲良かったんだよ」
「前に俺がサッカーやってた話したよな?」
「あーそれは知ってる」僕は頷く。
「サッカーの試合がある時、明日香は必ず応援に来てくれてた」
「まあ補欠だったから、俺はたまーに出場するぐらいだったけどよ」
「それでも俺がピッチに立つと明日香は大声で俺に聞こえるように応援してくれて、すごく嬉しかったし、頑張ろうって気にもなれた」
「ただ、どんなに頑張っても俺は上手くなれなかった。明日香が一所懸命に応援してくれていたのに」
「んで、中三になったとき。明日香に応援は来るなって言っちまったんだよな。それは単に応援してもらっているのにカッコいいところを何1つ明日香に見せることができない俺への怒りでもあったわけだよ」
僕はもう一度頷く。
「だから、しつこく応援に来ようとする明日香にその怒りをぶちまけちまった」
「それで明日香が来るなら、サッカーなんて辞めるわって言ったんだ」
「そりゃあ明日香もめっちゃ怒ったわ。でもアイツにはさ、どんなに頑張っても上手くなれない俺の気持ちなんてわかるはずがないんだよ」
「明日香は元々要領よくてよ。ベースを始めた時、最初は全然弾けてなかったのに、毎日ひたすら練習してた。そしたらさ、いつの間にかバンドを組んでライブ出て、さらにファンになる子まで現れたの見ちゃうとさ、俺はもうやってられないんだよ」
「だからそれ以来、アイツと顔を合わせるたびに腹が立つってわけよ」
「そうなんだな。戸田の気持ちはよくわかったよ。話してくれてありがとう」
今の戸田に対して、僕はかける言葉をこれ以上見つけられなかった。いや、寧ろかける言葉は必要ないのかもしれない。
——そして、1つ僕は理解した。
「戸田……敷戸のこと好きだろ?」
戸田の顔がみるみる紅潮していく。図星のようだった。
「おま、んなわけねぇだろ!」
戸田は顔を背け、吐き出した言葉とは裏腹に恥ずかしさで顔はもう真っ赤だった。
「あまのじゃくだな、戸田は」
僕は思わず吹いてしまった。失礼な態度をとったかもしれないが、それでも我慢はできなかった。
「せっかく話してやったのに、笑うなよ~」
いつの間にか戸田も笑っていた。
*
「今日はありがとな。勉強会楽しかったよ。やっぱり持つべきものは素晴らしい友人だな」
僕らは夕方までお互い苦手科目を教え合い、より友情も深められた。
戸田の家を後にして、僕は途中、早瀬にLINEを入れた。
——戸田の気持ちは聞けた。敷戸のこと頼んだよ。
次回は敷戸と早瀬編+αです。




