『友達として』
4月も下旬に入り、あの満開だった平和公園の桜にも新緑が広がり始め、もうすぐゴールデンウィークが近いことを知らせてくれていた。
あの日LINEを交換した後、早瀬は毎日のように昼夜問わず僕に厳つい顔で眉がぶっとい猫なのか人なのかよくわからないスタンプなどなどを送ってくる。早瀬から送られてくるLINEは嫌ではなかったが、さすがに勉強中は気になるので少しだけ我慢して欲しいと思う今日この頃だ。
ちなみにルカからの啓示は最初の課題から1週間後に2回目が啓示された。内容は「早瀬とその日は一緒に帰ったらダメダメ」というものだったのだか、早々と帰ろうとする僕を早瀬はしつこく追い回し、致し方なく一緒に帰ってしまった。
その次の日、数学の抜き打ち小テストが開かれ見事に復習していた筈の公式が思い出せず、初っ端から半分より少し上の点数だった。
落ち込む僕に、夜ルカからまた啓示があり、点数が良くなかったのは課題をクリアしなかったからだとダメ出しされた。
「ちゃんとやらなきゃダメダメですよぉ」
ルカの声は距離感がより近くなってきたと言うよりただ馬鹿にしているようにしか聞こえなかった。
——はぁムカつく……そして今に至る。
※
昼休み皆がいくつかのグループに分かれ歓談している中、僕は午後の授業に向け予習していた。
「なぁなぁ友近よ~、あっちで早瀬さんがお前のことめっちゃ睨んでるぞ」
戸田が窓際に一人佇む早瀬の様子がおかしい事に気付き、僕の元へやって来た。
「ん?」
僕は早瀬の方に視線を向けると確かに僕のことを見ている。そして何か良からぬ事を考えていそうなオーラを出している。そのオーラは周りの生徒にまで及び戸田だけでなく皆が気付いている様子だった。
「なぁ友近、何か早瀬さんを怒らせるようなことしたんじゃないか?」
戸田が早瀬をチラチラ見ながら僕に耳打ちしてくる。
「ま、まあ確かに睨んでいるな……」
「ま、よくわかんねーけど、とりあえず謝った方がいいんじゃないか?」
睨んでいる理由は確かに分からないが、僕は早瀬に何か怒らせるようなことをした覚えはない(多分)。謝る道理が見つからない以上謝罪は返って逆効果になる可能性がある。
「何か怒らせるようなことをした覚えは全くないんだがな……」
「でも、怒ってなくてあんな睨まないだろうよ」
そんなやり取りを続けること数十秒、早瀬が睨みを効かせながら僕の元へゆっくり歩を進めてくる。僕らは何が何だか分からず固唾を呑んだ。
「…………ゴクッ」
「こ、こうくん……」
「ちょっと話いいかな!」
「!」早瀬が僕のあだ名を呼んだ瞬間、皆の視線は僕らに注がれる。僕は瞬時に状況を理解し、これはまずいと思った。急いで席を立ち、早瀬の手を取り教室外の廊下に連れ出した。
「ちょっ……こ、こうくん?どうしたの?」
「は、早瀬、言っただろ?皆に勘違いされるから学校ではあだ名で呼ばないでくれって」
僕は改めて早瀬に懇願する。
「うぅ……そうだった…緊張でうっかりしてたわ」
早瀬は力なくそう答えると、なぜか目線を泳がせ顔が赤くなっている。どうしてそんなに目を潤ませて艶っぽいんだ。
「こ、友近くん……その…手を……にぎっ」
「は!」僕は慌てていたため早瀬の手を握ったままだった。
「あ、ごめん……僕もうっかりしてた」
握った手を素早く離すが、僕の顔まで赤くなってしまい目を逸らしてしまった。
「ふぅ」一度深呼吸をして跳ねた心臓が少し落ち着いた所で早瀬に訊いた。
「それでどうかしたの?」
「えっと……もうすぐゴールデンウィークじゃない?それで最近暖かくなってきたから夏服を買いたいと思うんだけど……」
早瀬は何だかモジモジしながら僕と目を合わせない。
「それで、一緒にこうくんも行かないかなって思って……」
「!」
「あ、あー、いやでも……」(それはデートというものではないか?)
「大丈夫!デートじゃない、友達として付き添って欲しいの」
早瀬は僕の心の声が聞こえた(そんなわけはない)のか僕が喋るより先にデートでないことを強調する。何が大丈夫なのか?同年代の男女が二人で買い物に出かけたら、それはもう誰が見てもデートだろう。
「ねぇ、こうくん、お願い!」
必死になってる早瀬を見ると居た堪れない気持ちになり、僕は仕方なく首を縦に振った。
——ゴールデンウィークは中間テストに向けて勉強しておきたかったのにな。
教室に戻ると何だかざわついている気もしたが何事もなかったかのように僕は自席に戻った。
「早瀬さん、なんだったん?それに早瀬さん何か友近のこと違う風に呼んでた気がしたんだが?」
「いや、普通に呼んでたぞ、聞き違いじゃないか」
どうやらあの視線はあだ名を呼んだことによるものではなかった。なので戸田を含め皆には早瀬が喋った僕のあだ名は聞こえていなかったということだ。僕は安堵の溜息をついて胸を撫で下ろした。
「とりあえず早瀬さんは怒ってなかったよ。実は午前の授業で分からないことがあったらしくて、それをさっき教えて上げてた」
僕は先程のやり取りがバレないよう適当な嘘で誤魔化した。
「まあ、それならいいんだけどよ。にしてもあんなに睨まなくてもいいのにな~本当に何かあったのかと思ったよ」
戸田、本当に良い奴だな。
(キーンコーンカーンコーン)
昼休みが終わり、午後の授業が始まった。
※
授業中にLINEが届き僕のポケットの中でスマホが震える。僕のLINEを知っているのは今のところ戸田と早瀬しかいない。仕方ないのでポケットから気付かれないように取り出し教科書で隠して見る。
「ぶっ」
早瀬はまた厳つい顔の猫だか人だか分からないキャラが投げキッスをしているスタンプを送って来ていた。
「はぁ……」僕は静かに溜息をつき、スマホを再びポケットにしまった。
——頼むから授業の邪魔をしないでくれ。




