第三十七話 彼女の真実
俺は千夏の目をまっすぐに見つめて問う。
「スイが写真をすり替えてたって……どういうことだ?」
「は、はい……先週、何かの写真を持って書庫に入っていく久遠センパイの後ろ姿を見かけて。不思議に思って追いかけたら、ファイルを触ってて……なんか怖くて咄嗟に隠れたんすよ。
それで、久遠センパイが出て行ったあとに確認してみたら……変な写真があったんです。」
スイが俯いたまま言う。
「……千夏ちゃん、私はそんなことしてないよ。」
その言葉に千夏はびくりと肩を震わせた。俺は眉をひそめる。
「スイ……今は千夏の話が聞きたい。変な写真って……?」
「はい……。その写真では……その、真田パイセンが、岩井センセーの息子さんをいじめてたんです」
「え……部長が、いじめてただって……!?」
俺は息を飲んだ。
「……そんなはずない! 部長はいじめなんてする人じゃないぞ! それに、スイが写真をわざわざ差し替えたのなら……この写真には何か細工があるはずだ」
千夏も憂いを帯びた顔で頷く。
「はい……あたしもそう思って。だから、この写真は多分……」
頭の中で一つの仮説が浮かぶ。普段からカメラを持ち歩く彼女ならできること。それは……。
「もし本当じゃないなら、誰かが作った写真ってことになる。捏造写真……ってことか!?」
俺はそう言ってスイを見る。
「……違うよ。私はそんなことしない……。」
彼女は俯いたまま、上着の内ポケットを触っていた。
「それにしても……千夏、そんな重要なことを知ってたのならどうして黙ってたんだよ!?」
その言葉に千夏がびくりと肩を震わせた。
「そ、それは……」
「それを言っていれば、何か変わってたかもしれないのに……!」
千夏は怯えたように体を縮こめた。あの時笑顔が固かったことや、ずっと何かを隠している様子だったのはこのことだったのか。
「……本当に、ごめんなさい……まさかこんなことになるなんて、思わなかったんす。あたしのせいです……っ!」
千夏の顔が真っ青だ。瞳には涙が浮かんでいる。俺は首を振った。今は千夏を責めている場合じゃない。
「……いや、謝って欲しいわけじゃない。悪いのは千夏じゃなくて真犯人だ。……どうして黙ってたのか知りたかっただけなんだ」
「うぅ……」
千夏は鼻を鳴らすと、俯いてぽつぽつと話し始めた。
「……久遠センパイが何か悪いことをして、それを暴けば……センパイが久遠センパイのこと、嫌いになると思ったんす」
「……え? どういうことだ?」
俺は目を丸くする。俺がスイのことを嫌いになる?それが千夏と何の関係があるんだ?
「センパイはわかんないっすよね……。だから、そのぉ……」
千夏はとても言いづらそうにもじもじしている。
「あの……岩センの死体を隠したのも。岩センが行方不明になったらセンパイを慰めて、それで……。とにかく、久遠センパイじゃなくてあたしがセンパイの……いちばんになりたかったんす……!」
「そ、そんな理由だったのか……!?」
俺は戸惑ってしまう。千夏が俺にそんな気持ちを抱いていたなんて。
「う……ほ、本当にすみませんっす……あたしのワガママで……!」
千夏は半泣きで謝った。居た堪れなくて、俺は話を戻す。
「……岩センは、息子が自殺した理由を調べてたんじゃないか? それで捏造写真を見つけて、部長のせいだと思い込んでしまったんじゃないか……。」
「……それで部長を書庫に呼び出して、殺しちゃったってわけっすね……。」
俺は頭を抱えた。岩センは息子を大切に思うからこそ頭に血が登ってしまったのだろう。だがそれは真犯人の思う壺だったのだ。
岩センが部長を信じられていれば……そう思わずにはいられなかった。
千夏が目を伏せる。
「……あたし、勇気を出して岩センの死体の持ち物を調べたんです。書庫から無くなってた捏造写真を持ってるんじゃないかと思って……。でも、持ってたのは一冊の文庫本だけでした。『英雄の旅』ってタイトルで、特に変わった様子もなかったっす。
もしかしたら……真犯人が、岩センを殺したあと奪ったのかもっす。証拠隠滅のために……」
俺はひとつ息をついた。
「そうか……写真をすり替えたのがスイなら、この事件全部に関わっている可能性がある」
目元がこわばるのを感じる。だが、俺はこの事件にけりをつけなければいけない。部長と岩センを奪った真犯人に、真実を突きつけなければいけないんだ。
「スイ……お前のしたこと、全て暴いてやる。」
俺はぐっと拳を握りしめてスイに向き直った。




