第三十六話 偽装工作
「あの時岩センはもう死んでた……もしそうなら、全部が変わってくるぞ!」
俺は自分を落ち着けようと息を吐いた。
「待て……千夏の嘘って可能性もあるよな? どうなんだ、千夏!」
「あたしは嘘ついてないっす! 死体を動かしたことも正直に言ったし……嘘ならもっとマシな話をするっすよ!」
「……確かに、かなり突飛な話だな。本当だとして、岩センが本当に殺されたのはいつなんだ……?」
俺のその疑問に千夏が答える。
「多分……あたしがトイレ行ってる間だと思うっす。あの、その……あたし今日アイス食べすぎておなか壊して……十五分くらい。まあ、その後センパイたちとも食べたんですけど」
千夏は目線を逸らして指をつんつんと合わせた。いや、お腹壊してるのに更にアイスを食うなよ。
俺は岩センがどのように殺されたのかが気になっていた。白衣、ナイフ、刺し傷……犯人の作為には全て意味があるはずだ。
「犯人は、きっと……俺たちに岩センが生きてると思い込ませたかったんだ。」
スイがちらりとこちらを見る。
「……生きてると思い込ませる?」
「犯人は岩センの心臓にナイフを刺して、壁に押し付けて貫いた。その時の傷がコルクボードに残っていたんだ。
そして、犯人は岩センの死体に白衣を着せた。ナイフの部分を違和感なくするために無理やり下に引っ張ったから切れ込みが入ったんだろう。
大きな白衣の前を閉めれば、ナイフと血を隠せるだろうな。」
「なるほど……! そんな狙いがあったんすね。」
俺は犯人の動きを考える。岩センの死体を違和感なく立たせるために、他に何をするだろうか。
「あとは……白衣をかけてあったハンガーを岩センの肩のあたりにかけて、画鋲で固定したんだと思う。それを補助に、ナイフで貫いた状態でコルクボードにもたれかからせれば、死体を立たせることができるはずだ!
そういえば、岩センは白衣のポケットに手を入れてたな。それも自然に見せるための演出だったんだ」
千夏がうんうんと頷き補足する。
「あたしが死体を発見した時、死体の血はある程度拭き取られてた跡があったっす。床に垂れた血も一旦は拭き取ったんでしょうね……また垂れてたから追加で拭き取りましたけど。」
「なるほど……だから俺はあそこで足を滑らせたのか!」
俺は納得した。そして、犯人の正体について考えざるをえなくなる。
千夏が違い、外部犯でもないなら……一人しかいない。信じられないが……。俺は恐る恐るその名を口にした。
「スイ……お前が、やったのか……?」
「………………。」
スイは俯いて何も答えない。金色の柔らかい髪がふわりと揺れた。
その時、千夏が言いづらそうに口を開いた。
「それと……その、わけあって黙ってたんすけど。あたし、見ちゃったんです。
久遠センパイ、先週書庫のファイルの写真をすり替えてましたよね?」
「……は?」
その言葉に、俺の頭の中の情報が組み合わされる。
抜き取られていた、二年前の部長と岩センの写真。そしてスイが先週写真をすり替えたという話。まさか……。
岩センが部長を殺した。真犯人が岩センを殺した。その全てが――繋がっていたというのか?




