第三十四話 主張
日がだんだん傾いて、街がやわらかな金色に染められていく。
「千夏、お前が岩センを殺したのは屋上じゃない。……屋上への梯子の近く、二階の廊下だ」
スイが驚いてこちらを見上げる。
「えっ……そうなの? また死体を移動させたってこと……?」
「ああ、そうなるな。」
俺はスイに頷き、続けた。
「お前は空き教室にあった小道具のナイフで岩センに襲いかかり、心臓を刺して殺害した。その後死体をブルーシートに包んで、運ぶときに血が落ちないようにしたんだ。」
「……廊下に落ちた血は、教室の雑巾か何かで拭いたのかな……廊下が濡れてたもんね。
でも……運ぶっていってもどうやって?岩井先生は確かに小柄だったけど、千夏ちゃんじゃ持ち上げられないと思う……。」
スイが疑問を呈す。俺は指を一本立てた。
「それで筒だよ! 筒だけ妙に埃が落ちていたし、しかも十本近くあっただろ? 犯人は筒を廊下に隙間なく並べて、その上を転がして移動させたんじゃないか?」
「ええっ!? 筒で死体を転がす……!?」
スイが目をぱちくりさせてこちらを見る。千夏は静かに俺を見守っていた。
「死体を梯子の下まで運んだら、次の段階だ。
事前に取り付けておいた台車の車輪を滑車、ホースリールをウインチに見立てて、犯人は即席の滑車を用意したんだ!」
スイが眉を寄せる。
「即席の……滑車? どういうこと……?」
「つまりこういうことだよ。
台車の車輪を外して梯子の真上に車輪を固定し、滑車代わりにしたんだ。そして、ホースを梯子の下の死体に固定して、車輪に通す。」
スイが首をかしげる。
「……死体に、ホースを?」
「最後にホースリールを持って屋上に先に上がり、ホースをウインチみたいに巻いて死体を持ち上げたんだ!」
スイが目をまん丸にして驚いている。
「ええ……! そんなこと、できるの……!?」
「岩センは小柄だし……梯子の通路は、人一人分が登れるくらいの狭さだった。壁に引きずりながらなら持ち上げられるだろう」
俺は拳を握りしめ、千夏を睨んだ。
「千夏……これが、お前の犯行の全てだよ!」
「……センパイ……。そこまで見抜いちゃうなんて、本当にすごいっすね。」
千夏は悲しそうに笑っていた。そして、その表情を引き締める。
「隠してて、ごめんなさい。……確かに、あたしが死体を運びました。
——でも、あたしは殺してません。」
「……えっ!?」
俺は千夏を凝視した。
「言い逃れなんてさせないぞ……!」
俺は一歩前に踏み出す。千夏は俺の視線をまっすぐに受け止めていた。




