第三十二話 真犯人
二階の廊下の、空き教室から離れた端の方。岩センはこの掲示板のコルクボードのあたりにもたれかかっていたはずだ。
コルクボードには特に変わったところはない。画鋲でポスターが貼ってある。少し低めの位置に、スイが作って印刷したばかりの俺たちの劇のポスターが貼ってあった。
「このポスター、良くできてるじゃないか。すごいな、スイ」
「ありがとう。……頑張って作ったから、嬉しい」
スイは少し気恥ずかしそうに微笑んだ。
その時だった。
ポスターに近づいた俺の足がつるりと滑る。床が少し濡れていたのだ。咄嗟に掴んだのは目の前のポスターだった。
大きな音を立てて、スイの作ったポスターが無惨に破れた。俺はそのまま尻もちをつく。
「わ……悪い!足が滑って……」
そう言ってスイを見ると、彼女はコルクボードを凝視して固まっていた。不思議に思って視線を向けた先には――破れたポスターの裏に、刺し傷のようなものがあったのだ。
「……な、なんだこれ!」
五センチくらいの切り込み。血もついている。
「……ど、どういうこと?ここで、何があったのかな」
スイが困惑して俺を見上げる。
「……ハルトくん、分かる?」
「そうだな……。」
俺は顎に手を当てて考える。部長の死体発見のあとにここで何かがあったのだ。
「犯人はこの刺し傷を隠すためにポスターを貼ったんじゃないか?」
「うん……このポスター、空き教室に置いといたから。持ってきたんだと思う」
確かに、他にポスターは貼られていなかった。
「俺が岩センを見てから部長の死を調査している間に、岩センは殺されたはずだ。その間にアリバイがないのは……」
彼女に話を聞かなければならない。俺は眉を寄せた。
机にあった工具。
消えた台車の車輪。
アリバイのない時間。
そして、何かを隠すような笑顔。
「千夏……あいつが、岩センを……?」
俺は上を見上げながらそう呟いた。




