第二十三話 炎
俺たちは屋上からしばらく動けなかった。
部長の死に、岩センの死。
俺はもう何も考えられなくて、涙が出なくなるまで慟哭した。スイと千夏も何も言えずにただ俺を見守っている。
「うう……うううっ……!!」
真夏の日差しが背中を焼く。いっそこのまま焼けていなくなってしまいたかった。
蝉の声だけがうるさく響く。三人の間に生ぬるい風が吹いた。
力なくくずおれたままの俺にそっと声をかけたのは千夏だった。
「せ、センパイ……今どんなに辛いか、あたしには想像もできないっすけど……」
「…………。」
彼女は俯いて一呼吸おくと、胸に手を当てて声を張った。
「……あたしがいますから! あたしは、ずっとセンパイの隣に――」
「……嘘つけ!!」
空気が凍る。もう耐えられなくて、頭を抱えた。
「お前も……お前もどうせ、俺の前からいなくなるんだ! 大切な人が、二人も死んだ……ずっと一緒にいると思ってたのに!!」
「センパイ……」
「……そうだよね。苦しいよね……」
スイも眉を下げて、目元をこわばらせている。
「俺からこれ以上何も奪わないでくれよ……! 平穏な日常も、大切な人も……!
こんな人生、マジで最悪だよ!! クソッ……!」
俺は乱れた息を整える。汗が一筋頬を伝ってアスファルトに落ちた。
悲しみの波が引いてくるにつれ、俺の胸の中に燃えるような熱さがこみ上げてくる。俺は歯を食いしばり、胸を押さえた。涙で滲んでいた視界が少しずつ輪郭を取り戻していく。
犯人は俺から岩センを奪った。絶対に許さない……!
その時だった。
ぐちゃぐちゃの頭の中で、一つの情報を思い出す。俺は呆然として口を開いた。
「……内部犯」
「えっ?」
「……外部犯の可能性はない……岩センも死んだ。だったら……残ってるのは……」
俺はゆっくりと顔を上げて二人を見る。自分がどんな顔をしているか分からなかった。
「この中に……岩センを殺した奴が……!!」
俺は強く、折れそうなほど拳を握りしめた。
二人の顔から血の気が引いた。俺は唇を噛む。
「いくらお前たちだとしても……俺は、犯人を絶対に許せない」
千夏が苦しそうに視線を落とした。
「……そうっすよね……センパイ……。」
スイも眉を寄せて複雑な顔でこちらを見つめる。
「うん……許せなくて当然だと思う」
俺はゆらりと立ち上がる。
「……だから……俺がこの手で、全部暴いてやる」
千夏が驚いた声をあげる。
「……えっ?」
「俺が犯人を追い詰めて、そして……。この事件にケリをつける」
俺は歯を食いしばって前を向いた。
「ハルトくん……」
スイが心配そうに名前を呼んだ。そして、小さな拳を握りしめる。
「……うん。私、最後まで手伝うよ」
「く、久遠センパイ……?」
千夏が怯えたように彼女を見つめる。スイの瞳は、きらりと輝いていた。
「……それがハルトくんの願いなら、私も力になりたい」
「スイ……」
俺は彼女の顔から目を逸らし、背を向けた。
スイが犯人だなんて思いたくない。けれど、この中に犯人がいるなら疑わなければならない。
「……ついてきたいなら勝手にすればいい。けど……俺はお前を信じてないからな」
その言葉が静かに屋上に落ちる。
それだけ言い残して俺は岩センの死体に向き直った。




