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第二十二話 屋上にて

 第二十二話 屋上にて


 

 岩センを問い詰めに二階へ戻るも、そこに岩センの姿はなかった。

「あれ……? どこ行ったんだ。また俺の不運か……?」

 そう言う俺の声には覇気がなく、とても弱々しいのが自分でも分かる。千夏が形のいい眉をひそめて顎に手を当てた。

「もしかして、疑ってるのがバレてどっかに逃げちゃったとか……。」

「……でも、外に出るなら私たちがいた一階を通るはず」

 スイはそう言うと、きょろきょろと周囲を見渡す。そして廊下の奥の一点を指差した。

「……見て。あそこ、上への梯子がある!」

「あ……!」

 千夏も声をあげる。目を凝らすと、夏の熱気の向こうに天井の上へと繋がる梯子が見えた。

「もしかして、この図書館棟……屋上があるのか?」

 だとしたら、そこに岩センがいるかもしれない。

 俺はごくりと唾を飲み込んだ。

 歩き出そうとしても足が固まって前に進まない。ぐちゃぐちゃの頭に思考が浮かぶ。

 ……もしこのまま引き返したら、どうなる?

 部長の遺体が警察に見つかって。転落死として処理されて。岩センは……どうなるか、分からないけど。何も言わなければ、また……いつもの部活に戻れる?

「……ダメだよ……。」

 静かな、切なげな声が響いた。スイだった。彼女の後ろ姿が夏の日差しに照らされている。

「…………えっ?」

「……怖いよね。でも、ハルトくんはあとで絶対後悔すると思うから……私は行った方がいいと思う」

「いや、でも……。」

 彼女の声は弱々しく震えている。それでも彼女は続けた。

「……大丈夫。ハルトくんなら、きっと前に進めるって信じてるから……」

 そう言って、彼女は俺を振り返った。眉が下がり、その瞳は緩やかな弧を描いている。慈愛のような何かが青い炎のように彼女の瞳の奥で揺れていた。

「でも……やっぱり、もっかい警察に連絡したほうがいいんじゃ……?」

 千夏は及び腰で俺の顔色を窺っている。俺はうわ言のように言った。

「……だが……岩センが犯人じゃなかったら、どこかで危険な目に遭ってるかもしれない……。」

 スイは顔を上げる。

「……行こう?岩井先生と、ちゃんと話そう……。岩井先生なら全部話してくれるかもしれない」

「……わ、分かった……。」

 俺は力なくよろよろと進んでいく。千夏が慌てて追いかけてくる足音が後ろから聞こえた。

 俺は細い梯子に恐る恐る手をかける。混乱したまま一段ずつ登っていく。

 会いたい。会いたくない。話したい。何も聞きたくない。思考の渦に飲み込まれ、ただ体を動かすしかなかった。天井の無骨な鉄骨が俺を見下ろす。

 そして、とうとう最後の一段に手を伸ばし、まばゆい日光に顔を晒したとき。俺は眩しさに目を細め、ぱちぱちと瞬きをした。そして、その目を大きく見開く。

 青空と、白と赤。熱気の中、大きな白衣を着た男性が横になっている。そしてその床には……ぬるりとした、赤い、それが。

 岩センが屋上で倒れ、血を流している。

「……………………岩センっ!!」

 俺は梯子から這い出し、震える足で彼に駆け寄った。心臓のあたりにナイフが刺さっている。肩を揺さぶっても返事がない。脈を測ろうと手首をとると、その手は異常に冷たかった。

「……死んでる、のか……?」

 そう言葉にした途端、一気に現実感が襲ってきた。

 何で?本当に死んでる?あんなに優しくて元気だった岩センが?何があった?もう話せない?もう頭を撫でてもらえない?

 自分の中に、ぽっかりと穴が空いたような感覚。あたたかく満たされていた器が割れて、中身が全て溢れてしまったようだった。

「う……うああああああああああっ……!!」

 視界が滲み、喉の奥から声が絞り出される。胸が内側から破られるような痛みが再び俺を襲った。

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