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先月、十八歳の誕生日祝いをしてもらった。
本当の誕生日は式当日なので、その前に開催してもらったのだ。
今年の誕生日会も私の希望通り、昨年と同じ形式だった。
ダグラス様に何度も釘を刺したおかげか、今年の贈り物は私の意見をきちんと聞いてくれた。
二人きりでピクニックに行きたいというささやかな願いをかなえてもらったのだ。
その願いを口にしたときは、少し不満そうな表情を見せたダグラス様だったが、花畑を眺めながらのピクニックは大成功だった。
遠くに護衛はいたが、世界で二人だけになったようでとても特別な時間だった。
ダグラス様に膝枕をしてあげた時は、こちらが恥ずかしくなってしまうほど感動していた。
いよいよ明日は結婚式だ。
招待状の作成や、祝いの手紙への返信。
祝宴会場に飾る装飾やお花の選定。
リンダやルーカス、料理長などいろいろな人の手を借りて一つずつ準備を進めてきた。
当日の流れを何度もダグラス様と確認した。
自室のソファに座り、部屋の隅にある婚礼衣装に目を向ける。
婚礼衣装はお母様に提案していただいた意匠のものに決めた。
上質だと一目でわかるレースや布。
トルソーには婚礼衣装と共に、ダグラス様の背丈の倍以上ある長いヴェールも掛けられている。
初めて仮縫いの衣装を試着した時から二回ほどサイズ変更を行っていた。
日々変化する体型に戸惑うこともあったが、お母様は「大人になった証拠よ」と言って、私を安心させてくれた。
婚姻契約はもう結ばれているが、あの時は夫婦になったという自覚が薄かった。
きっと明日の結婚式を終えたら、私たち夫婦は大きな節目を迎えることになるだろう。
そんな予感がしていた。
「落ち着きませんか?」
レーヌに声を掛けられる。
「そうね。ちょっと落ち着かないみたい。」
私がそう答えると、レーヌがそっとハーブティーを差し出してくれた。
「いよいよ、明日なのね…」
そう呟いた声は空気に溶けて消えていった。
淹れてもらったハーブティーを口に含む。
鼻腔に抜ける香りに気持ちが落ち着いていくのがわかった。
ほっと一息ついているとリンダが部屋を訪ねてきた。
「奥様、明日の最終確認に参りました。」
リンダはそう言いながら報告書を差し出してきた。
さっと目を通すと、そこには当日の参列者や席次、料理などについて詳細に書かれていた。
「きちんと確認するから少し時間をもらえるかしら。」
私がそう言うとリンダは「もちろんでございます。」と言って、手を前で組んだ。
参列者の名簿には王家の方々のほかに、主要な貴族家の当主やそのご子息の名も並んでいた。
だが、やはりコルビダエ伯爵の名はそこになかった。
母の名がないのが少し寂しいが、母は来月私に会いに来てくれるらしい。
西の大陸の大国へと旅立った母は、そこを拠点として周辺国を旅してまわっているらしい。
定期的に届けられる手紙には、それぞれの国で体験した出来事が楽しそうに綴ってあった。
私も一度は経験してみたいと思うが、ダグラス様と離れたくはない。
でも、いつかこの夢は実現するような気がしている。
女の勘というやつだ。
しばらく書類とにらめっこをし、顔を上げる。
「問題ないわ。料理長にもよろしくと伝えておいてもらえるかしら。」
何度も確認したものと同じ内容だった。
明日一番頑張ることになるのは料理長だろう。
「かしこまりました。それでは――」
「リンダ、待って。」
私の言葉を受けて、部屋を下がろうとするリンダを咄嗟に呼び止めた。
突然呼び止められ、リンダが不思議そうな表情でこちらに向き直る。
「ダグラス様はどのように過ごされているのかしら?」
「旦那様はいつも通り執務をこなされております。ですが、どうやら心ここにあらずといったご様子ですよ。」
私の問いに、リンダが微笑ましげに笑って答えてくれた。
ダグラス様も私と同じ気持ちなのかもしれない。
私の胸にあるのは楽しみな想いと緊張、そして未来への希望、そんな気持ちが混ざり合った何とも言い難い感情だった。
ダグラス様も同じだったら嬉しい。
「そういえば、ダグラス様は婚礼衣装を最後まで見に来られなかったわね。」
私がそう呟くと、リンダがふふふと声を出して笑い出した。
「私どもも何度もご覧にならなくてよろしいのですかと申し上げたのですが、旦那様は当日の楽しみにすると言って頑なに拒否されておりましたからね。」
リンダに聞かされた秘話に私も思わず笑ってしまった。
あまりにも可愛らしい理由だった。
私も当日のダグラス様の服装を知らない。
叙勲式の時のような装いを想定しているが、私の心臓が持つかどうかが心配だ。
「リンダにはここへ来たばかりのころから、たくさんお世話になったわね。これからもよろしくね。」
「奥様にお仕えできて幸せですよ。こちらのほうこそ末永くよろしくお願いいたします。」
まるで結婚前の新郎新婦のやり取りみたいねと、リンダと私は顔を見合わせて笑ってしまった。
―――――
その日の夜、私はなかなか眠れずにいた。
結婚式直前だからと、今日は自室でそれぞれ休むことにした。
花嫁が寝不足なんてしてはいけないと思いながらもなかなか寝付くことができない。
寝台から降りて、鏡台に近づく。
鏡台の引き出しから久しぶりに母のハンカチを取り出した。
私の心をずっと支えてくれていたもの。
ここへ来たばかりのころも、母のぬくもりを探して抱きかかえていたっけ…
初めてダグラス様に会ったのは私が倒れた後すぐのことだったな。
あの時は怒っているような気がしたけれど、そんなことはなかったのだと今の私ならわかる。
ダグラス様はいつだって私を思いやって大切にしてくれていた。
服の下から初めての街歩きで買ってもらったペンダントを取り出す。
これも、私が欲しいと言ったわけではないのに、私の視線から察して買ってくださったものだ。
こういう気遣いができるところが好きだなと思う。
この屋敷に来てから私を支えてくれた人たちに一人ずつ想いを馳せる。
リンダ、ルーカス、レーヌ、サリー、アンヌ…そして、私を守ってくれた兵士の方々。
私はたくさんの人の支えで今ここに立つことができている。
その恩に報いることができるのか…
自信はないが、それでも頑張りたいと思う。
寝台に戻り、今度こそ眠るために目を閉じた。
最後までお読みいただきありがとうございます。




